第3話「お前はストーカーか」
アリアは次の町ハルトに着いた。
ハルトは王都への中継地点として栄えている、そこそこ大きな町だ。行き交う人も多く、市場は朝から賑わっている。王都まであと三日ほどの距離らしい。
アリアはまず仕事を探すことにした。借金返済のことを考えると、王都に着くまでの間にも少しでも稼いでおきたい。
地図を取り出して念じる。
(仕事が見つかりそうな場所を教えてください)
金色の線が現れた。アリアはその線を辿って市場に向かった。
「よし、今日こそちゃんとした場所に——」
市場の中央広場に出たところで、アリアは足を止めた。
見覚えのある黒いマントが、人混みの中に見えた。
「…………」
エイダンだった。広場の隅で、怪しげな雰囲気の商人と話し込んでいる。手元のノートに何かを書きながら、商人の言葉に相槌を打っている。
「またあの人のところに連れてきた……なんで」
思わず声に出てしまった。エイダンがこちらを向いた。目が合った。
商人もこちらを見た。三人の間に、妙な沈黙が流れた。
「……お前」
「あの、違うんです、地図が」
「三度目だぞ」
「私もびっくりしてます」
エイダンは眉間に皺を寄せた。
「ストーカーか」
「違います!」
思わず声が大きくなった。周りの人がちらちらとこちらを見る。アリアは慌てて声を落とした。
「地図に仕事場を聞いたらここに来てしまったんです。本当に地図のせいで」
「毎回そう言うな」
「毎回本当のことを言ってます」
エイダンはしばらくアリアを見てから、隣の商人に目を向けた。商人は愛想笑いを浮かべながら、じりじりと後退りしている。
「待て」
エイダンが低い声で言った。商人の足が止まった。
「この娘は俺の知り合いだ。少し話してから戻る」
「は、はあ……」
商人は居心地悪そうに頷いた。エイダンはアリアの腕を掴んで、人混みの外れに引っ張った。
「いたっ、何をするんですか」
「静かにしろ。今あの商人を調査中だ」
「調査?」
「偽物の魔法道具を売りつけている疑いがある。証拠を集めていたところに、お前が来た」
アリアはちらりと商人を見た。なるほど、さっきから挙動が怪しかったのはそういうわけか。
「じゃあ私、邪魔でしたか」
「……結果的にはそうでもない。お前が来たおかげで商人の注意が逸れた。少し様子が見やすくなった」
「役に立ちましたか」
「偶然だ」
即答だった。アリアは苦笑いした。
「あの、エイダンさんって王都に向かってるんですか?」
「調査のルートが王都方面に続いている。しばらくは同じ方向だ」
「そうなんですね……」
アリアは地図を見下ろした。なんとなく、合点がいった気がした。エイダンが王都方面に向かっているなら、アリアの目的地と道が重なる。地図がその道を示せば、自然と同じ場所に行き着く。
でも、それだけじゃない気もした。同じ道を進む人は他にもいるはずなのに、地図が示すのはいつもエイダンのいる場所だ。
(この地図、絶対何か企んでる)
「お前、今日の宿は決まっているのか」
エイダンが唐突に聞いた。
「まだです。お金が無いので仕事を探してからにしようと思って」
「俺の調査の手伝いをするなら、一日銀貨一枚出す」
「え、いいんですか」
「さっきみたいに話し相手の振りをしてもらえると助かる場面がある。それだけでいい」
「やります」
あまりに即答だったので、エイダンがわずかに目を丸くした。
「即決だな」
「銀貨一枚ですよ。断る理由がないです」
「仕事が終わってから、俺が泊っている安くてまともな宿に案内する」
「……宿は自分で探します」
「お前の地図がどうせそこに案内する」
レナは地図を見た。地図を見て、エイダンを見た。
「…………否定できない」
「だろう」
エイダンはそれきり何も言わず、商人の方へ歩き出した。アリアはその後ろについていきながら、こっそり地図に囁いた。
「今日はちゃんと仕事場に連れてきてくれたね」
地図は何も答えないけど、ほんのりと温かい気がした。




