4話 模擬戦 2
「それじゃあ勝負じゃ。儂の空間に作用する…いや空間魔法もどきは使わんが、ブルーノとリッチーは持てるものを使って、二人で挑むといい。
そうそう、儂がいと美しい女子であるゆえに気が引けるかもしれんが、全力で叩くくらいの気概がなければ、骨の一本や二本は覚悟してもらうぞ。かっかっか」
「お、おう…」
「んー…尽力するよ」
あまり乗り気じゃないブルーノとリッチー。
アキラは私よりも小柄で、少女らしさが色濃い。
そんな相手に本気を出せと言われても、気が引けるのは確かだ。
三人の武器を見よう。
アキラは刀と同程度の長さをした木の剣。
ブルーノは、アキラの身長ほどもありそうな長い木の剣を両手で握っている。振り回すのが大変そうだけど、一撃を入れられれば、それだけの破壊力がありそうだ。
リッチーは、アキラの得物より刀身の短い剣を左手に持ち、右手には真ん円い楯を握っている。攻防を器用にこなす組み合わせなんだろうか?
浪人学者が語っていた物語で出てくる武器といえば、やはり槍だろう。
曰く、広い間合いは恐怖を薄れさせ、雑兵ですら名将を討ちかねないのだとか。
名工の鍛えし刀の話も有名だが、農民として生まれた私は、槍を握ってみようと思う。
さて、そんなことを考えていると模擬戦が始まり、リッチーが動き始めて、ブルーノがその後を追う。
楯を正面に構えて走る。
なるほど、安全に距離を詰める手段のようだ。
対して、だらんと木の剣を垂らし、構えというものがないアキラは、口端を吊り上げてから、片足を正面に持ち上げる。
そして足を正面に蹴り出すと、楯を構えていたリッチーを一蹴してしまった。
小柄な身体をしていても、アキラの本性は龍ということなんだろうか。
「アキラさん、すごいですねぇ。リッチーってかなりの力持ちなんですよ…?」
「私も驚きました」
就寝前にじゃれついてくる時は、かなり手加減をしていて、私に譲歩してくれているらしい。
…もうちょっと雑に扱っても大丈夫かもしれない。
リッチーが蹴り飛ばされると、ブルーノは攻め込まずアキラとの距離を置きながらリッチーと合流した。
「リッチー、まだ行けるか?」
「問題はないよ…。しかし、すごい怪力だった」
「タイラントベアを一撃で倒したんだ、それくらいは考えとくべきだったな」
「だね。あの剣の切れ味が良いものとばかり思っていたけど…」
「あの構えといい、力技かもしれんな」
もしかしたら、アキラは刀のいろはを知らないのかもしれない。
私も知らないから、教えられる人は居ないのかもしれないけど。
「どうした、もう怖気づいたか?」
「驚きはしたけど」
「こんな強敵に、命のやり取りなしで挑める機会なんて滅多にないんだ、怖がってらんねえよ!」
「くっくっく!」
立ち上がったリッチーは、変わらず先頭を走ってアキラに向かう。雑に振るわれた剣技を受け止めながら、その顔をしかめる。
攻撃の隙を狙ってブルーノが剣を振るうも、アキラが身体の軸をずらしたことで躱されてしまう。
干戈を交える度に、アキラの動きからは無駄がなくなっていき、最終的にはブルーノとリッチーが付け入る隙がなくなっていくのであった。
もしかしなくても、アキラはこの模擬戦で自分の戦い方を調整したんだ。
人間の形で正しく、人間の形で効率よく戦える方法を、今この場で学んでいたということだ。
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「お主らもバテバテじゃし、これで終わりとするかのう」
「…お、おう。なんつーか、勉強になったわ」
「いい経験になったね、ありがとうアキラ」
「こちらこそ礼を言おう」
満足気なアキラは、私の許までやってきて、期待の籠もった視線を向ける。
賛美の時間ということだろう。
「お疲れ様です。…此度のアキラ様は、ご自身の実力を過信せず、今後のためにと―――」
「なあ嬢ちゃん!あんた強いじゃないか、こんなのとつるんでないで、俺たちと組まないか?」
私の言葉を遮るように、見知らぬ冒険者が割って入ってきた。
「なんじゃお主らは。…レンゲから言葉をもらう大事な時間なんじゃから邪魔をするでないわ」
「言葉?」
「儂を賛美する言葉じゃ。良いか、人には人の大切な時間があるんじゃから―――」
「そんなご機嫌取りの言葉なんて後でいいだろう。今は冒険者としての話だって。
あんた名前は?今のランクは?俺たちはC級なんだけど、ダンジョンの攻略のためにメンバーを増やしているところなんだ」
「私もC級で、こいつと同じパーティなんだ。使える前衛はたくさん欲しくってさ」
どうやらアキラの実力は、高ランクの冒険者たちのお眼鏡に適ったらしい。
本来なら喜んで然るべきことなんだろうけど、アキラからは怒りの感情が伝播してくる。
賛美を遮られたことが原因なのは、言うまでもなかろう。
どうしたものかな。
私はアキラを怒らせたことなんてないし、鎮め方なんて知る由もない。
とはいえここで問題を起こそうものなら、冒険者稼業が終わりかねない。
とりあえず、割って入られたんだから、私が割って入ってもお相子だろう。
「まあまあ、落ち着きなすってくださいな、先輩方。同時に何人にも声をかけられたんじゃあ、うちのアキラ様だって耳の数が足りないというものでさ。質問をする順番を決めて、ゆっくりと話し合ったほうが効率的だとは思いませんかね?」
「あ?魔力もないような雑魚は黙ってろよ」
「冴えない面は引っ込んでな」
冴えない面だとか、魔力なしだとか言われようとも、私は気にしないんだけども、私の奥さんはそうじゃないらしい。
強い怒りの感情が流れ込んでくる。
「アキラ様、落ち着いてくださいませ。短気…とは言い過ぎかもしれませんが、その気は損気ですよ」
「………そう、じゃな、悪い」
アキラを連れてその場を離れようとすると、冒険者の拳が私に飛んできていたので、大急ぎで屈んで避ける。
「邪魔すんなって言ってんだろ!?」
「はぁー…短気は身を亡ぼす腹切刀なんて言いましてね、お兄さん方。一旦、落ち着いてくださいまし」
私の言葉は、この場において油にしかならないようだ。
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