墓場と春紫菀の舌✿
◇いつも見てくださる方、最新話から楽しんでくださる方も、本当にありがとうございます!
◇執筆・なろう共に初心者ですが、一話一話大切に書いております。温かい目で見守っていただけると嬉しいです。
◇第5話少し長めになってしまいました…。
红京と進んだ扉の中は、天井が高く机と椅子があるだけで質素な作りだった。
ここは門番が休むためだけの空間なのだろう。
椅子に腰掛ける老婆は骨と筋が首や腕に皮膚がシワシワと引っ付いてとても体が細い。眉間に力が入りこちらをじっと見ている目は刺されそうなほど鋭く、見定められているのだろう。側近の人とコソコソと何かを話している。
不安な気持ちに駆られたが、红京が「だめだったときは現代に帰ればいいです」「温花なら大丈夫でしょう」と言ってくれた言葉にもう一度勇気がもらえた。
どうにでもなれ!どうにもならなかったら――。
どうすれば――?
あれ?どうにもならなくてあたしはここへ望んで来たんだった。
ここで逃げてしまえばもう自分はどこにも逃げる場所がなくなってしまうんじゃ――。
「おい、医者。この女をどこで拾ってきた?」
红京「薬屋を回っていたところ、職に困っている様子だったので」
隣の温花を見ると不安なのか表情豊かだった顔が固まってしまっている。
それもそうだろう――。
現代社会とはここは全く違う場所だ。後宮のことも、この華国のことも知らないまま、夢か現実かもわからないまま一歩を踏み出そうとしている。
俺もここにやってきてしまったときもそれはもう大変だった――。
俺も誰かに救われて医者見習いとしてここに立つことができている。
俺が今度は温花に手を差し伸べきだろう。そう思い、後宮であれば俺が健康観察で温花の状況を確認でき、何かあったときは援助することが可能だろうということもあり温花の希望に同調し、連れてきてしまった。
红京「温花、宮中には俺も居ますので」
温花にそっと呟くと、泣きそうな顔で見上げてきた。
後宮へ入ること嬉しそうに語っていた温花はまるで今から鬼に食べられてしまうのではないかと怯える小動物のようだった。
あまりの振れ幅に面白くなってしまい、ゆっくりと口角が上がってしまう。
それに気がついた温花は「あっ!」と今の自分の状況に笑われていることを悟ったのか、今度はお怒りの様子だ。
またそれもおかしくなり、後ろを向いて笑いに耐えるしかなくなってしまった。
温花「別に自信があったわけじゃなくて……!红京に迷惑が掛かってしまうこともまで考えてなくて……」
红京は今笑ってくれているけど――。
これであたしが後宮に入れなかったら红京が後宮内で馬鹿にされたり、仕事に支障がでてしまうんじゃ……。
興味本位で後宮に入りたいなんて言ってしまったけど红京に迷惑かけてしまうことまで考えることができてなかった。頭の中で大反省会が繰り広げられていた。
红京「いえ、お菓子のお返しですよ」
コソコと話していると、目を凝らしていた老婆が空気を割くように言葉を発した。
椅子からめんどくさそうに立ち上がり、近くに来て上から下までジロジロと見ている。
「医者の連れ帰った女はそれかい。確かに珍しい風貌だね――。名前は?」
温花「うぇ……温花です」
突然名前を聞かれて声が震える。
「まぁ、いい。前回の選秀の試験でもやらせておけ。結果次第考える」
老婆はめんどくさそうな顔をして、奥に消える。
選秀ってテストみたいなものだよね――?
红京「ここからは温花の実力勝負になってきます」
温花「べ……勉強はあんまり得意でなくて……红京どうしよう……」
红京「あなたはどこからやってきたんですか?その便利なもの使えば大丈夫でしょう」
红京は眉を落とし、スマホの入った袋に目線を落とした。
スマホでカンニングしろってこと?
红京「選秀の問題の写真を送ってください。回答送りますので」
温花「え……あ……」
言葉にならない言葉が口から漏れている間に門番から奥の部屋に追いやられて、巻物?これがテスト?選秀?がぐしゃぐしゃの紙が机の上に置かれている。
多分これ誰かが途中で捨てたやつだ――。難しそうな文字が並ぶ。
大きな建物の中で部屋には窓はなく、廊下から入ってくる光と、小さな蝋燭で昼間とは思えないほど暗い。ほとんど牢屋みたいな場所だった。
「時間が経てば戻ってくる、さっさと問題解いておけよ!」
門番は扉を強く締め、大きな音が部屋の中に響く。
居なくなったことを確認して红京から指示してもらったように「ごめん!回答おねがいします( ;∀;)」とメッセージを送るり、通知音が響かないようにすぐ設定を確認して红京からの返事を待った。
問題の文章は手書きで書かれているのかざらざらとした紙にじんわりと炭が滲んでいる。この問題を書いた人、達筆だ――。
まって!やばい!
回答するにも字はあたしが書かなきゃだ。
次々に送られてくるメッセージには红京からの回答が流れてくる。横にあった筆を持ってなんとか見よう見まねで文字を必死に書き写していくしかない。
温花「お……お……終わった……」
精神を全集中させて紙にかなり近づいていたようで椅子に腰掛けると力が抜け、疲れがどっと押し寄せてくる。
力を抜いて紙を見ると文字のバランスは最悪だった――。
横にある達筆な問題文とは比べ物にならない。
や……やばいんじゃ……。お嬢様がこんな汚い字を書くとも思えないし……というかセンスが無さすぎる。漢字ばっかりで、カサカサの筆先。
レベルが高すぎる红京の字を真似して書いたのにとても同じようには見えない。でも筆で書いてある文字は消せない。現代って便利だったんだ――。
「そこで待ってろ」
大きな足音をさせてやってきた門番は机の上にある選秀を強引に回収して、扉を閉めた。
「红京、とりあえず回答はできたよ」とメッセージを送る。
とりあえずは文字に自信が無いから――(笑)
一息つき、周りを見回すとこの部屋がただの暗い部屋でないことが分かって背筋が凍る。壁には鎖が取り付けられ、その下には虫が沸いている。不衛生な水があちこちに溢れて、謎の植物も育っている。
もっと周りを見ないと……。
目の前のことに集中し過ぎてしまうことはあるけど、この世は自分の命の危険、助けてくれている红京の命さえも危ういことを身をもって実感した――。
「なんだ、この部屋に通されてたのかい……。もう少し太い方がいいけどね、まあ付いてきな」
煙草を吹かしながら老婆は部屋の扉の向こう側に立っていた。
「私は張宏後宮管理を任されてる。あんたは下級妃として扱うことになる、異論はないね」
温花「張宏様……はい」
もう後戻りはできない――。
あたしを睨みつけるようにしていた張宏様は顔を振って早く着いて来いと急かした。
大きな荷物を抱えて石畳の長く、暗い廊下を進む――。
大きい門から入ればそのまま宮中の中に入れそうなのに。後宮に入る妃様たちはみんなこの廊下を歩いてるの?少しひんやりとした空気を感じながら静かな時間を過ごした。
红京もこの廊下歩いて買い物に出たりしてるのかな?もっと華やかなイメージだったけど現実はこんなもんなのかな?
温花「すいません、今どこに向かってるのですか?」
張宏「喋るな」
慣れない異様な空間が恐ろしくなって張宏様に声をかけたが、張宏様は振り返って睨みつけるとまた歩き出した。背筋が自然にピンと伸びる。
この人にはニコニコ作戦はやっぱり通じない、か――。
やっと陽の光が廊下を照らし始め、急に明るくなった光に目が追いつかず張宏様が前を歩いているのが見えなくなる。
温花「眩しいっ……」
長い廊下を抜けた先はあの入ってきた大きな建物から繋がっている壁の中を歩いてきたようで、門番のいた大きな建物は遠くに見えた。
外の光と空気を感じるとそこは森?の中だった。
鳥の鳴き声が響き、草木が風になびく音だけが聞こえる――。
ここが後宮?思っていたよりも自然あふれる場所だった。
大きな荷物を抱えて張宏様が歩いていく草木の生い茂る道は追いかけることにやっとだ。
張宏「――はぁ……」
私の後ろでソワソワしているこの女――。
どこの田舎者かと思えば異国のものか?
綺麗にしているようだが、この辺の家のお嬢様でないことは確実だ。
それにこのような刺繍の入った漢服はなんだ?髪飾りも奇妙なものの持ち合わせ。
会話もなんだかぎこちない。
それにあの選秀の内容の字は読むこちらが疲れるものだったが……ほとんど間違いなどなかった。むしろ全て正解をしないようにわざと間違えたのであろう回答もあった。
教養はそれなりにあるようだが、妃として相応しいかどうか――。
今までの妃たちと比べると異様な存在すぎてよく読めん。
医者見習いの红京という男が堂々と危険を犯すには見えん。それにあの男は頭が切れるようだ。もし何か裏があるのであれば私を通さずに何か画策できるだけの男に見える。
この女を街で拾ってきたという理由だけにしては肩入れし過ぎている。なんだこの奇妙さは。この女をしばらく隠さなければ、この後宮であっという間に消される可能性がある。
あそこに連れていくしかない――。
張宏「ここだ」
張宏様は古びた門を押し開けた。
門の木は腐っているのかポロポロと落ちていき、開け切ると扉は崩れ落ちる。その先に広がる屋敷は真っ暗で、カビの生えた壁、中庭にある池はヘドロが溜まっている。草木も生い茂って人間が住む場所とはとても思えない。
最初にいた牢屋のような部屋と変わり無いくらいの不衛生さだった。
張宏「あんたはここじゃ1ヵ月も持たないね」
温花「楽しんで見せます」
張宏「ここに案内された女は何人も死んで墓場だと言われている。それでも楽しめるというのか」
温花「墓場を花園にしてみるのも楽しそうですね」
張宏「どこの誰かもわからん奴に侍女、女中も付けられん。皇帝がここにくることはない。それでもいいのか」
温花「え――。一人でいいんですか?!」
その女は怖いくらいに嬉しそうにしている。他の女をもしこんな場所に案内すれば怒って帰る。この女もここに連れてくれば怒って諦めて帰ると思っていたが、変なやつだ。
張宏「食事は適当に9時、12時、18時。屋敷の左側に棚がある、そこから受け取るように」
温花「それっていくらかかりますか?」
張宏「金か?下級妃といえど妃に食事をさせないとなれば、私が殺されるよ。かかるはずないだろう。他の妃とやっかいなことを起こすんじゃないよ――」
荒れ果てた「墓場」の屋敷には「貧乏草」と呼ばれる「春紫菀」の花が白や薄紫があちこちに咲いている。まだ咲くことが許されていない蕾はうなだれているように下を向いたまま。空洞な茎に無数の花がのしかかる。
その縁起の悪い花を温花は1つ摘み取る――。
温花「――あっかんべー!(笑)」
手入れの行き届いていない荒れた場所、貧乏な家に生える春紫菀。
踏まれても、どんなに痩せた土地にも生える生命力。
春紫菀の花を押しつぶし、黄色の筒状花の膨らみが白い花びらから舌を出すよう――。
妃が「墓場」や「春紫菀」の自由さを喜び、私の考えの上の飛び越えていく――。
この後宮で孤独は苦しみになるはず。まだ長い溜息でしか、この泥臭い変わった娘を評価することができない。
張宏「いいかい!この屋敷から出るんじゃないよ!」
強い口調の張宏様は急ぎ足で墓場の屋敷から出ていく――。
ここ墓場と言われている屋敷なのに広さはある。
墓場にしたいのであればもっと面積狭くてもいいんじゃ?不衛生さはあるけど屋敷の作りは立派な装飾も、色もたくさん使われている。
ここを「墓場」にしたい人が居たんだろうな――。
ここ一人で好きなように使っていいってことだよね?
これ夜までに寝ても怖くない環境作っておきたいな。
スマホの時間は11時前。
もしこの時間が合っていれば日が沈む時間まで掃除すれば結構片付くんじゃ?後宮ってもっと華やかなイメージだったけどご飯貰えて、最初環境さえ整えておけばゆったり過ごせるのなら、いっかー。
掃除道具とカビキラーとか池の水の入れ替えもしたいな――。
現代に帰れるのかも試しておきたいし、今のうちに必要なものを取りにいくのもありだよね――?
温花「墓場、よろしくね」




