4話 模擬戦 6
「また会ったな、クソ女共」
「……。」
職員に連れられ冒険者協会の一室に入ると、縄で縛られた短剣使いと長剣使いがいた。
文字通りお縄についている。
「逃げても無駄なんです。余計な手間をかけさせないでください」
「うっせー!こっちはC級だぞ?」
「最近は目に余る行動が散見されますから、しっかりと事実をお伝えします。別にC級だろうと処分対象なんです。
特別扱いしてもらいたかったら、素行を良くして、B級での実績を作り、そして市民権を取得してください」
「裏方がいい気になってんじゃねえよ」
「私は元A級です」
「……。」
威勢の良い短剣使いは、胡乱な瞳を職員に向ける。
元A級を名乗った職員は、品のある立ち居振る舞いの老爺。
個人的に、老人という存在は近寄りがたくあるので、あまり関わり合いになりたくない。
「模擬戦を訓練所敷地内で行うことは大いに私も賛同するところです」
「んじゃあなんで俺たちを捕まえたんだよ」
「それは格差のある相手に喧嘩を吹っ掛け、大きな怪我をする可能性があったからです。ランク差のある相手との戦闘行為は、余程注意をしていない限り碌な結果になりません。
運良く、新米のお二人が勝ったようですが…。事情を伺えば…頭に血が昇り、武器も持ったことのない相手に危害を加えようとしたのですよね?」
「あ?魔法を使えてたんだから、問題はないだろ?」
「偶然使えただけの魔法。そうと知ってから加害と伺っておりますが」
「チクったのかよ?だせぇな?」
「まったくだ」
「はぁー…、模擬戦を見ていた者らの証言じゃよ。童らは誰かに噛みつかんと生きてゆけんのか?」
二人は舌打ちをして、職員の方を睨めつけている。
「そもそも、逃げ出した時点で自覚はあるはず。…追跡に捕縛、それらに時間を浪費させられました。
いいですか。C級のお二人は素行の改善、F級のお二人は分相応の行動を心がけてください。でなければ、冒険者証の剥奪は免れませんし、必要であれば処分の対象となります。
心して、冒険者稼業に挑んでください」
私とアキラは素直に返事をし、C級の二人は外方を向いたままだった。
その後、C級の二人は別の職員に連行された。始末書というものを書かされるのだとか。
「…私たちも必要なんですか?始末書とやらが」
「まあ、貴女方は被害者のようなものなので、始末書は十分です。ただ、私からのお説教を受けてもらいます」
「はい…」
「わかった」
「まず第一に。冒険者なんていうのは、貴女方を含めて生まれも育ちもはっきりしない流れ者が多くおり、それらは同業者でありつつも、仲間などではありません。
相手の善性など信じず、必要であれば無視して然るべき相手なのですよ」
「しかしのう、妻を貶されてただで済ますなど、儂の沽券に関わるんじゃ」
「言わせておけばいいではありませんか。その方が大事なのであれば、それを第一にしてください。命なんて脆いものですよ」
「……。」
アキラにとって賛美が何より大切であり、それを邪魔されたことが今回の発端だ。
それを忘れて、私に重きが置かれていることを思うと、うまく立ち回れなかった私にも責任はあるんだろう。
「ああいう驕り高ぶった冒険者や、強引な勧誘をしてくる冒険者は多くいるんですか?」
「少なからずいるといったところです。面倒であれば、複数人でパーティを組み、付け入る隙を作らないことをお勧めしますが、ああいう輩は相手の状況など鑑みずに、自分の要求だけを通そうとしますけどね」
「じゃあどうしたら?」
「勧誘を断り、さっさと逃げる、それだけです。尻尾を巻いて逃げるような情けない冒険者を、追おうとは思わないでしょう」
「大智は愚の如し、ですか」
「外つ国の諺ですか?」
「はい。賢き者は、時に愚者のように振る舞いますし」
「そういうことです。私も貴女方も、賢者には遠い身ではありますが」
その後も職員からの説教は続き、『実力があろうとも、木っ端冒険者の処分など難しくない』と釘を刺されてから、私たちは解放された。
穏やかそうな風貌の職員だったが、釘を刺す時の雰囲気は、迫力がしっかりとあった。
****
安宿に戻った私たちは、寝台に横になる。
「疲れた…」
「今日はすまんかったな」
「いいですよ」
お互いに無事だし、結果的に問題ない。
ただまあ、こういった事態を避けられるよう、今後は立ち回りたいものだ。
「それでなんですけど、なんで私が龍術とやらが使えたんです?」
「いや、分からん。言葉や文字、龍の寿命を与えた際に、龍気も定着したと考えるのが無難なんじゃがな…」
「アキラ様の感情が流れ込んでくるのは、関係ないのですか?」
「え?は?」
「アキラ様が昂ぶったり、安らいだり、怒りを感じたり、そういった感情が私に流れ込んできて、少しの影響を及ぼしてるんですよ」
目を瞬かせているところを見ると、本人の預かり知らぬことらしい。
「……。」
アキラは顔を赤くして口を噤んでしまった。
とても珍しい姿だ。目に焼き付けておこう。
「謀っておるわけじゃ…」
「ありませんよ」
「な、なんで黙っておったんじゃ?」
「こういうものなのかと思いまして…」
「嫌じゃろう、他者の感情が流れ込んでくるなど…」
「今日の、怒りなんかは釣られそうになるんで困りますが、楽しんでるんだぁとか分かって、悪い気はしませんよ」
「むぅ…」
私を必要としてくれるアキラだから、私も悪い気がしないんだろうけどね。
「じゃあ話を戻しましょうか」
「待て、本当に嫌じゃないんじゃな?本当に!」
「嫌じゃありませんよ。強烈な怒りとかは抑えてほしいんですけども」
「わかった。…わかった、気をつける」
アキラは私を押し倒し、熱の籠もった視線で見下ろしてきた。
伝播してきた感情によって、私の心臓の鼓動が速くなり、心の奥底が疼き始める。
私は、私の意思でアキラの唇を受け入れ、多少の破廉恥を許そうと思ったのだが、そういった行為はなく。彼女は昂る感情のまま私に覆いかぶさって、瞳を閉じた。
「おやすみなさい、アキラ様」
「ああ」
十数日の付き合いなのにもかかわらず、ここまで心を許してしまうとは、私も随分と…アキラを気に入っているらしい。
一生の付き合いになるんだから、こういった暖かな感情を持てたのは喜ばしいことだ。
この感情は急ぎすぎず、大切に育んでいこう。
****
翌日。
「のうレンゲ!」
「なんです朝から」
「昨日は良い雰囲気じゃったろ?」
「そうですか?いつも通りだと思いますけどね」
「いいや、いい雰囲気じゃった!だ・か・ら、今日は一日休みにして、しっぽりぬくぬくと交わりの―――ぬううわああっ!?」
私は空間龍術を使って雨戸までの距離を縮め、しっかりと開いてからアキラをそこに置く。
そして縮めた距離を元に戻すと、アキラは外に放り出されていた。
寝て起きたら、ありもしない第三の腕は必要なくなっていた。
身体に馴染んだということだろうか?
「ふぁぁ…ふぅ」
まあいい、今日はなんの仕事を受けよう。
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