摘めない花✿
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横では红京が呆れた顔で目を細める。
いつだって冷静な红京には敵わねーな(笑)
馬に乗ったこと嫌な顔すると思ってたんだけどなー(笑)
温花は外の空気が美味しいと大きく吸い込み休憩を始める。
しゃがみ込み、野花を見つめ嬉しそう――。
红京「――それは薬草になりますよ。金銀花というお花です。夏の暑気あたりや風邪の初期に用いられ、お茶に混ぜて飲めますし、花の蜜も吸うことができますよ」
温花「飲めるの?!だから金銀花っていうのかな。……でも摘んでしまったら、帰りにこの花が見られなくなっちゃうし~」
温花に話しかける癖が付いているのか、薬草を見ると動き出してしまう職業病なのか金銀花の説明を始める。花を摘んでしまうのは勿体ないと、甘い蜜の香りを温花は楽しんでいる。
红京「そうですね、俺も摘めない花がありますので、その気持ち分かります――」
红京は金銀花の弦に摘もうと手を伸ばしていたが、その手を止め横に座りこむ。
温花「毒があるとか……?」
红京「ふっ(笑)それよりももっと危険かもしれません……っ(笑)」
温花「何その花っ(笑)触っただけで死んじゃうの?!(笑)」
広い大地の野花が咲く場所に二人はしゃがみ込んで何やら神妙な顔で花を見ていたかと思えば、医者として線引きをしようとしていた男も笑っている。
金銀花は絡みつく弦から「結びつき、離れない愛」を連想させる花でもある。花言葉の「献身的な愛」は色恋の意味に留まらず、まるで二人の関係のようにも見える。
温花「――陛下にお茶を届けてくるね」
楊兎の視線を感じ、侍女として立ち上がる。ここは墓場の屋敷ではなく北の地に向かっている旅の途中。今までのようには居てはいけない。
隊列に守られるように真ん中に位置し、兵たちは警戒を緩めることなく目を光らせる傍に皇帝華辉様の馬車が止まっている。
この華辉という男がどれだけの存在なのか思い知る。
侍女として旅に同行したからには仕事をしないと――。
温花「長旅お疲れ様です。お水をお持ちしました」
華辉「車酔いしていたのか?楊兎と馬に乗っていたみたいだが」
温花「どうしようもないくらい車酔いしてしまいました……」
華辉「まぁ、いい。侍女の衣も似合っている。あと、そのお団子も」
温花「あ……気分が悪くてすっかり忘れていました……(笑)はい、ありがとうございます」
自分の容姿のことを忘れる妃なんているのか?(笑)
いや、そもそもそこらの妃と同列にできる女では無かったな……(笑)
山源「華辉様、そろそろ出発します」
華辉「この車に温花を」
山源「それでは侍女と旅をしたことになってしまいます。皇后様や上級妃に説明がつきません」
正論をぶつけられると華辉様は不貞腐れてしまう。まだまだ青年なのだ。
若くして皇帝にならなくてはいけなかった華辉様の気持ちも理解してあげたいのだが――。
温花「陛下、あたしは大丈夫です。他の侍女たちは交代で歩いているようですし、あたしも散歩してきますね」
温花様は笑顔で自らの足で歩き始めた。
妃の立場があるお方は侍女として旅に同行するなどプライドが許さないものだろうが、温花様は言葉通り、それも楽しんでいるように見える。
また、侍女としての働きっぷりは本物そのものだ。
お茶を出し、水を汲み濾過し、荷物の整理などよく周りが見えている。
このような人物が入宮してすぐ皇太后様から目をつけられるようなことをし、華辉様をここまで振り回し、貴妃の李珠江様のことを敵に回し続けている。うまくやろうと思えばいくらでもできたのではないかと思えてしまう――。
妃よりも侍女のほうが向いているのでは?
いや、元気な侍女が付くお妃様たちも大変になる、か――。
到着すると荷物を忙しそうに運び、宮中とは違う作りの屋敷の中を見て走り回る。
華辉様は不安そう、というより構ってくれないことに不満そうだ。
山源「お疲れでしょう、明日に向けてもうお休みになりませんか?」
華辉「そうだな、食事を一時間早めよう」
温花「えー!一時間も早く?!間に合う?!」
山源「すいません、温花さ……。温花、侍女たちをよろしくお願いします」
ここに着いてきた侍女たちはまだまだ若い侍女たちばかりだ。
皇帝からのお手つきがあり得ないであろう、そのような幼い歳のものばかりだ。
温花は最年長として今回の旅の侍女頭となっている。
温花「荷解きはあとでします。まずは食事の準備を行い、配膳をします。疲れている様子なので量は少なめで良いです、間に合わせましょう。そのためにもまずあなたたちも少し栄養を取ってください」
一人に1つずつ軽食を配った。
それから幼き侍女たちはせっせと言われるがままに配膳まで済ませた。
山源「毒見もいたしましょう。ここは国の中といえど外側なので、様子を見なければいけません」
温花「それではあたしがやりましょう」
山源「それでは私が罰を受けてしまうことになります」
山源様は驚いた様子だった。
毒味なんて進んでやるようなことではない。
温花「この子たちに毒見をしろと?この子たちの未来は私より長いので、私が」
红京「何を言ってるんですか。そのときは山源様の首が飛びますよ。もう少し自覚を持っていただきたいのですが。温花」
温花「どのような?侍女としての務めはしっかりできたと思います」
红京「あなたはもう少し立場を考えてください」
红京の言う自覚は妃であることのようだ。
だが、今は侍女としてここにいる。
红京「医者の俺が毒見薬になります。1番近しい知識を持っているのは俺であると思います」
山源「そうですね、すいませんがお願いできますか?」
温花「だめ!あたしがする!红京は陛下が倒れた時に助けなきゃいけない大事な職!だから侍女のあたしが」
温花お嬢様は必死に红京様を引き留めた。
毒が入っていた時、この遠征で華辉様になにかあったとき対処できる人がいないのも確かに大変なことだ。それだけではないからこれだけ红京殿のことを引き留めているのだろうが……。
命をかけるということか。
それが華辉様のためであるのか。
红京殿のためであるのか。
2人は神妙な顔つきで、耳打ちをし始めた。
温花「――あんな小さい子たちに毒味なんてさせたくないし、红京が倒れたら病人怪我人でたときどうするの?!……あたしがどうにもこうにもいかなくなった時は現代に帰って、治療してもらって……!絶対こっちに帰ってくるから」
红京「何言ってるんですか……?……解毒剤作ってから俺が飲みますので、温花はその小さい侍女たちが不安にならないように努めるべきです……」
二人はコソコソと何かを言い争って、皿を取り合っている――。
まさか毒見役を奪い合うことになるとは――。
華辉「食事をするだけでもこれだけ迷惑をかけなければいけないのか……」
騒ぎになっている様子を目にした華辉様は落ち込んでいる様子だった。
どれだけ自分が甘えた環境で生きていたのか、突きつけられたのだ。
楊兎「うわー!うまそー!誰も食わねーの?!」
红京「大事をとって毒見をしなければいけま……」
楊兎「なーんで毒味なんかしなきゃいけねーんだろうな。そんなこと思わなくていいのになー」
红京「恨みなんてどこで買っているのかわかりませんよ」
楊兎「華辉が恨まれてんのかー」
楊兎将軍は次から次へと食事を口にし、美味しそうに食べる。
楊兎「全部うめー!華辉、早く食って寝ろよー!(笑)」
温花「楊兎なんでも食べてるから毒の耐性とか持ってるんじゃ無いの?大丈夫?(笑)」
朕は――。
俺は――。
生まれた時から母親に従って生きてきた。
権力も、知識も持っている母親、皇太后に従っていれば、字も綺麗に書けた、勉学も、知識も困ることなく過ごせた。
毎日ずっと何かをする。他のことを考える時間を与えられない。何かに常に集中している。
周りの子どもがどのように過ごしているのかは関係ない。
皇帝になるためだけに、賢い大人になるためだけに、育てられた、いや「作られた」のだ――。




