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カルミアの花が咲き誇るとき

 私たちは放課後、いつもの時間に教室に集まっていた。

 いつもならもう少し和気藹々としているのだが、今日ばかりはみんながみんな口を閉ざしていた。

 なぜなら――。


「今から、神原亜綺羅のことについて話す。……覚悟は、できたか?」


 羽月ちゃんが、目に鋭い光を宿して、そう言った。

 今までずっと一緒にいた羽月ちゃんだからこそ、見えた神原の素顔。

 それが今、明かされる――。

 私たちは、コクリと頷いた。

 覚悟なんて、とっくのとうにできていた。

 ――他人の仮面の下を覗く覚悟が。

 それを見て、羽月ちゃんは話し始めた。


「アタシがあいつと出会ったときから、あいつはあんな感じだった――」


 それは、神原と羽月ちゃんが出会ったときまで遡る――。


 ―――


「はじめまして、私亜綺羅。よろしく!」


 初めて会ったときの印象は、コミュ力オバケだった。

 はじめましてなのに、こんなにハイテンションで話しかけられたのは、初めてかもしれない。

 アタシは、亜綺羅と名乗る少女に、当然警戒した。

 席が隣というだけで、こんなに積極的に話しかけてくるやつがいるか?

 ただでさえ、アタシは目つきが悪い。

 普通なら、怖がって話しかけないはずだ。


 ――なのに。


 こいつは、なぜアタシなんかに話しかけてくれたのだろうか。

 もしかしたら、この少女となら一年間やっていけるかもしれない。

 アタシは、僅かな希望を胸に、返事をした。

 亜綺羅に目を見て、ハッキリと。


「アタシは、妙中羽月。よろしく」


 今思えば、あれがアタシの人生最大の失敗と言えるだろう。

 そんな間違いを犯してしまったことにも気づかずに、アタシは亜綺羅と笑顔を交わした。


 その少女が、かの悪名高い「神原亜綺羅」だと知ったのは、それから少しあとのことだった。


 それを知ってもなお、アタシは亜綺羅をいいやつだと思っていた。

 亜綺羅は、アタシのことを気にかけてくれた。

 休み時間になったら話し相手になってくれた―今思えばアタシがさせられた側なのだが―し、体育の二人一組になるときは、必ずアタシと一緒だった。

 たぶんそれも、アタシ以外が相手にしてくれないからなのだろう。

 今ではそうわかるが、あのときはただひたすらに、亜綺羅のことを信じていた。


 ――信じていたかった。


 亜綺羅のことを信じられなくなったのは、進級して一、二ヶ月経ったころだった。

 亜綺羅の化けの皮が、少しずつ剥がれ始めていた時期。


「羽月ー? 私の教科書取ってきて」


 こんなのは、まだいい方だ。


「羽月、できるよね?」


 期待と意地悪さが同居した顔。

 そのころのアタシは、特に期待に弱かった。


 亜綺羅が「やれ」と言ったなら、掃除だって代わるし、人の物を隠したりもした。

 なぜ、アタシがこんなことをしなければならないのだろう。

 アタシの心は、ズタズタになっていった。

 偶然同じ高校に進学したときは、終わったと思った。

 進学して亜綺羅の支配から逃れられると思っていたのに、進学した先にも亜綺羅がいるのだから。

 どこからが偶然で、どこまでが仕込みなのだろう。

 アタシは、ちょうどいい駒ってわけか。

 そう思うと、無性に腹が立った。

 ……立っても、何もできないんだけどな。

 アタシは、引きつった笑いを浮かべることしかできなかった。


 亜綺羅がここまでして人を貶めたい気持ちがわからない。

 そこで、アタシなりに亜綺羅の気持ちを考えてみた。

 先に言っておくが、これは一年以上、亜綺羅の側にいた者の勘だ。


 亜綺羅は――人の上に立っていたいのだ。


 これがアタシなりの、神原亜綺羅という人間の答えだ。

 正解かどうかは知らない。

 でも、きっと正解だと思う。

 遥も萌葉も香奈も、入学当初から三人で楽しそうだった。

 亜綺羅はきっと思っただろう。

 「私よりも楽しくしてるやつなんて、許せない」と。

 そうして、中学時代から知る萌葉と香奈の噂を流してやろうと思ったのだと、アタシは思う。

 そんな、ワガママなお姫さまなのだ。

 正確には、お姫さまぶっているだけの、ただのワガママ。

 あのとき、確か低木にピンク色の花が咲いていた……。

 この前、遥が教えてくれた、カルミアだっけか。

 優雅だけど毒があって、裏切りみたいな意味もあるって。

 あいつにピッタリだ。


 そんなカルミアみたいで傲慢な亜綺羅を、アタシは絶対に許さない。


 アタシの大切な……友達を、傷つけたから。


 これで、亜綺羅についての話は終わっておく。

 こんな話をずっとし続けても、きっと嫌だろ?

 ……聞いてくれて、ありがとう。

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