6話 北街道 2
街道を進んで四日が経った。
道中では、魔獣討伐の依頼を受けたであろう冒険者を見かけたり、冒険者を雇って街道を行く商人などがいたものの、魔力炉の核を見つけることはできていない。
魔力炉の核を生産しているのは、フォルツァカーヴァ総合工房という大工房で、そこが使用する馬車は工房の印が入っているとも聞いたのだが、その知識を使う機会は今のところない。
「今日中に宿場町に着きたいな」
「ですねぇ。野宿は…大変ですし」
魔獣が出るうえでの野宿というのは、かなり緊張感がある。
アキラがいてくれるから眠ることも、夜の見張りもできるのであり、一人であれば木の虚ででも縮み上がっていただろう。
「しかし、本っ当になんの手がかりも見つかりませんね」
「半日歩くだけの仕事なら、得るものはなかったじゃろうなぁ」
「ええ、そうですね。これから先にあるとも限りませんが」
「じゃなぁ…」
この先の宿場町は、コロニアヴェルデから二日半から三日でたどり着ける距離らしく、道程の三割弱ほど。
私たちがゆっくりと調査できるのは、戻るための時間を転移で短縮できるからだ。
なら『進んだ先に杭を設置して帰れるのでは?』と提案したところ、『無理、死ぬ』と返された。
何ができて何ができないのかが分からない。
さて、調査をしながら足を進めていけば、宿場町に到着した。
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すぐにでも宿を取り、身体を休めたいところではあるが、私はアキラに提案をする。
「聞き込み調査をしませんか?」
「聞き込みとな?」
「はい。見れば、宿の客引きなんかがいるじゃないですか。彼ら彼女らなら、二〇日ほど前にフォルツァカーヴァ総合工房の馬車が通っていたかどうかを、覚えているかもしれません。
通っていたのなら、ここまでの道を引き返せますし、通っていないのなら後ろの心配をせずに前に進めます」
「理にはかなっているが、二〇日も前のことを覚えているかのう?」
「そこは…聞き込みが無駄にならないことを祈りたいですね」
護衛馬車の運搬日数は合計で十二日前後。
ここからコロニアヴェルデまで護衛馬車だと、四日ほどだろう。
そして、荷物が届かずに八日が経ち、依頼を受けてから宿場町に到着するまで、一日と四日。
順当に十七日になるが、大きく見積もって二〇日といったところ。
…期待薄ではある。
ただ、魔獣が出る街道を進む以上、護衛の冒険者の体調は維持したいはず。
いざという時に使えないのなら、雇う価値など無いに等しい。
四人ほどと、馬車の御者を合わせた、計五人での行動になるはず。なら、大人数でも泊まれる宿というのが無難だろうか?
個人個人で宿を取って、バラバラに宿泊するとは考えにくいし、危険は魔獣だけじゃないはずだ。
「まずは大きめの宿を当たりましょう」
「あい分かった」
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いくつか大きめの宿を回り、客引きに話を聞こうと試みたのだが、銭を落とすわけではない私たちは邪魔らしく、追い払われることもしばしば。
一部の宿では相手をしてくれて、客引きに話を聞く機会をもらえたものの、時間が空きすぎていてイマイチ。
宿泊客にフォルツァカーヴァ総合工房と、護衛の冒険者がいないかも調べてくれたが、結果は芳しくない。
『記憶にないなら通っていない』と踏んで、先に進むのが無難だろうが、できることをやってから進みたい。
「やあお嬢ちゃんたち、なにかお探しなのかい?宿ならうちで取ってくれると嬉しいんだけどね」
振り返ると、小さな宿屋の前に五〇代くらいの小母さんが座っており、にこやかに手を振っている。
「宿を後回しにして、ちょっとした調査を行っている最中なんです」
「調査ねえ。お嬢ちゃんたちは冒険者?」
「そうです」
「それで調査っていうのは?」
「フォルツァカーヴァの総合工房からの“ちょっとした素材”が、コロニアヴェルデに届かないというものでして。新米でF級冒険者の私たちに依頼が舞い込んだんです」
「あ〜、それならあそこの宿がお得意様だよ」
「え?そうなんですか?」
「ああそうだよ。うちは見ての通り、ボロでチンケな宿だろう?客も多くなくってね、日がな一日こうして大通りを眺めてるんだよ」
「なるほど。…じゃあ二〇日ほど前に総合工房の馬車はここを通りましたかね?」
「生憎とそれは分かんないね。まあ、あの宿は親切な親父さんが経営しているから、事情を話せば調べてくれるさ」
「ありがとうございます!」
これだけの情報を無賃でもらってしまうのは申し訳ない。
ただ、親切だと言われていても、宿泊自体は交渉材料になるから手元に残しておきたい。
後ろ髪を引かれる思いで、私は小母さんの指差した宿に向かい、調査の協力をお願いしてみた。
すると、親父さんとやらは快く引き受けてくれ、宿泊台帳を調べてくれたのだが、ここ二〇日以内にそれらしい客はなく、私たちの目的地はまだ先のようだ。
そして私たちは、こぢんまりとした宿、小母さんの宿に泊まり、旅の疲れを癒すことにした。
「情報ありがとうございました」
「いいんだよ。むしろ泊まってくれてありがとうね」
「いえいえ、お礼みたいなものです」
「それにしても…ベッドが一つでいいなんて、遠慮しなくていいのに」
「私の妻は同衾を好むものでして」
「儂はな、妻から一時も離れたくないんじゃよ、はははっ」
「仲睦まじいんだね」
実際にそうなんだろうけども、肯定するのは小っ恥ずかしかったので、曖昧に頷いてやり過ごす。
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