酔い✿
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楊兎「あ、红京もういいのー?」
走り抜ける馬車の中から緑の衣の人物は軽やかに飛び降りる。
红京「やはり……貴方でしたか。楊兎将軍は何を考えてるんですか……温花様が乗ること知っていて、俺をあそこに乗せておくなんて」
楊兎「えー、そうなのー?」
楊兎将軍は棒読みで全く感情がこもっていない。
これは分かっていたな。妃と二人っきりにするなんて、この人は何を考えているのだろう。
楊兎「红京、何か安心してるのー?そうじゃ無くなった時それはそれでいいのー?」
遠回しに言葉を選んでいる。
この人は楽観的に見えるが核心を突くことができる。真実を自分の目で判断することができる人物。天然なのか、天才なのか。呆けた顔は、愛嬌すら含む。
楊兎将軍は俺が安全な場所からしか温花を守ろうとしないこと、完全に手が届かなくなったときはそれでもいいのか?と問い詰めたいようだ。
温花は間違いなく皇帝華辉様からの寵愛を真に受けている。それが今までの後宮の在り方、寵愛の仕方とは異なっているからまだ上級妃になることは無いと甘い考えをしている、時間の問題だと。
温花様と何かあるように勘ぐられていたのか――。
この暑くなってくる空気の中、この大将軍は涼やかに銀髪を靡かせ、俺の奥を見透かそうと覗き込む。本当にこの人はどんな顔をしても絵になることが男の俺でも悔しくなるほど。
红京「俺は俺の仕事をするだけです」
俺の仕事は医者。まだ見習いという存在だができることは傷や病を治療することだけ。
温花という一人の人間をどうこうすることはできない。
ただ同じ現代から来た人間として手を伸ばして置く義務はある。それだけだ。
医者見習いは全て知りえない。
もし陛下が温花が侍女として今回の旅に同行していたと公にされているのであれば「寵妃」と宣言してしまったことになる。
その理由よりも、遠征期間中は楊兎将軍もあの屋敷には置いておけない、旅に同行させることで温花の身の安全を取ったことのほうが腑に落ちる。
この旅で医者見習いと温花に男女の関係があるなど勘ぐられてしまえば、皇帝陛下からも命が狙われる可能性、恨みに転じた権力者の手が伸びるのも一瞬だろう。
医学館へ赴いたときに陛下は男装した温花を強引に連れ戻した。
楊兎将軍の球が飛んで、温花が腰を抜かしたときも。
俺がこれ以上、温花に近づく理由を作ってはいけない。
ただ、医者として手を差し伸べていることにする必要がある。
楊兎将軍は人を弄んでいるけど、そろそろ辞めて欲しい。
温花がこちらに向けるあの顔が俺にはよく理解できない。
皇帝陛下華辉様、後宮の妃たちが酔いしれてしまう美形の顔立ちと男らしい体つきを持ち合わせ、一国の権力を持ち、あれほどまでに温花への思いを寄せ、形にしている――。
楊兎将軍は剣の師匠、温花と兄妹のように笑い合い楽しそうな時間を過ごし、何よりもあの銀髪に整った顔立ち。皇帝華辉様に次いで宮中人気2番手、男性人気を合わせたときには――。
そんな二人を毎日見ている温花は何か血迷っているとしか思えない。
それとも――。
温花が生きていくための手段の1つなのかもしれない。
そうでなくては皇帝、将軍たちがここまで気遣うほどの女性になることはできなかったのかもしれない。
「墓場」と呼ばれる屋敷の主人の笑顔は間違いなくそこで咲いているように見えるが――。
温花「死ぬかもしれない――」
墓場の主人は侍女として荷物車の中から――。
体をまるで幽霊のように乗り出し、グロテスクな状態。
红京「何やってるんですか。しっかり車の中に入ってください」
温花「……红京……酔い止めが欲しい……」
先ほどまでよく喋っていた人物は口元を抑え、真っ青な顔で 完全に乗り物酔いをしていた。
だんだん悪路になっていく車の中で酔ってしまっても仕方のないことだ。あの人の性格上、楽しみでよく寝ることができなかったのだろう。
遠足程度に捉えていたんだろう――。
红京「対症療法としては寝てください。疲れがたまっているんです」
温花「あっちの高級車とは違うから〜……(笑)」
真っ青な顔のまま示す先には皇帝華辉様が乗る綺麗な車。こちらは粗末な荷物車。ここまでして華辉様は温花を後宮に置いて行けなかったのだろう。
红京「そうですね、温花は今回侍女としての付き人なので我慢しないといけません」
温花「わかってる……」
楊兎「あ~!!我慢しすぎた結果がこれなんだろ?それなら温花馬に乗るか?」
温花「馬になんて乗ったことない……」
楊兎「外の空気吸えば元気になるだろ!」
この先の皇帝華辉様の休憩地点まで行かなければ酔い止めを調合する時間の確保が難しい。
楊兎将軍が提示してくれた打開策の馬も一人で乗るのも困難だろう。この顔色のまま歩かせるわけにもいかない。このまま荷物車で体を休めことが現実的。
「ですが楊兎将軍、乗れる馬はもうありません」
楊兎「温花、こっち」
楊兎将軍は温花の体を荷物車から引っ張りだし、力いっぱいに自身の馬の上まで抱え上げた。今までの戦の中で負傷兵を運んだ経験があるため、筋肉質な腕と体は温花一人抱えて馬を乗りこなすことは簡単。
真っ青の温花は体を揺らされ真っ青どころか、真っ白になり目も開けられない様子で過ごしていた。はず――。
温花「――馬さん!こんなに高いの?!」「楊兎将軍とあたし乗せて重くないかな?」「うわぁ〜さっすが大陸山が大きい〜!」「馬号か、馬丸か――名前何にしよう――」
楊兎「名前は決めてある!ゴンゾンゴウゴウだ!」
温花「ゴばっかり!(笑)馬号のほうが呼びやすいよ?!(笑)」
楊兎「ゴあると強そうだろ?!」
馬の上で景色を楽しみながら、静かな隊列に元気な声が届く。
この会話を耳にする人たちはどっちもセンスが無いと思っているのか、静かに肩を揺らすしかない。
温花「ゴンゾンゴンゴンありがとう!」
楊兎「ゴンゾンゴウゴウだ!」
温花は優しく馬の首を撫で、馬を飛び降りる。思ったよりも高く膝を痛めたのか「やばい」としばらく動けない様子。
その温花の姿を兵たちは興味津々な様子で見ていた。
それもそうだろう。将軍と友人なのか、妹なのか、それとも――。
考えを巡らせても追いつかない関係性。
楊兎将軍は温花が侍女の仕事に向かい、馬の手入れを始める。もう酔い止めを調合する必要はなくなったようで良かったです。
楊兎「红京も乗るか?!」
红京「貴方が結婚できない理由出来上がってしまいますよ――男2人で乗馬なんて、また楊兎将軍が男色だと噂が立ちますよ。俺相手に。」
楊兎「そんな噂あったのか(笑)红京も練習するかー?」
红京「勘弁してください」
本当に勘弁してください――。




