7話 報告 2
「これからご覧いただくのは、世にも奇妙なタイラントベアの亡骸にございます。口喧しく妻の武勇伝を語りたいところではありますが、此度は言葉を惜しみつつ現物の紹介とさせていただきます」
劇団『フロリータ』の団員たちがやっていたような、仰々しい礼を行ってから、アキラに手振りを見せる。
すると建物の中庭である現在地に、タイラントベアの亡骸が現れて、職員や鍛冶職人たちが驚きを露わにする。
「空間魔法、ですか」
「ええ、妻は空間魔法に類似した術を持っておりまして、それらを駆使し、早急にコロニアヴェルデに戻ってきた次第にございます。
ゆえにこの亡骸は新鮮そのもの。腐敗より先にお見せすることが叶いました」
「そうなのですね」
職員は感心したような表情を浮かべている。
杭だとか長距離転移だとかを知ったのは依頼を受けた後だから、嘘っぱちではある。
けれども、こちとら誠意を込めて街道の調査をしていたんだから、全部が嘘ってわけでもない。
二〇日分の食料は半分しか食べれてないから、返せと言われたらこれらで交渉しよう。
「皆様、一つお伺いしたいことがございます。こちらのタイラントベアの外殻は渋い緑色、その上、筒状の突起から高温の炎を噴出しておりました。
それも!簡単には近づけぬほどの高温にございます」
私はアキラに視線を向けて、感想を言ってもらう。
「そうじゃなぁ、肌がチリチリと焼けるような、半端な覚悟じゃあ耐えられぬような熱気であったな、うん」
「こりゃ魔力炉の核の外側と同じ色合いじゃないか?」
「ああ本当だ。見覚えがある」
「そうですね。汚れてはいますが、軽く拭けば橄欖石の様な色合いです。…亡骸そのものはお二方の所有で構いませんが、緑色の殻の一部をいただいてもよろしいでしょうか?」
報酬のためにやるべきことをやろう。
「こちらとしては折角の調査品です。依頼をしてくださった鍛冶互助組合様にお渡ししたいところなのですが、残念ながら私共、魔力炉の核の“現物”は見つけられておりません。
ですのでいかがでしょう、こちらの有する証拠と、タイラントベアの外殻の一部を、鍛冶互助組合の方で買い取ってもらうというのは。
もちろん、荷物を回収していませんので五〇〇ヴェロは必要ありません。
ですが、三〇〇ヴェロのかけられた痕跡や情報の収集以上の仕事はしたと思っております」
アキラはあんな熱っ苦しい相手と大太刀を持ってやりあったんだ。色を付けてもらわないとね。
職員は少しばかり考え込んでから、私たちを見据えて口を開く。
「まずは証拠の提示をお願いします」
「はい、お任せください」
アキラの銀蔵に入れられた、フォルツァカーヴァ総合工房の印字の入った木箱を取り出してもらうと、彼らにはよく見覚えのあるものだったらしく、一同は一度頷く。
次いで私が提示するのは、半分ほど燃えた冒険者証と、血のついた銭入れ。
こっちは首を傾げられてしまったが、どう手に入れたか、その状況を報告していくと、彼らの顔は青ざめていく。
「お嬢ちゃん…もしかしてこいつぁ、冒険者が意図的に起こした事件だってことか?」
「はい。少なくとも木箱を開けた場所付近に、冒険者と思しき亡骸は見られませんでしたので、そう考えるのが無難かと」
「じゃあアレは……」
視線は、異常なタイラントベアに集まっていく。
魔力炉の核、その外殻と同じ色の装甲。そして炎を噴出させる能力。
「私たちの手には余る情報、ですね」
「はい。F級の私たちにもです」
「調査、ありがとうございました。鍛冶互助組合からは、報酬として一三〇〇ヴェロ、そして外殻の一部のみの買い取りを七〇〇ヴェロで行います」
「七〇〇ヴェロもいいのですか?」
「手間賃ですよ。この後、冒険者協会に同行してもらい、事情と発見場所等の説明に協力してもらいますので」
「ここでの話だけでは終わらないんですか…?」
「そりゃあそうでしょう…。大事件の可能性もあるのですから」
まあそうか、そうだよなぁ。
…というか、フォルツァカーヴァに辿り着いた証明はできていないけど、すんなりと一〇〇〇ヴェロを出してくれた。
やることはやったし、その手の条件を緩和してくれた。もしくは達成したと見做してくれたと思おう。
藪をつついて龍でも出た日にゃ大損だ。
「一つ質問なのですが、冒険者協会を通さずに依頼を受けるのって大丈夫なんですかね?…私たち、新米なもので」
「貴女方は、それも知らずに…はぁ…。なんともあべこべな冒険者様ですね」
「すみません。異国の出身でして」
「野良の依頼なんて珍しくありませんよ。冒険者協会で出せる依頼は公募と指名依頼のみ。人によっては特定の冒険者と専属契約することもありますから」
良かった。面倒事になる可能性が一つ減った。
「それでは鍛冶職人の皆様、事態が事態にございます。此度は一度、お引き取りをお願いします」
「了解した。商売はどうしたもんかねえ…」
「お嬢ちゃんたち、空間魔法とやらで、ぴゅぴゅーん!とフォルツァカーヴァまで行って核の受け取りをしてきてくんねえか?」
「そりゃあいい!」
「なんならそっちの、話だけのお嬢ちゃんはどうでもいいからさ」
「それもそうか。口達者なそっちは宿にでも置いとくといい」
なんだろう。いきなり貶され始めた。
冒険者というのは、低く見られやすい立場だから仕方ないけど…問題は私の奥様の方だ。
怒りの感情が伝播してきた。
「この仕事の大半はレンゲがやったようなもんで、儂は刀を振っていたばかりじゃ。…あまり舐めないでもらおうか」
「汗水垂らすのが、仕事ってもんだろう?武器を振るうお嬢ちゃんは立派だよ。それとも、そっちの女にそういう風に言いくるめられているのか?」
「可哀想に。自分よりも年下の相手をいいようにするなんて」
「しかも金金って、薄汚い冒険者はこれだから」
なるほど。これはいい勉強になる。
やっぱり市民権がない、ランクが低いっていうのは、このドラータ共和国において不利に働くんだ。
市民と市民権なしでは、階の段が違うというのが、ここの常識と理解しておこう。
ただ、このまま暴力沙汰に発展しても困るし、彼らの悪口を聞いて鬱憤の捌け口になる気もない。
「何やってるんですか、アキラ様。彼らは住む世界の違う方々、相手をするだけ無駄ですよ。常識が違うんです」
私はアキラの頬に顔を寄せ、彼らに見せつけるように頬へ口付けをする。
「私とアキラ様は一心同体、離れられない関係なんです。依頼をするってなら、口だけの私を通してくださいね」
言い争いなんて時間の無駄。
彼らにだって、銭を稼げない不安やら焦りもあるんだろう。
取り返しのつかない状況になるより先に、私が悪役になって収めちまおう。
私は精一杯、艶っぽい表情を作ってアキラに頬ずりをし、まるで私が彼女を所有しているかのように見せつけた。
彼らも言いたいことがあるのだろう。
もしかしたら私を殴りたいのかもしれない。
ただ、それ以上に私たちがどうしようもない関係なのだと理解して、踵を返して去っていった。
「怠ーる。面倒な小父さんたちを相手にしているんですね」
「あはは、助け舟を出さずすみません」
「いいですよ。職員さんの立場が悪くなったら今後が大変ですし」
職員さんはペコリと頭を下げて謝罪をしてくれた。
彼曰く、普段はあんなに粗暴な態度ではないのだという。時期が悪かったというわけだ。
「レンゲ…」
「そう不服な顔をしないでくださいよ。問題を起こして冒険者協会から追われることになったら、暴言を吐かれるだけじゃ済まないんですから」
「わかっとるわい」
「でもありがとうございます。私のために怒ってくれて。そういう人はいなかったんで、本当に嬉しかったです」
「そ、そうか」
その後、運搬の仕事をフォルツァカーヴァ総合工房に紹介すると提案されたが、アキラが嫌そうだったので断った。
お次は冒険者協会だ。
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