5話 ハルバード 2
私とアキラは、ブルーノたちから武器の取り扱いをしている店をいくつか教えてもらい、コロニアヴェルデの街を歩いていた。
「アキラ様、銭入れを出してもらえますか?」
「ほれ」
空間龍術によって作り出した異空間、そこにアキラの荷物は多く収まっている。
誰にも手出しができないアキラだけの異空間だから、盗まれる心配がない。だから銭入れはアキラが保管担当だ。
金銭管理は私の役割なんだけども、アキラは自ら買い物をしないので、意外と安心して任せることのできる役回りだ。
「それって私も使えたりしないんですか?」
「『銀蔵』のことか?」
「はい」
「うーむ…。これに関しては、なんかの思いつきやらで真似されたら本気で傷付く」
「それほどに高度で、アキラ様にとって自慢の龍術なんですか」
「そうじゃ」
「じゃあいいです。物の運搬はアキラ様にお任せしますね」
「おう。…まあなんじゃ、空間に“作用”する龍術は構わんが、空間を“作り出す”龍術は、現状のレンゲは目指さん方がいい。曖昧な理解ですることではないのでな」
「心得ました」
私たちがいくつかの店を回ってみると、ハルバードの値段は五〇〇ヴェロ前後で、買えないことはないけども、銭の備えはなくなってしまう。
一日の出費が二人で一〇〇ヴェロ前後なので、五日分の生活費が飛ぶことになる。
「少し安い槍にしちゃいましょうか」
「まあまあ、まだ一軒残っておるんじゃし、判断を急ぐでない。レンゲはハルバードを気に入っとるんじゃろう?」
「特別気に入っているわけじゃないんですけど、叩き斬ったり、突いたり、引っ掛けたりと、色々できるみたいじゃないですか。使いこなせるんならお得かなって思いまして」
「こだわりがないなら、槍でもいいか」
なんて雑談をしながらやってきたのは、あまり綺麗とはいえない雰囲気の鍛冶屋だ。
半分ほど開かれた扉から中を覗いてみると、店らしい雰囲気になっており、数々の武器が並べられている。
意外と店内は小綺麗だ。
店名は『デマルテル鍛冶店』。
「お邪魔します、やってますかね?」
「やってるよ〜」
聞こえてきたのは少女然とした声で、扉を開けて店に入ると、私よりも、アキラの見た目よりも年下な少女が店番をしていた。
年頃は…十三歳程だろうか。
「初めてのお客さん?」
「はい、ハルバードを探してまして」
「ハルバードぉ?誰かのお使いとか?」
「いえ、私が使うものでして」
「はぁー、あんた冒険者か。異国情緒ってのか、風変わりなおべべ着てるけども…ハルバードって。似合わないな」
からからと笑う少女は、だらけた姿勢のまま一方を指さす。
釣られるように視線を向ければ、長物の武器が置かれた一角があり、そこから探せということだろう。
販売されているハルバードは三本。
一本は豪華で凝った意匠の一品で、斧の表面にも彫刻が彫り込まれている。値段は二〇〇〇ヴェロと非常に高額だ。
二本目は四八〇ヴェロ。他の店でも見かけた、特に特徴と呼べるもののない基本的なハルバード。
三本目は…三八〇ヴェロのハルバード。
ただ、安いのにもかかわらず、これといった瑕疵が見つけられず、ただただ安いだけのハルバードに思える。
見た目は、少しばかり黒ずんだ銀色を基調にしつつ、ところどころに青味がかった紫色、紫苑色で紋様が描かれていて、少し豪華な印象すらある。
この紫苑色、アキラの瞳の色に近いか?…いや、比べてみると結構違う。
「…?」
首を傾げるアキラを横目に、私はもう一度、格安ハルバードを確認する。
「やっぱ食いついたな。お姉さん、それに興味出たん?」
「値段の割に綺麗で、どこも悪くないな、と思いまして」
「おー。だけどなあ、安いものってのはだいたい碌なもんじゃなくてね、それもその例に漏れないんよ」
「そうなんですか?」
「そいつはダンジョンで出土したっていう、マジックアイテムの一つなんだわ」
「マジックアイテムっていうと…」
「ダンジョンで手に入る、特殊な道具じゃな」
「そう、御名答。特殊な道具、特殊な力ってのは、“善し”にも“悪し”にもなる。そいつは残念ながら、後者に傾いちゃったみたいだけど」
「なるほど」
危険なものなら避けたほうがよさそうだけど、その悪い力というのを聞いてからでも遅くはないか。
「どういう悪さなんですか?」
「『使用者の魔力量に応じて重くなる』ってのが分かっている効果だよ」
「魔力が多いと、力持ちでも扱うのが難しいと」
「そういうこと。…まあ、ハルバード使うやつなんて、大概が魔力の多くない冒険者なんだけど、そいつは本当に魔力が嫌いらしくて、だいたいの冒険者が持てないほどでね」
なるほど。
魔力量に関しては、私は類を見ないほどに少ないと言われたから、このハルバードを持てる可能性がある。
「試しに持ってみてもいいですか?私、魔力が少ないんですよ」
「いいよ。けど、落とさないでよ。重さが魔力によって左右されるって言っても、それは使い手の感覚に過ぎないからね」
私は、ハルバードの柄に両手を伸ばし、ゆっくりと持ち上げてみると、練習用の木のハルバードと同じか、それよりも軽いくらいの重量だった。
使い手の感覚に過ぎない、という言葉から推測するに、魔力が少な過ぎると軽く感じるのかもしれない。
ただそうなると、このハルバードに付加価値が生まれてしまう。
値段をつり上げてくるような人には見えないけども、人は見かけによらないともいう。
ちっとばっかし小芝居をしようかね。
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