音の無い世界✿
◇いつも見てくださる方、最新話から楽しんでくださる方も、本当にありがとうございます!
◇執筆・なろう共に初心者ですが、一話一話大切に書いております。温かい目で見守っていただけると嬉しいです。
梟「――だめだ、これも読めない」
ひやりとした空気。月の灯りだけが目先の暗闇を照らす。
小さな音でさえもこの静かな夜では響いてしまう。
「梟」はこの夜を味方に付け、目を光らせ飛び回る。
宮中の書庫は紙臭く、天井まで聳え立つ棚が並ぶ。
この平和な華国に過去を生きるものは居ない。
埃の被った書物は湿気を帯び、開くとカビが張り付いているものも多い。
この書物にある事柄は綺麗に整えられた歴史。
華国を建国した華の名を名乗る皇族。
前皇帝は隣国との緊張状態を緩和させ、大国華国として作り上げた。その偉大な男が愛した女こそ現皇太后であること。
英雄として完璧な物語。男女の愛の完璧な物語。
宮中で懸命に仕える人を称える書物、上級妃たちの偽りなき家系図。
皇太后様の豪華絢爛な「鳳華殿」の素晴らしい建築技術を披露する資料。
これが華国の教科書として並ぶ。
だが「墓場」についての記載はこれだけの書物がありながら、この書庫には無い。
空白の妃、空白の歴史は静かに消えて行くことを待っているよう。
後宮管理人の張宏様は真実を知っている人物の一人かもしれないが、書物にも残すことができない機密内容についてあの人が話すとは思えない。もし、張宏様が話してくれたとしても次に空白にされるのは張宏様となってしまう可能性も否めない。
また今日も情報を収穫できない。
次に「空白」にされるのは花が咲き誇る墓場の変人である――。
温花「――红京、最近疲れてない?」
红京「どうしてそう思うんですか?」
温花「最近薬の調合にムラがあるかなって」
红京「――それはいけませんね。すいません」
温花が毎日薬を信頼して飲んでくれている証拠でもある。
微妙な違いに気がつける墓場の変人はまるで酒を飲み干すように勢いよく薬を飲み込む。
温花「ひゃ〜っ、今日も効いてるっ!(笑)」
つまりは苦いという顔で眉間に皺が寄っている。
この日常を過ごせる幸せな時間を壊されることを、許されていいはずかない――。
◆
あたしにもできることがある。
ずっと上手なこと。
今日の仮面を選ぶこと――。
友達と笑い合うための、カラフルな仮面。
子どもではなく大人と過ごすため大人になるための、強い仮面。
周囲に馴染むため、その空気に染まるため、必死に溶け込む。
どれだけ家の外で溶け込んでいても、家族には溶け込むことはできない。
必要とされていないと、存在が許されない。
上手に仮面被っているから「愛してよ」
「ここにいていい」と言って欲しい。
あたしの中にある仮面はもう何枚存在するのかわからない。選ぶのだって疲れる。
八方美人。大袈裟。嘘つき。そう言われても仕方ない。
もうこれがあたしの生きていい方法なんだから。
汗をかいて、前を見ているのに景色の情報は入ってこない。
息をしているのに自分の体はもう限界だって震えているのに、気がつけない。
音も、色もない世界に入る――。
泣きたくない。強い自分でい続けなければ、誰かの何かにならなければ。
何かに負けてしまう。
だからこの剣をあたしは握る。
ここであたしの存在を無くして仕舞えば、あたしはもうどこにいることも許されなくなってしまう――。
あたしは大丈夫。大丈夫だから。
まだ動ける。まだ仮面を被り続けられる。
红京「――温花、少し休んでください」
いつもこの優しい声があたしの色の無い、忙しく考えなければいけない世界から連れ戻してくれる。あたしの世界に色が戻ってくる。
ここにいる、と。
気が付いた時には手の先は痺れていて、息も整わず、手の肉刺の痛みがジンジンと染みる。
あたしはこんな生き方しか知らない。
どうしてこの人は生きていることに余裕があるんだろう。
どうしていつも同じようにいられるんだろう。
必要なことだけを選ぶことができるんだろう。
红京はいつだって隣に居てくれる。
自分の顔を向けて、立ち位置や存在がブレることもなく。
憧れだけじゃなく、あたしという人間を救ってくれている。
誰か、何か。ではなく自分が存在していることを当たり前にできるんだろう。
あたしがどんな仮面を被るか決める前から出会ってしまったこの人はあたしがどんな姿でも、いつも同じ距離でいてくれる。
「何もしなくてもいいの――?」「頑張らなくていいの――?」
でも、あたしにはどうすればこの人のようになれるのかわからない――。
だから今日も――。
温花「疲れちゃったー!(笑)」
この笑顔さえ忘れなければ、ここにいてくれる人たちがいる。
だから温花をやりきってみせるしかない。
あぁ、もう苦しい。
苦しいって、やってることは現代と何も変わらない。
この人に憧れてしまって、 あたしはあの人のようにはなれない。
あたしはあたしの軸がわからなくなった。
あたしは仮面を被って大人になったふりをする。
置いてけぼりの本当は泣き虫のこどものあたしをずっと隠さなきゃ。
红京が医者であり続けるために、あの人が壊れないように。
あたしがこの剣を握る――。




