4話 模擬戦 1
私たちが新しい依頼を受けようと冒険者協会に向かうと、ブルーノたち三人組と出会った。
「おはようさん、お二人さん」
「おはようございます、皆さん」
「話を聞きましたよ。劇団の客引きをしてたっていうの」
「依頼が上手くいって何よりでしたよ」
「あんな人気のない依頼を受けた時は、見る目がないと思ったんだけど、持てるものを使って上手くやったんだね」
新人ということもあるのか、ブルーノたちは気さくに私たちを褒めてくれる。
劇団員たちからの言葉も嬉しいけども、こういうのも悪くない気がする。
「そうだ、ちょっとお願いしたいことがあるんですけど」
「なんだ?」
「私、魔法を覚えてみたいんです。時間は掛かっても、ダンジョンっていうのに行きたいので、そのための下準備といいますか」
「あー、それくらいなら別にいいが、教えられるってなるとブリタニーだけだぞ?」
「ブリタニーさんにお願いしたいです。…皆さんのお仕事を邪魔してしまうので、いくらかお礼をお支払いしたいと思っているのですが…」
「いや、受け取れませんよ。私なんて全然弱っちい魔法使いなんで、ホント、初歩の初歩しか教えられませんし!」
ブリタニーは全力で腕を振って、手間賃の受け取りを拒否している。
「タイラントベアで稼がせてもらったから、俺たちからのサービスってことにしとくさ。なあ、リッチーもブリタニーもそれでいいだろ?」
「かまわないよ」
「それでいいです!」
押し付けがましくしても良くないだろうし、ここはご厚意として受け取ろう。
「ありがとうございます」
「良いってことよ」
「なら、暇になるブルーノとリッチーは、儂の強さを見定めてくれ。ダンジョンや、高いランクの依頼でやっていけるのかどうかをのう」
「俺たちは一〇年以上もちゃちな依頼で食いつないでる弱小冒険者だぞ?」
「何でもいい。身体を動かしたいだけじゃ」
「そ、そうか」
冒険者が武器を振るったり魔法を扱うための、訓練所なる場所があるらしく、私たち一行はそこに向かう。
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訓練所というのは高い囲いの広い敷地であり、その中で冒険者たちが様々に訓練をしている場所だ。
木の剣や木の槍などを使った模擬戦や、魔法を使っての的当のようなをことしている。
「レンゲさんは…魔法の適性確認とか、やってませんよね?」
「はい。そもそも魔法という名前を知ったのも先日、直接見たのもブリタニーさんの使っているものが初めてです」
「筋金入りだな…」
ブルーノたちが呆れるほど、魔法という技術は一般的なものらしい。
「でもアキラの空間魔法は見てるもんじゃないか?」
「あー、そういえばそうですね」
「魔法に詳しくないが、似た技術である仙術と儂のはちと異なる。…まあ、仙術に精通しているわけでもないんじゃがな」
三日ほど前、就寝前に雑談をしていた時、アキラの力は龍術というものだと言っていた。
『龍術は純然たる龍気の行使じゃ。小細工交じりの仙術とは毛色が違う』などとも。
「まあ何にせよ、魔法の適性ってのを見ちまおう」
「はい」
私は三人の案内で、中身が伽藍洞の、薄汚れた硝子球の前にやってきた。
こういった透明度の高い光り物は、水晶の龍だった頃のアキラを思い出させる。
あの姿に恐れを感じたのは確かだが、それでも私の人生で見たものの中で一番美しかったんじゃないだろうか。
賛美の言葉に飾りを付けたのは確かだけど、それでも讃える言葉に嘘偽りはなかった。
龍の姿を見られないと思うのは少し勿体なくも思えるが、異国に一人っきりじゃないのは人の姿になってくれたおかげだ。
名残として残っている目元の鱗も綺麗だし、今のままでもいいのかもしれない。
「それでこれは…どうするんです?」
「触れれば自然と魔力量、それとどの属性に適性があるのかが確認できます。高価な品なので乱暴に触らないでください。弁償は、難しいと思いますからねぇ…」
「はい、分かりました」
私は硝子球の上に手の平を乗せてみる。
すると内部に無色透明の水が現れ、少しばかり溜まった。
硝子球の空洞の一割にも満たない。いや、その半分がいいところの極少量だ。
これで何かが分かるということだろうか?
私が四人に振り返ってみると、アキラ以外の表情は芳しくない。
「すごいですね…」
「あぁ…」
「これはなかなか…見れませんね」
「いい結果なんですか?」
「残念ながら…類を見ないほどに魔力量が少ないです」
「え…」
「魔法を使わない俺らでも二割は貯まるし…」
「そもそも、色がついていて属性の判別ができるんだ」
リッチーが前に出て手を乗せると、濁流のような土色の水が湧き出ては、全体の三割ほどとなった。
「魔法使いにはなれない、ということですかね?」
「そうなりますねぇ…。今まで、日常的に魔法を使っていなかったんですよね?」
「はい…」
「多分ですけど、それが原因なんだと思います。魔力は幼い頃に使うことで、その量の上限が増えていくそうですよ。
日常生活だとぉ…火を起こして暖を取ったり、土を掘り返して耕したり、風を起こして涼んだり、水から不純物を取り除いたりと、そういったことを私たちは魔法で行っていますので」
ブリタニーの言っていたことは道具でどうとでもなるが、より便利な方法があればそれらが広がっていくということだろうか。
仙術というのは仙人を目指す知者の技術だと、浪人学者が言っていた気がする。
無闇に使うものではなく、厳格に世のために使うものだとか。
「なんにせよ、私が魔法を使うのは難しいということですね」
「気にするなレンゲ。お主にはお主の路がある。手に合う戦い方も見つかる。それに…」
「それに?」
「いや、なんでもない。変に期待をさせたくないのでな」
「そうですか。…ダンジョンは少し先になりそうです」
「良い良い。レンゲの歩みを待てるのも、良き妻である儂の器の大きさというものじゃ!」
「ふっ、ありがとうございます、奥様」
心に立ち込めていた靄は、アキラの気遣いによって晴れていく。
とりあえず、武器でも握ってみようかな。
さっさと魔法に見切りをつけて、木の武器を漁っていると、アキラとブルーノたちが模擬戦をするようだ。
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