4話 模擬戦 4
私がアキラの空間魔法もどきで後ろに飛ばされた時、小さな違和感を覚えた。
あるはずもない三本目の腕が動き出したかのような、そういった違和感。
ただ、それより先に解決しないといけないことがある。
「アキラ様!私の胸、触りましたね!?」
「え!?わ、悪い!後で謝る、じゃから今はッ!!」
アキラは私を移動させる際に胸を触っていた。
破廉恥な龍め。
「てめえらふざけてんじゃねえよ!?」
「あの女を助けに来るとは思っていたけども、空間魔法を使うとは。…しっかりと、自分が所属すべき場所を考えるべきだね!」
「うるさいわ!」
三人はなんか…わちゃわちゃと戦闘を始めていた。
ただ、もうちょっと真面目に戦闘を見て、理解に努めよう。
冒険者の一人は短い木の剣を二本握っていて、直接攻撃し合うというよりは、アキラの視界から外れるように動いて、慎重に攻撃しようとしている。
喧しくうるさい方で、短剣使いと呼ぼう。
もう一人はアキラと同じ程の木の剣を両手で握り、つかず離れずの位置を守って、攻撃の手を緩めずに戦っている。
こっちは…短剣より長いし長剣使いでいいか。
この二人組、ブルーノたちと比べると、段違いに動きがよく、アキラに余裕がないのが見て取れる。
C級というのは、それだけの差があるということなんだろうか。
それか…人を始めたばかりのアキラには、少し気の重たい相手なのかもしれない。人歴が十数日だし。
自信満々だったアキラが攻め手を欠いていて、守り一辺倒に徹しているところを見るに、今のまま、私が何もしなければ負けてしまう可能性があるということ。
ただ、武器も魔法も使えるか怪しい私に何ができるというんだろうか。
けれど諦めてもいられない。
私は、アキラのためにも冒険者としてランクを上げないといけないし、実力も最低限必要だという。
格上相手だからといって、何もしないで呆けているようじゃあ、この先が思いやられるというもの。
私は自分にできることを考える。
手に持ったハルバードという武器、これは槍の兄弟のようなものだろう。
他の訓練用の槍と同じく、先っぽが布で包まれていることから、ここで相手を突いて攻撃するんだ。
…じゃあ横に伸びてる突起と、斧はなんなんだろう?
そもそも、語りで聞いた十字槍とかいう武器はどうやって使うもんなんだ?
親切に声をかけてくれたリッチーに、使い方くらい聞いとくべきだった。
槍の先に斧がある。
そのせいか、ハルバードの重心は穂先にある。
振り回すのに…槍よりも力が要りそうだし、突っつくときにも、この重さは邪魔そうだ。
「よくわかんない武器だね…」
私が独り言を呟くと、短剣使いの方が私に視線を向けて、足をこっちに走り出した。
勝てないのは百も承知だけど、私はハルバードを短剣使いに向けて、突き出してみる。
しかしながら、素人の一撃など本職の冒険者に当たるはずもなく、軽々と避けられて、刃は振り下ろされる。
目を瞑ってしまうのは、心が負けた気がして嫌だったし、水晶の龍であったアキラや、飛びかかってきた野犬と比べればまだ怖くない。
私が短剣使いを睨めつけてやると、アキラが一瞬で移動してきて、短剣使いに手を伸ばす。
「甘いんじゃないか?」
「何が、―――ちぃ!」
短剣使いは遊んでいた短剣でアキラの腕を叩き、そのまま距離を置いた。
狙いは私そのものでなく、アキラに攻撃を入れること。
私は釣り糸に括り付けられたミミズということだ。
腹立たしい。
きっと距離を置けば、素早く動ける短剣使いがこちらにやってきて、アキラが何もしなければ私が短剣で叩かれる。
アキラがこっちにやって来れば、その時に生まれる隙を突かれるということだろう。
本当に、腹立たしい。
じゃあ近づいていたらどうなんだろう?
いや、考えなくともわかることだ。ただの邪魔な置物の完成だ。利点など一つもない。
迫りくる長剣使いの攻撃を受け流しながら、アキラは私に触れて離れた場所に飛ばす。
これを繰り返している限り、こっちに勝ちの目はなさそうだ。
そんなことを考えていると、また私の中で違和感が大きくなる。
やはりアキラに飛ばされたことが原因のようだ。
必死そうな彼女を見るに、意図して私に何かをしているわけじゃないと思う。
それにさっきから、焦りの感情がほんの僅か流れて来ている。
私にも、何かがあるというのだろうか?
そういえば、アキラの力の一部が私の中にもあるという。
言葉や文字の理解、長くなってしまった寿命。そして、感情の流入。
もしかしたら、私にもアキラのような一瞬の移動なんかが使えるのかもしれない。
そう思うと、頼もしさが胸の奥から溢れ出してくる。
…冷静に考えれば、これは蛮勇というものだ、かえってアキラを不利にしかねない。
それでもアキラに守られて、依存するようなチンケな女は、私の目指すところじゃないんでね。
私はハルバードを正面に構えたまま、長剣使いに狙いを定めて、存在しない三本目の腕を伸ばしてみる。
何か掴んだ。
そしてそれを引き寄せるような感覚があった。
その瞬間に、私と長剣使いの距離は瞬く間に縮まって、ハルバードの先が長剣使いの脇腹に命中する。
「ぐっ!?――なにがッ!」
「なんか思ってたのと違うけど、当たったあ!?」
一瞬の移動じゃない。
私と長剣使いの距離が、ものすごい速さで縮まっていったのだ。
私も長剣使いも動いていないのに、それでも勢いがあるかのように槍が命中した。
「よくわからない真似を!」
「まずいっ!」
私が三本目の腕、その先にある手を解いてみると、長剣使いと私の距離は瞬く間に広がっていき、彼は何もない場所に剣を振るう。
思っていたものとは違う力。
それでも、この模擬戦で役に立つかもしれない、不思議な力が私に宿っているようだ。
「はっはっはっ、見たかね冒険者のお二人さん。さ、先ほどまでのひ弱な私しゃあ、ただの演技だ。こちらに向かってくるんなら、ちっと痛い目を見てもらうよ!」
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