3話 劇団『フロリータ』 4
劇団が休憩に入るということで、私たちはヴァリーに同行して裏手に行く。
劇団員たちの雰囲気はやや暗く、今の客入りに若干の不満があるのかもしれない。
「何その子たち?新入り?」
「いや違う、明日からの客引きを依頼する冒険者」
「へぇ〜。明日からってのに、随分と熱心じゃないか。うちの劇を観てってもらいましょうよ」
「見てもらったよ。良い考察ももらった。だから、こっちまで連れてきたんだ」
「なるほどね〜。ヴァリーは気難しいけど、悪いやつじゃないから大目に見てね」
「あっはい」
「余計なことを言うな」
「はいは〜い」
控えに保管されている小道具や衣装は、今回の劇で使っていたものとは異なり、綺麗に手入れされている。
やはり、演劇の内容に合わせて、見た目の調整をしているということだ。
そして、劇団員たちも落ち込んではいるものの、嫌気が差しているというわけではない。
『他に負けない熱がある』というヴァリーの言葉は、心の奥底から出てきたものだろう。
「それで今回のこの劇は、ドラータ共和国での演劇的にどういった立ち位置なんですか?娯楽的だとか古典的だとか」
「題材の革命が…一〇〇年と数十年そこら昔の話だから、古典ってわけじゃない。ただ、娯楽かって言われると首を縦に振りにくいな。……歴史考証に重きを置いた史劇ってところだ」
「じゃあ謳い文句は『本格的!』ですかね」
「なんか…ちゃちだな」
「難しい言葉を並べても、観客に理解できなかったら意味がありませんし」
「頭が痛くなりそうな台詞だな」
「この国の建国に関わる一幕なんですよね?」
「ああ、そうだ」
「じゃあ『本格的なドラータ共和国の建国史劇』って部分を売りにして、客引きをしてみますね。…他にも耳を傾けてもらえる要素が欲しいですね」
「コロニアヴェルデに来る前は客入りが良かったなら、そこを売り出すのはどうじゃ?」
「いい案ですね、アキラ様。ありがとうございます」
「じゃろう」
「ということで、盛況だった街とその規模を教えてほしいです」
「おう」
ヴァリーがあれこれとドラータの都市や、その規模などを教えてくれている最中、他の劇団員たちも寄ってきて、説明をしてくれる。
意図せず共和国各地の情報が手に入った。
それらはいつか使うかもしれないから、頭の中に蔵っておくとして。
「一番大きな街は、首都プロクローチェでの公演。そして登場人物のご子孫が足を運んでくれたことも、売り込みにはいいかもしれませんね。
まあ、ご本人に許諾を取れそうにありませんから、あくまで誰であるかはぼかしまして」
私が客引きの文言を書き記していくと、劇団員は興味深そうに、そして同時に話半分の態度で私を見つめていた。
初めての試みなので、大きな期待を背負わされても困るから、これくらいが丁度いい。
「ついでに聞きたいんじゃが、コロニアヴェルデはどんな街なんじゃ?」
「冒険者なのにそんなことも知らねえのか…」
「訳ありでの」
「コロニアヴェルデは、郊外に三つのダンジョンを擁する開拓の街だ。開拓が始まったのも十五年くらいで、歴史は全くないが勢いがある」
「勢いがあれば人もいます。それゆえに新しい客を得ようと足を運んだのですが……今に至るわけです」
アキラも情報収集をしてくれている。
ここは人目のある場所だから、心の中でお礼を伝えておこう。…ありがとうございます、アキラ様。
この想いが伝わったのかは分からない。けれど、アキラは私を一瞥した気がする。
さて。
ダンジョン、というものがなんなのかは未だによくわかっていない。
けれども、冒険者たちはダンジョンを目指してランクを上げるらしい。
それが三つともなれば、大した場所じゃないか。
まず目指す目標は、ダンジョンに入れるだけのランクなんだろうけど、野犬を追い払えるブリタニーがE級なことを考えると、少し大変そうだ。
でもまあ、飽きを恐れる奥様のために協力するのは、悪くないかもね。
その後、客引きのために看板を製作したいと言ったら、劇団員の方々は快く協力してくれた。
看板には天幕の姿と、周辺の地図を書き記し、説明の手間を省こう。そう考えてあれこれと相談すると、公演時間や観劇料の情報が増えていく。
劇団員たちも興が乗ったのか、天幕の姿を豪華にしようとしたり、より精巧な地図を描こうとするなど、なかなかに破茶滅茶になってしまう。
それでも、劇団員たちからは自分たちの演劇を観てもらおうという熱が、温かな色となって見て取れて、私も次第に楽しくなっていた。
****
翌日。
私とアキラは看板を片手に、コロニアヴェルデの街を歩く。
「皆様ご注目!首都プロクローチェにて好評だった演劇、そしてそれを演じる本格派な劇団『フロリータ』が、この街コロニアヴェルデにやってきています!
演目は『王政ドラータの落日』、このドラータ共和国の建国を描いた、騎士たちの雄々しくも、悲しき物語にございます!
困窮する市民と、悪逆の暗君との板挟みになりながらも、国に忠を尽くし、国の未来を願った男たちの物語は、涙なしには語れません!」
身振り手振りを大きくし、周囲の人に私自身を見てもらえるように振る舞いながら宣伝をしていくと、足を止めてくれる人がちらほらと現れる。
元々、私とアキラはドラータ共和国だと少しばかり浮く服装と容姿をしている。
それも相まって、注目度合いは高いらしい。
「なああんた。その演劇ってのはどこで観れるんだい?」
「それはこの看板に記しております!ご覧あれ!」
「ほう」
「天幕の姿と簡単な地図、それに公演時間に観劇料も記して参りました!準備は万端、ならば後はお客様に足を運んでいただくのみにございます!」
「あんたはその演劇を観たんだよな?金額に見合うだけの価値はあるかい?」
「私は正直者の客引きにございますので、賛美するだけの言葉を並べることができません。しかし!私共が属するこの国が、どのようにして今の形になったのか、その立役者はどんな方だったのかを知れて、大層有意義な時間を過ごせたと思っております!」
「おぉ…」
何人かの通行人が喰い付いたので、私は少しばかり声量を抑えてから言葉を続ける。
「ここだけの話なのですがね。その実、首都プロクローチェでは、登場人物のご子孫までもが、感激に訪れて拍手をしたと言います。
私しゃ、その場に居合わせておりませんので、一つの噂話に過ぎませんが、知る価値のある歴史が、その場にあったのでしょう」
「なるほど…うん、行ってみようと思うよ」
「ありがとうございます!観劇料をお支払いの際には、『客引きを見た』とお伝えください。もしかしたら良いことがあるかもしれませんよ」
通行人に笑顔を贈り、私は宣伝を再開する。
「こういうのを適材適所と言うんじゃろうな」
「やきもちでも焼いちゃいましたか?」
「くくっ、唇を封じるのなど、儂からすれば造作もないのだぞ」
言葉とは裏腹に、アキラは楽しそうに私を見つめ、看板を掲げながら歩いてくれた。
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