4話 模擬戦 3
「のう、礼儀知らずの童ら。このレンゲは儂にとって、命の天秤に掛けられるほど大事な奥様なんじゃ。侮蔑は許さんぞ」
わぁ大胆。
アキラは私を抱き寄せて、冒険者たちを睨めつけている。
…煮え繰り返るような怒りを感じ取れるけど、まだ大丈夫なんだろうか?
「おい、あんたたち。もういい加減にしろよ、アキラとレンゲに迷惑だろ」
痺れを切らしたのはブルーノ。
アキラと戦って疲労困憊だろうに、面倒事に巻き込んでしまって申し訳ない。
「お前らは…万年D級の木っ端冒険者だろ。C級の俺らに気安く話しかけんなよ」
「若くてC級、気が大きくなるのも分かるが、面倒事を起こして協会から追われたくはないだろう?」
「うるせえよ。こっちは協会にとって重要な人材だ、切られるのはあんたらのような雑魚だっての」
なんともまあ、鼻の長ぁい冒険者だこと。下駄でも履けば天狗になれるんじゃないかな?
「それにあんたもさあ、そんなにその女が大事なら宿屋にでも置いて、首輪でも繋いどけばいいだろう?探索や依頼を終えた後、可愛がるための愛玩動物みたいなもんなんだろう?」
「女同士でどう可愛がるってんだよ、ははっ!」
なんでこの冒険者たちは、勧誘相手の反感を買うようなことばかりを言うんだろう。
口に税は掛けられないとはいえ、この態度じゃ仲間になろうなんて思えようはずもない。
溢れんばかりの自我のせいで、周りが見えなくなっているんじゃない?
「品のないことばかりをおっしゃってると、チンポコを切り落とされてしまいますよ?立小便もできない、なんとも惨めな姿でしょうね」
「てめえが切るってのか?見たところ…武器もろくに使ったことがねえだろ?」
「その根拠は?」
「雰囲気だよ。人を見りゃ、そいつがどれくらいの実力かは分かんの」
「節穴お目々を、愛らしいと思いませんか、アキラ様?」
私の口も悪くなってる気がする。本当に拙い、かも…。
私はアキラの手を固く握って、少しばかり体重をかける。
本当にそろそろ落ち着いてほしい。
流れ込んでくる怒りの感情が…非常に苦しい。
私から冷静さを奪い去ったら、それこそアキラを止める術がなくなってしまう。
「あ、ああ。そうだな。…すまぬ、レンゲ」
「…落ち着いてくれて助かります」
アキラから伝わる怒りの感情は徐々に収まっていき、私の内に渦巻いていた感情も霧散していった。
「お前も強いってのかよ。まあ、やれるようなら仲間に加えてやってもいいぞ?」
「嫌ですよ、本気で」
「は?」
「貴方方は、だいぶ…品性が足りていないです。実力は十分なのかもしれませんが、こちらにも選ぶ権利がありますから」
私はアキラに抱きつきながら、シッシッと手を振って冒険者たちを追い払う。
こんなのと一緒にいたら、アキラがくすんで汚れちまう。
ばっちいネズミはお呼びじゃないんだよ。
「はぁぁぁ、くだらねえ」
「ええ、全く」
冒険者二人は私たちに落胆の色を向けながらも、強い苛立ちを見せていた。
「もういらんわ」
「うん。けどさ、C級の僕たちを舐めてかかったのは許せないね」
「同意する。おい、クソ女ども、俺たちがその性根を叩き折ってやるから、武器を構えろ」
「くっくっく、儂と戦うとな?童らなど、儂一人で十分じゃ」
「いいわけねえだろ。口だけ女を殴らなくちゃ、俺たちの気がすまねえっての」
「最低ですねぇ…」
「うるせえ!てめえも交じるってのか!?」
「ひぃ!?」
ブリタニーは駆け足でブルーノの後ろに引っ込んでいく。
正直、こんなのに関わるだけ損だから、ブリタニーはそれでいい。
「アキラ様なら、私のことを守れると思うんです」
「否定はせんが…」
「いずれ私を守ることもあるでしょうし、その予行演習ということで」
「あいわかった」
アキラはだらりと剣を垂らして、冒険者二人を見据えているので、私は手頃な武器がないかと探してみる。
物語の強兵たちは、十字や卜字の槍を用いて一騎当千の活躍をしたのだともいう。
私がそういった武器を使いこなせるはずもないのだが、どうせただの槍すら手に余るんだから、物語に肖った武器を握っておこう。
とはいえ、ここにある槍というのはどれも真っ直ぐ一本で、言ってしまえばただの竿である。
なにかないかと漁っていると、十字槍に近い形状の木の武器を見つける。ただし、十字の内の一本が斧形状となっていて、いささか不思議だけども、まあお守り程度ならこれでいいだろう。
「あのー…レンゲ?」
「なんですか、リッチーさん」
「なんで……ハルバード?」
この武器はハルバードというらしい。
「縁起が良さそうじゃないですか」
「…?…えっと、戦った経験は」
「もちろんありません。ド素人です」
リッチーは頭を抱えていたが、決まってしまったことは仕方ない。
アキラの邪魔をしないように尽力するまでだ。
「ようやく来たか、口ばっかりのクソ女。怖気づいて漏らしてるのかと思ったわ」
「ええ、そうなんですよ」
「チッ」
私がハルバードとやらを構えると、冒険者二人が動き出す。そう、私目掛けて一斉に。
「え?」
てっきり、アキラと二人が戦うものとばかり思っていたが、私が狙われる立場らしい。
どうしていいか分からず、ハルバードを振ろうとすると、アキラが目の前に現れた。
空間魔法もどきで移動してきたのだろう。
「下郎ども、叩き切ってやるわい」
そう言ってアキラが私に触れると、私は少し後方に飛ばされていた。
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