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終わりと始まりの花【谢国復路編突入】  作者: はな
温花【後宮編】

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楽しみな場所✿

◇いつも見てくださる方、最新話から楽しんでくださる方も、本当にありがとうございます!

◇執筆・なろう共に初心者ですが、一話一話大切に書いております。温かい目で見守っていただけると嬉しいです。




 楊兎やんとぅ「あー楽しみだなー」



 剣技の素振りを終え、大きな体をドスンと椅子に腰かけ銀色の綺麗な髪を風に靡かせる。

 楊兎やんとぅ将軍はこれでもかと大きな口を開け、静かに首を横に振る――。

 完全に口を滑らせてしまったのだ。

 この動揺を隠そうと、その大きな口に握り飯を頬張る。


 これほど分かりやすい人が皇帝陛下の親友で大丈夫なのか、こちらが神経尖らせてしまう。露骨すぎる動揺にこちらも笑うしかなくなる。



 温花うぇんふぁ「あたしが聞いて大丈夫だった?(笑)」

 楊兎やんとぅ「あ……えっとな……」



 この大将軍と下級妃のあたしが友人として並んでいること。

 楽しいだけじゃ終われないことも、身構えるべきこともあるのではないかと思っていた。

 少しカマを掛けると楊兎やんとぅ将軍は子どものよう大きな体を震わせ始め、縋るように手を力いっぱいに握る。

 包帯の中にある肉刺まめが少し痛むけど、お腹の中から湧き上がる面白さと、楊兎やんとぅ将軍にとってもこの「墓場」が心休まる場所になってくれていた喜びのほうが痛みに勝る。


 

 楊兎やんとぅ温花うぇんふぁ……ごめん……聞かなかったことにしてくれるー?ね!なっ?!お願い!」

 


 手を握る楊兎やんとぅ将軍に呆れ顔で睨む皇帝華辉ふぁほい様が黒と金の衣を靡かせこの屋敷に入る。楊兎やんとぅ将軍は兎が穴に隠れるように急いで飛び跳ね、あたしの体の後ろに隠れようと必死だ。



 華辉ふぁほい「その必要はない、楊兎やんとぅ。今度の遠征は温花うぇんふぁを連れて行くことにした」

 楊兎やんとぅ「はっ?!……それは上級妃だけでなく、皇后様も黙っていないだろ?!」

 華辉ふぁほい「温花のことは妃としてではなく、侍女として連行する。そうすれば周りも気を遣わなくていいだろう?(笑)」



 今度の遠征――?

 その遠征が楊兎やんとぅ将軍のお楽しみだったの?


 皇帝華辉ふぁほい様は自信満々にあたしを侍女とし、遠征に同行させると告げる。

 隣の山源しゃんやん様も楊兎やんとぅ将軍と同意見のようで、何度も頷いている。

 

 

 楊兎やんとぅ「北へ行くことに温花うぇんふぁは――」

 華辉ふぁほい「北に行くことは毎年決まっているだろ?そこに温花うぇんふぁが行くのは当たり前だろ?」


 

 ――そこに人の感情は無かった。

 

 当たり前を当たり前にする。これが当たり前。

 悪気なんてそこにないからこそ、こちらに決定権はない。


 この国の皇帝が「当たり前に必要」としてくれることは、当たり前じゃない。

 あたしはここに存在していい理由の1つを自ら壊す必要はない。

 だから笑って受け入れる――。


 これがあたしの生き方だから――。


 

 温花うぇんふぁ「――侍女したことないですし、楽しみにしておきますね」



 温花うぇんふぁの顔はすっと遠くと見る――。

 あ、今のは。自分の感情を無かったことにした。


 

 楊兎やんとぅ「――侍女として温花うぇんふぁは働けないだろう?妃してるんだぞ?」

 華辉ふぁほい「好奇心旺盛の温花うぇんふぁならすぐ覚えるだろう。朕も、楊兎やんとぅもいない後宮に置いてはいけないだろう?」


 

 それはそうだ。正論だが――。

 温花うぇんふぁの気持ちはどこだ――?



 

 華辉ふぁほい「それでは向かう」



 皇帝華辉ふぁほいの言葉は宮中の大きな門を開き、轟轟と大きな車輪、隊列が前へと進み出す。皇帝一人の休息のためにどれだけのお金と、人間が使われているのだろう。これを準備する人達の苦労も考えるだけで息が苦しい。


 楊兎やんとぅ将軍の言う「楽しみな場所」は夏の避暑地、北の地。

 戦いに行くのではないこの毎年恒例の遠征は将軍にとってはこれ以上ない楽しみになる。きっと北の地の食を一番の楽しみに、剣の鍛錬にも力が入って、よだれを垂らしていた。



 温花うぇんふぁ「よいしょ」



 侍女の服は簡素化されていて動きやすさ重視の衣は身軽に感じた。


 侍女は荷物車の片隅に座り込む。

 中は豪華な荷物で溢れかえり、小さな隙間から景色、光を見て風を感じる。



 「まさか、温花うぇんふぁ……?」



 あたしの名前を知っている人。

 あたしの名前を優しく低い声で呼んでくれる人。

 耳が熱くなり、体の底から電撃が走る。

 

 この薬の匂いの正体は荷物の1つだと思っていた。

 目を凝らし、車がガタガタと揺れ、小さな隙間の光が照らす先は――。


 

 温花うぇんふぁ「……ほ、红京ほんじん?!」

 红京ほんじん「どうして温花うぇんふぁ様がここに……?」

 温花うぇんふぁ「今回侍女として旅へ同行することになって……红京ほんじんは仕事が忙しいと聞いたんだけど……」

 红京ほんじん「医学館はお年寄りが多いので。遠征の長い道のりに耐えられる人がいなくて、結局俺に。重大な任務すぎて正直困ってます」

 温花うぇんふぁ「……本当に困ってる?(笑)」


 

 红京ほんじんは今回の旅の経緯を淡々と話し、少しでもスペースを広げようとしてくれたのか体を小さく丸める。本当に困っているような言葉の抑揚には感じない、ただとても冷静な姿にしか見えない。


 あたしはそんな冷静にできるか、と――。

 どちらかと言えば心は踊り、焦りからあれもこれも口から言葉溢れ平然を装う。

 


 温花うぇんふぁ「――红京ほんじんは日本のどこから?」

 红京ほんじん東京とうきょう温花うぇんふぁは?」

 温花うぇんふぁ福岡ふくおか


 

 まさか荷物者に红京ほんじんが居るなんて。

 まさか红京ほんじんも今回の遠征、一緒に居るなんて。

 まさか红京ほんじんと現代の話をするような二人の時間があるなんて。

 

 红京ほんじんは妃では無く、親しい友人のように話してくれる時には「様」を無くして名前だけを呼んでくれる。今は红京ほんじんは気を抜いて話してくれている。それが、嬉しい。

 

 この世は、この大陸はあたしたちが暮らしていた日本の現代とは景色が全然違う、红京ほんじんはこの景色を見て嬉しそうだった。あまり笑わない红京ほんじんが笑うと本当に嬉しいんだって、伝わってくる。


 

 温花うぇんふぁ红京ほんじんも嬉しいことあるんだ……」

 红京ほんじん「まるで人が感情無いみたいに……夢を見ているような気分になる。こんな格好をして、馬車に揺られて、薬草かき集めて医者やってるなんて」


 

 红京ほんじんは優しく話してくれる。

 耳がじーんとなって、脳みそが痺れるような感覚になる。

 红京ほんじんの雰囲気と声があたしにとって癒しだった。

 

 ゴンッ。たまにこーやって馬車が大きく揺れる。

 整備されていない道に石が転がっていることがあるようだ。


 

 温花うぇんふぁ「いったー」


 

 その揺れで頭を打つ。


 

 红京ほんじん「こんなお転婆な侍女がいては主人が大変だな(笑)いや主人がお転婆でも陈莉が大変そうだけど(笑)」

 温花うぇんふぁ红京ほんじん……っ!」

 红京ほんじん「半分本気で半分冗談。後宮にはきっといい刺激になってる。妃が侍女になって旅に同行するなんて初めてだろうし。ここまでして旅行に行きたかったなんて」

 温花うぇんふぁ红京ほんじん、これは陛下が考えたんです」


 

 その言葉を聞いて红京ほんじんは目を細めた。

 あれ、今の言わないほうがよかったやつかも――。

 

 

 红京ほんじん「……そこまでして旅に同行させたいなんて、温花うぇんふぁは何をしたの……?(笑)」

 温花うぇんふぁ「何も……」

 红京ほんじん「お妃様だと知って、医者見習いの俺が同じ馬車には乗れないので、降りますね」

 温花うぇんふぁ「――」


 

 待って――!

 またここにいてと言えない――。


 あんなに楽しかった時間をもう終わらせなきゃいけないなんて。

 自分が後宮に入ること望んでいたのに、一番近くにいたい人を遠ざけてしまうことに悔やんでしまう。


 红京ほんじんは馬車から風に連れされるように飛び降りた――。

 あたしは小さく丸まって時間が過ぎるのを待つしかできない弱虫だ。


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