7話 報告 1
アキラの長距離転移により、コロニアヴェルデの近くに降り立った私は、重い足取りで鍛冶互助組合に向かう。
…もう二度とあんな高所に移動しない。身体が痛すぎる。
「ちっとくらい休んでもいいと思うんじゃがな」
「面倒事はさっさと終わらせるに限ります。まあ、何かやることが増えそうな、嫌ぁな予感もしているんです」
「報告して終わりじゃろう?」
「今回の調査、事件といって差し支えないこの件は、冒険者かそれに扮した複数人が関わっていますから」
「冒険者協会に不都合な報告を依頼者にする可能性があるのか」
「そうです。まっ、依頼者である組合から私たちが責められるようなことはなさそうですけど、そこから協会に追及が行くとどうなるかっていう話です。
野良の依頼を受けていいかどうかは、説明されてませんし」
届かない荷物を探すだけの依頼が、こんな焦臭い依頼になってしまうとは、誰にも想像できなかっただろうね。
まあ、この世界の常識に身を委ねる他ない状況だということだ。
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「どうも、ただいま帰還しました」
「あぁ、貴女たちは…」
強面の小父さんらに詰められているのは、疲労の色が見える男。私たちに依頼を出した、鍛冶互助組合の職員だ。
「すまんな嬢ちゃんら。こっちも重要な話があるもんで、少しばかり待っててもらえるかい?」
「こっちも死活問題でな」
「ご苦労さまです。小父さんたちの様子を窺うに、まだ新しい魔力炉の核は届いていないんですかね?」
調査云々はともかく、新しい魔力炉の核は早急に送るべきだと思うのだけど。
「見ない顔だが、お嬢ちゃんらは関係者か?」
「間接的な関係者です。まずそちらの職員さんも苦労されてる側だと思いますし、一旦冷静になって話し合いをしませんか?
コロニアヴェルデとフォルツァカーヴァで、どういったやりとりがあったかも知りたいので」
私が提案すると、厳しい顔の小父さんたちは、ガシガシと頭を掻いてから深呼吸をし、職員に『悪かった』『気が立っていた』と謝罪をし、話し合いの場を作ることとなった。
「助かりました、レンゲ様アキラ様」
「いえいえ、なんとなくですけど平行線のお話なんじゃないかと思いまして」
「色々とありまして…」
場所を移動し、広めの部屋に案内されると、先ほどの小父さんに加えて数人の小父さんらが増えていた。
「んで、お嬢ちゃんらは何処の誰だ?」
「私たちは冒険者をしている、レンゲ・ハリュウと」
「アキラ・ハリュウじゃ」
「冒険者か。渡りに船というかなんというか」
「ただ…ちょいと弱っちそうな二人だな」
「まあF級ですので、実力は察してください」
『F級』という単語を耳にすると、小父さんらは一斉に落胆の色を濃くしていた。
「で、そちらは…鍛冶店や鍛冶工房の職人さんと思ってもよろしいのでしょうか?」
「ああ、そうだ。こちとら核に困ることがないよう定期的に金を払ってんのに、品物が届かないんじゃ詐欺と変わりがない。それでいつ届くのかを聞きに毎日来てるってわけだ」
毎日詰められてたら、あの職員も心労で萎びた長ネギみたいになってしまうだろう。お労しいことで。
「なるほど。私たちが依頼を受けるまで…つまり到着予定を八日ほど過ぎた頃に依頼を受け、私たちが出立してから一〇日ほどが経ちました。新しい魔力炉の核が届いてもいい頃合いでは?」
「それに関しましては、新しい核を運搬していた隊が、街道にて異常なタイラントベアに襲撃されたことで中断、三日前に討伐の依頼が出された次第にございます」
「異常なタイラントベア、ですか」
「お二方は街道で遭遇しませんでしたか?…そもそも、往復には二〇日はかかる予定だったはずですが」
どうやら仕事を放り出して帰ってきたと思われているようだ。
さてと、異常なタイラントベアというのは、アキラと私で戦った個体なのだろうか?
「調査は終えましたし、いくつかの証拠を手に入れ、何が起きたかの推測もできています。帰還が早かったのは、私の妻が優秀だという一点に尽きます」
「見つけたのですか!?」
「残念ながら、魔力炉の核そのものは回収できませんでした。ですがその前に、異常なタイラントベアについて教えてください」
部屋の全員が私たちを凝視する中、私は職員に説明を求める。
「なんでも装甲に覆われ、火を噴き出す不可解なタイラントベアだそうで、C級二人とD級二人の冒険者パーティでは敵わず、荷物を手放して撤退したそうです」
あのタイラントベアで間違いはなさそうだ。
「その冒険者と、フォルツァカーヴァ総合工房の御者は、生きて帰還したんですか?」
「はい、全員生きて帰還したとのことです」
「そうですか。…まず一つ、そのタイラントベアは、妻と私で討伐した可能性が大いにあります。
強固な外殻で身体を覆い、筒状の突起から炎を噴出させるタイラントベアが、複数個体いなければですが」
「F級の貴女方が、ですか?」
「うちの妻は強いので」
ふん、と胸を張るアキラに、職員と鍛冶職人らは怪訝な瞳を向けているが、疑いたくなる気持ちも理解できる。
「汚れてもいい庭があれば、証拠をお見せしますが、いかがしましょう?」
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