4話 模擬戦 5
「声が上擦ってんぞ!」
「なんで当事者同士が驚いているんだよ…。ラッキーパンチだってまるわかりじゃないか」
「ど、どうでしょうね!?」
どうやらハッタリは通用しなかったらしい。
もっと余裕をもって言えれば、多少は思考させる時間を作れたんだろうか。
まあいい、私はやれることをやるだけだ。
…というか、アキラが口をあんぐりと開けて驚いてたんなら意味がないじゃないか、まったく。
私は、三本目の腕で長剣使いに狙いを定め、力いっぱいに引き寄せてやる。
するとどうだろう、私と長剣使いの間にあるはずの空間が、どんどんと潰されていって距離が縮まる。
糸を一本用意して、それを手繰り寄せている感覚だろうか?
空間魔法もどき。空間というのは糸のようなもので、それを手繰り寄せるための力が、あるはずもない三本目の腕ということだと考えよう。
とはいえこれは二度目。
流石に手練れだと思う長剣使いには通じないだろう。
けれども、それを悟られたら元も子もない。
私は自信満々な表情でハルバードを構えて、さっきと同じ状況を作り出そうとする。
カンッ!と木の剣でハルバードを叩かれると、大して鍛えられていない私の腕とハルバードは、軽々と弾かれてしまい、槍先が命中することはない。
長剣使いがこのまま近づいてくれば、私は長剣でぶん殴られてお終いだろう。
攻撃の受け方を知らないんだから、どうしようもない。
ゆえに私は、手繰り寄せた糸を手放し、長剣使いに離れてもらう。
ただし、首の後ろにハルバードの突起がある状態で。
「うぐあぁあ!?」
「おわぁっ!?」
長剣使いの首がハルバードの突起に引っかかると、ものすごい力で引っ張られて、私は柄から手を離してしまう。
すると引っかかった衝撃と、それを手放したことによる反動で、長剣使いは上下真っ逆さまの状態で元の位置に戻った。
「え、おい。うわあぁ!?」
そのまま頭から落下した長剣使いは、鈍い音を鳴らすと同時に静かになってしまう。
高さはなかったものの、頭から落ちたのは良くないはず。
「えっと、中止しませんか!?様子を見たほうがいいです!」
「てめえがそれを言うかよ!」
「待って待って!」
短剣使いに模擬戦の中断を求めるも、彼は怒りの形相で私を睨み、そのまま猛進してくる。
ハルバードは長剣使いと共に遠くに行ってしまい、私の両手は空いたまま。
短剣使いが肉薄すると、彼の真上にアキラが現れて刀を振り下ろす。
「『閃耀』!」
タイラントベア相手に見せた一撃を短剣使いに叩き込むと、彼は白目を剥いて地面に転がった。
「アキラ様!手当手当!あの人、頭から落ちちゃいましたよ!」
「おう、そうじゃの!」
私が大急ぎで駆け寄ると、見知らぬ別の冒険者が既に長剣使いの許におり、様子を見ているではないか。
手当の心得がある人だと助かるんだけど。
「あの〜、大丈夫そうですか?」
「ちょっと待って、治癒魔法をかけてるところだから」
どうやら怪我を治せる魔法使いらしい。
訓練所ってことだし、模擬戦なんかも行われているから、そういった魔法使いがいても不思議じゃないか。
それにしても、魔法とは便利なものだ。
それから少しして、短剣使いと長剣使いは無事目を覚まし、私とアキラに悪態をついて去っていった。
思うところは多々あるが、あっちから引いてくれるんなら、これ以上言うこともない。
とんでもない模擬戦を経験した私は、地面に腰を下ろしてから、アキラに体重を預ける。
「いやぁ驚いた、レンゲも空間魔法を使えたんだな」
「魔法とは毛色の違う、故郷の技術じゃよ。龍に連なる術で龍術という」
「そうなんですね」
「レンゲも知らなかったのか…」
「はい、まったく」
詳しいことはアキラと二人っきりの時に話そう。
「ホント、無事でよかったですよぉ」
「心配をおかけしました」
「まったくだ。ただ、レンゲにも戦える力があるって分かってよかったね。冒険者稼業は…上を目指すなら実力が必須だからね」
「俺たちみたいに万年D級の、木っ端冒険者にならないようにな」
「そんなに卑下しないでくださいよ。ブルーノさん、リッチーさん、ブリタニーさんのおかげで、難なく冒険者になれたり、コロニアヴェルデにも辿り着けたんですから。
新米が言うことじゃないとは思いますけど、腕っぷしだけが全てじゃないと思います。助けになったって思える人が、私たち以外にもいると思いますし」
「ははっ、肝に銘じとく」
三人は照れくさそうにしている。
「というかレンゲ、身体に異常はないのかのう?」
「異常ですか?」
「慣れぬ力を使ったんじゃ、異常があってもおかしくない。大切な奥様に何かあっては一大事じゃからな」
「強いて言うなら…破茶滅茶に疲れているってことですかね。もう少し、アキラ様に寄りかかっていたいです」
「そうか」
あの力、龍術というのは非常に疲れる。
二回程度しか使っていないのにもかかわらず、この体たらくじゃ、実用たり得る技術じゃないだろう。
私はのんびりとアキラに寄りかかりながら、空を眺める。
「そうだ。胸触ったこと謝ってくださいよ」
「覚えとったのか…」
「いえ、今思い出しました」
「そもそもあれは不可抗力で、別に揉もうと思って触れたわけじゃ」
「揉もうと思ったんですか?」
「いやっ、そんなことはないぞっ!」
「へぇ〜」
なんて会話をしていると、冒険者協会の職員がやってきて、事情を問われることとなってしまった。
C級の二人は、騒ぎを聞きつけた職員が来ると知っていて逃げたのかもしれない。
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