表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/24

ラベンダーの花が咲き誇るとき

「……聞いてくれて、ありがとう」


 羽月ちゃんが、軽く目を伏せる。

 私は、羽月ちゃんの話を聞いて、唇を噛み締めていた。

 神原は、性根が腐ってる……!

 改めて、そう思う話だった。

 羽月ちゃんを使って人の評価を下げ、自分の存在価値を上げようとしていた。

 神原は、そんな人だ。

 そんな、楽しくはない話だったけれど、私は少し嬉しくなったことがある。

 私が話した花の話を、羽月ちゃんが覚えていてくれていた。

 それが、少し……いや、とても嬉しかった。

 そう思うと……、変だな、辛い話を聞いたあとなのに、胸の奥からじんわりと暖かくなっていく。

 カルミアという名前だけでなく、特徴や花言葉まで覚えてくれていたとは。

 その知識を話に織り混ぜるなんて、羽月ちゃんは頭がいいのかな。


「羽月ちゃん、カルミアの話……。覚えていてくれてたんだね、ありがとう」


 私がほんのりと笑いかけると、羽月ちゃんの頰にじわっと朱がさした。

 そして、たぶん反射的に顔をツイと少し背け、ボソボソとしゃべり始めた。


「いや、別に……。カルミアって、ゲームとかに出てきそうな名前だろ? それで、覚えてただけだよ」


 羽月ちゃんの、照れるときの癖だ。


「確かに……。花の名前って、ゲームのキャラクターの名前とかで出てきそうだね! その発想はなかったな……」


「キャラだけじゃなくて、土地の名前とかな。中世ヨーロッパ風のアニメとかにも、出てきそうだと思う」


 私は、少し驚いた。

 一つの花にとっても、感じ方は人それぞれなんだ。

 例えば、桜。

 桜を見て「かわいい」と言う人や、「儚い」と思う人、はたまた「恐ろしい」と感じる人もいるかもしれない。

 羽月ちゃんの言うように、それは名前でも同じだろう。

 桜と聞いて「綺麗」と感じる人、「お淑やか」と感じる人……など、人それぞれだろう。

 それはもしかしたら、花言葉や特徴でも同じなのかもしれない。

 私は毒があると聞くと怖いと思ってしまうけれど、かっこいいと感じる人もいるのかもしれない。

 そんな風に、感じ方はきっと、人それぞれだ。


「羽月ちゃんって、ゲームとかアニメ、好きなの?」


 私が問いかけると、羽月ちゃんは驚いたように目を見開いた。

 そして、頰を少し緩ませ、口を開いた。


「……そう。アタシ、ゲームが好きなんだ。アニメは……たまに見る。それこそ、異世界系とか」


 羽月ちゃんは、眉を下げて微笑んだ。

 羽月ちゃんのこんな表情を見たのは、初めてだった。


「今まで、誰にも言われなかったから……。嬉しいよ、遥」


 インクが滲むように、絵の具が染みていくように。

 淡く微笑んだ羽月ちゃんを見て、私の心もインクが垂らされたように、柔らかく染まった。


「ちょっと、二人だけの世界になってるよー? あたしともゲームしよー、羽月!」


「私たちの存在、忘れてない?」


 左右から、萌葉ちゃん、香奈ちゃんの声。

 二人の声音は、少しからかうように踊っていた。

 私と羽月ちゃんは、同時に頰を赤くした。


「なっ、何誤解を招くようなこと言ってんだ……!」


「そうだよっ、恥ずかしいなぁもう……」


 羽月ちゃんに至っては、今にも二人に殴りかかりそうだった。


「それに、アタシはかなりのガチ勢だから……アンタはエンジョイ勢だろ?」


「あ、バレた?」


 萌葉ちゃんが、テヘッと笑う。

 それを見て、私は何かが弾けたように、声をあげて笑った。

 まるで、喉から笑いがせりあがってくるようだった。


「ふっ、あははははは……」


 突然笑い出した私を見て、三人はギョッとした。


「遥、どうしちゃったの⁉︎」


「辛い話を聞いて、おかしくなっちゃった?」


「気を確かに」


 三人とも、私を狂った人だとでも思っているのだろうか。

 それでも、私の笑いはやまない。

 それにつられ、萌葉ちゃんもダムが崩壊したようにどっと笑い出した。


「ハハハハハッ、遥笑いすぎ……!」


 私たち二人は、お腹を抱えて笑う。

 それを見て、香奈ちゃんと羽月ちゃんも少し唇の端を上げた。


 なんで笑っているのかは、すでにわからなくなっていた。


 笑いがやみ出し、ひと段落ついたところで、私は話をまとめるようにパンと手を叩いた。


「神原が許されないやつだってこと、さっきの話でわかったよ。これから、神原を打倒するために、この四人で頑張ろう!」


 笑いの余韻で声が震えてしまったのが、なんとも締まりが悪かった。

 一人苦笑いした私の方を向いた彼女たちは、私をじーっと見つめて、真顔になった。

 それにつられて、私も笑っていた頰が元に戻る。

 な、なんだろう……?


「遥が一番大変だよね」


「勉強は順調?」


「月末には定期テストもあるな」


 三人から順番にかけられた言葉に、私の頰が引きつった。

 もしかして、テストとその勉強が被る……?

 私が引きつった笑いを浮かべたまま停止していると、羽月ちゃんは大きくため息をついた。


「はあ。それじゃ、神原と対面するのはテスト後。成績は大事だ、それに……。遥が体調を崩したら、嫌だから」


 羽月ちゃんは、また顔を背けた。

 きっと羽月ちゃんの頰はまた赤くなっているだろう。

 ここ数週間で見抜いた癖が、また発動していた。

 そして、パパッとスケジュール管理ができてしまうところ、やはり頭がいいのだろうか。

 それも、テスト後明らかになるだろう。

 ……楽しみだ。

 私は、再生ボタンが押されたように口を開いた。


「ありがとう……! じゃあ、各自頑張ろうね。まずは、テストだけど」


 三人は、それぞれ違う反応をした。

 羽月ちゃんは少し微笑んで、香奈ちゃんはコクリと小さく頷いて、萌葉ちゃんは頭を抱えて苦笑いしていた。

 それがおもしろくて、私たちはまた笑った。


 ――ここから、それぞれの準備が始まっていった。


 ―――


 アタシ・妙中羽月は、夕方の電車に揺られていた。

 繰り返し思い出すのは、教室での会話。


「羽月ちゃんって、ゲームとかアニメ、好きなの?」


 その一言が、なぜかすごく心に残っている。

 今まで、一度も訊ねられなかった言葉。

 それは、亜綺羅でさえ同じだ。

 誰も知らない、アタシの趣味。

 ゲームは、正直めちゃくちゃやりこんでいる。

 今一番やっているゲームなど、プレイ時間が五千時間を超えた。

 おかしいな……、なんで、それだけでこんなに嬉しいんだろう。

 実を言うと、アタシは花も結構好きだ。

 アタシは、スクールバッグから香り袋を取り出す。

 中には、干からびたラベンダーが入っている。

 ハーブのスッキリした香りがアタシの鼻にスッと入っていき、脳が休んでいく感覚がした。


 アタシは、車窓を眺めて、また揺れた。

お読みいただき、ありがとうございます。

学生のみなさん、勉強は順調ですか?

よろしければ、ブクマや⭐︎で評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ