作られた男から創る男へ✿
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北の地の建物は冬の寒さを凌ぐため石造りの建物で、音がよく響く――。
どうも楊兎が温花の食べ物を摘まみ食いしてしまったようで、部屋の外で大揉めしている。平和な争いだ。
華国の大将軍相手に争いを吹っ掛ける女は温花くらいだろう――(笑)
この騒がしさが日常になる北の地も悪くないな。宮中の堅苦しい塀の中とは違う。
役割はそれぞれ持ち合わせているが、これが家族と呼べるような空気が溜まらなく温かい。
温花「あーっ!楊兎!」
楊兎「え〜温花、もう腹一杯なのかと思ってた!ごめんっ!ごめんって〜!」
温花「甘味買ってきてね!!!」
楊兎「わかった!買ってくる!」
朕の花は母、皇太后のような傲慢さも無く、あの奔放な気性が許されているのは、ある種の存在感――周囲を惹きつける力を持っているからだろう。
我先な部分もあるが、自分の感情を大事にし、周囲を陥れるようなことは決してするような者でない。それが華国には無かった温度を与えてくれているのだろう。
心から愛おしいと感じたもの。これが朕の守るべきもの――。
目の前では温花はわざと楊兎のお茶を苦く淹れたのか、楊兎は苦みを感じたのか頭を傾げている。何でも口にする楊兎も一応は苦みを感じるのか――(笑)
温花は苦しむどころか「ん?」と首を傾げるだけの楊兎を見て、温花の眉間に悔しそうな皺が寄る(笑)
まだまだ楊兎の生命力のほうが上手なようだ。
楊兎「茶の葉が多いのか?」
温花「気のせいだと思います!」
楊兎「そっか~気のせいか~。甘味の後だしな~」
苦みを気を留めず剣の手入れを始めてしまう楊兎の後ろで温花はまだ悔しそうな顔をしている。よほど気に入った甘味を食べられたのだろう。
山源「将軍様に毒を混入させた事件として取り上げられなくて、良かったですね――」
横で山源はため息を漏らし、完全に呆れ顔だ。
楊兎が今回毒見をしてくれたが、そもそも楊兎には毒さえも効かないのではないかと疑念を抱いてしまう。
親友と呼んでいる男に毒見役。
最も横にいて欲しいと思う女に毒見役。
大事にしたいと思う人に毒見役をさせなければいけない自分はどれだけ弱いのか、どこが立派な皇帝なのか。なんと間抜けな最高権力者。
毒を盛る手を止めたい。
毒を盛らなくていいような関係にしたい。
家族のような国にしたい。
俺が終わらせなくてはいけないのでは――?
自分の力で守れない男が国民を守れるのか――?
この花が入宮してからというもの朕の感情、持っていたものの価値が分からなくなる。
作られた「皇帝」のままはこの世の全てを持っていた。知っているつもりだった。
今まではうまく回ってきた、そう思っていた。
ずっと反抗なんて反抗しなくてよかった。
衣食住、欲を満たすには全部後宮が満たしてくれる。
だが、どうだ――?
朕の中で疑問、違和感が生まれる――。
北との貿易を行うこの地で、いつまで俺の国なのかも定かではない――。
宮廷、祝街、下庭、花街……差別化が進んでしまったのもそのように仕向けた皇太后の思惑も俺は気がつけなかった――。国は人でできている、そこで生活している。
この北の地の遠征はこの時期なんだ――?
北の地を訪問する提案は俺が幼い頃、母親が決めたことだ。その理由は北の地はまだ新しく治めた場所でもあるため、朕がこの地にやってくることで華国の地であることを見せつける意味を持っている。
俺は楊兎が年に1回でも里帰りができれば嬉しいだろう、なんの疑いも無かった。
これが表向きの理由だが――。
皇太后様の周り、朕が見えている範囲だけが良いように見えていただけなのか――?
手入れが行き届いているようには見えない。草が生え、虫が自由に飛び回る。でもどこか懐かしい。あの屋敷へ帰りたいと思うようになって行った。
宮中全体が全て自分のものであるのだが、人が多すぎる、整備されすぎている。
楊兎、红京、温花にすっかり懐いてしまった侍女の陈莉さえも家族のようだ。
俺は後宮の中をこのような場所を増やしたいと。
こんな場所を国に、民に守ってほしいと――。
皇太后に守られていただけ、皇太后にうまく使われていた息子、皇子、皇帝だというただのお飾りだ――。
全部、知りたくなかった。
ずっと俺はすごい皇帝であるのだと思っていたかった。
「作られ続ける」そっちのほうがずっと楽だ。
俺は、生きてきて自分の感情も、他人の感情にも興味無かったのか――。
買い物に出掛けていた楊兎は袋いっぱい抱え部屋に入ってきた。
口は忙しそうに動いている。
楊兎「なんだー、悩み事か?(笑)」
華辉「笑うな」
楊兎「人間ならそう思うってー。俺が華辉の立場なら悩み過ぎて食欲落ちる〜」
華辉「そんなもんなのか?」
楊兎「そんなもんだ(笑)」
華辉「そうか……早めに宮へ帰ろう」
まずは皇太后様と話をしなければ。俺の作りたい国を伝えていかなければ。
山源「お食事、お気に召しませんでしたか?!」
山源は慌てふためいている。
荷解きを終えた温花は大きな荷物を抱えて部屋にドスンと置く。
楊兎の買い物袋を見て、目を輝かせる。
温花「楊兎!ちゃんと買ってきたの?甘味っ〜」
楊兎「これ温花の分」
温花「わっ!いい匂い〜っ!」
そうだ、俺はこの笑顔を見ていたい。
国がこんな笑顔を絶えない場所にしたい――。
温花の身を好きにできると暴れた日も、楊兎との婚姻を進めたのも。北の地へ温花を侍女にまでして同行させたのも。後宮縮小し、温花を守ると行動に移したのも「皇帝ごっこ」。強引な決断を簡単にしても許される、と――。
「祝街」など大層な街ができたのは朕の力だった、のか――?
朕の敵は朕自身だ――。
華辉「――違う。帰ってやりたいことができたのだ」
華輝様の顔は、何か大きな決心を秘めた、まさに本物の『皇帝』の顔だった――。




