5話 ハルバード 3
「これは…ちょっと重いくらい、でしょうか。
私の魔力の量が少ないんで、ほぼ重量差ないくらいに扱えると思ったんですけど、…夢を見過ぎちゃいましたかね」
私がハルバードを元に戻して肩をすくめると、店番の少女はニタニタとイヤらしい笑みを浮かべている。
…あまりいい予感がしない。
「お姉さん演技上手いなぁ、騙されそうになったわ」
「なんのことですか?」
「うちの目はごまかせないよ。随分と、重そうに演技してたろ」
「…。」
私が目を逸らすと、少女はパンと手を打って楽しそうに駆け寄ってきた。
「なあ、お姉さん。あんたはどれくらいの重さに感じたん?うちは持ち上げられないんだよ」
「…木のハルバードと同じくらい、ですかね」
「ほう〜。随分魔力が少ないんだ。なあ、そっちのお姉さんも持ってみてよ」
「ん?まあいいが。―――………ぬ、ぐっ!?なんじゃこりゃあ…」
アキラはムキになって持ち上げようとするのだが、ハルバードは店にくっついたかのように動かない。
彼女は龍気を使っているけども、魔力も十分にあるみたいだ。
「んで、お姉さんはなんで演技なんてしたん?」
「付加価値が出たら、値を上げられちゃうかもしれないと思いまして」
「あ〜、そういうことか。まあ、他の店だったらそうするかも知れんね」
「じゃあ…」
「いいよ、その値段で売ったる。あーいや、なんなら値引きもしていい」
「値引き、ですか?」
「そ。いやねぇ、うちで使う予定の素材の一部が、全然届かなくて、父ちゃんも武器を作れなくなってるんよ。今あるものでも遣り繰りできるけど、こういうことが続いても困るし、調査をお願いしたいんだよね」
「依頼ということですかね?」
「そういうこと」
「私たちF級の新米冒険者なんですけど」
「そうなん?」
「そうなんです」
少女は少し考え込んだが、改めて私たちを見つめると、パッと笑顔の花を咲かせる。
「まあ、半日分だけ街道を遡って、それっぽい荷物がないか見てきてくれるだけでいいよ。それだけで値引いてあげるから」
「ちなみにいくら値引いてくれるんですか?」
「半額」
「え、半額って一九〇ヴェロですよ。結構な額です」
「金に困ってないってわけじゃないけど、ある程度は余裕があるのよ」
随分と気前のいい値引きだ。
このハルバードにはそれほどに価値がなく、届かない荷物というのはそれ以上の価値があるということか。
ただ、なんでこの少女、いやデマルテル鍛冶店は冒険者協会に依頼を出さないんだろうか?
出せないだけの事情があると、踏んだほうがいいはず。
「冒険者協会に依頼を出さないってことは、それなりの理由があると、私は考えています。脅すわけではありませんが、その理由をお聞きしても?」
「ん〜…まあいいか。変に依頼を出すと、依頼を通さずに荷物を探し出して、掻っ払う輩がいるんだよ。冒険者なんてろくでなしがわんさかいる場所でしょ?」
「あー…そういう悪いことを考える人もいるんですね」
「ほら、そういうところ。お姉さんは根っからの悪人じゃなさそうだし、演技をしてたのも値引き交渉じゃなくて、本来の値段の維持に意識を向けてたし」
見透かされているようで、ちょっと怖い。
「まあ、散歩してきてくれたらハルバードは値引きする。見つけてくれたら、なんか色々サービスしてもいいよ」
ランク上げには繋がらないと思うけど、利益を考えれば悪くない話だ。
「アキラ様、どうします?」
「儂はいいと思うぞ。くっくっく、事件の真相究明なんて、面白そうじゃしな!」
「それじゃあ受けようと思います」
「よろしく頼むよ。うちはカミッラ・デマルテル、この鍛冶店の娘だ」
「私はレンゲ・ハリュウで、こちらがアキラ・ハリュウ。嬬妻という女同士での結婚関係にあります」
「ほぉ、珍しいなあ」
カミッラは感心しながら椅子に戻っていき、私たちに手招きする。
「でな、探してほしいのは魔力炉の核なんだ」
「素材って言ってませんでした?」
「あれは嘘。鍛冶の素材なんてだいたい金属で重ったいものだから、嫌がるようだったら見切ろうと思ってた感じでな」
「魔力炉の核とはなんじゃ?」
「魔力を使って火を熾す炉の基本となる魔導具だよ。魔石で作られていて、これがないと炭やら薪やらで温度を維持しないといけないし、そもそもそんな設備はここにない」
「なるほど。魔石は北方で採れるんでしたっけ?」
「そ、勤勉だね」
劇団で色々と聞いた話の一つが役に立った。
「ただね、半日程度行った場所にあるなら、既に誰かが見つけてると思うし、それで届かないのなら望み薄なんだよ」
「それなのに値引きをしてまで依頼を?」
「どうせ売れないし」
売れ残りをうまく活用しようというわけだ。商魂たくましい。
それから、その荷物がどうやって運搬されるのかを尋ねてみる。
生産元からコロニアヴェルデの鍛冶互助組合の預かりになり、そこから個々に配達がされるのだとか。
運搬方法は馬車。
冒険者が護衛に就くらしいが、カミッラは詳しいことを知らないらしい。
「それじゃあ、鍛冶互助組合という場所に行って事情を尋ねてみます」
「そこまでするの?」
「受けた依頼を半端にやって、報酬の割引を受けるのは気が引けますから」
「へぇ〜。冒険者にしちゃ真面目だね」
デマルテル鍛冶店を後にした私とアキラは、鍛冶互助組合に向かう。
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