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終わりと始まりの花【休載中】  作者: はな
温花【後宮編】
42/295

風と球✿

◇いつも見てくださる方、最新話から楽しんでくださる方も、本当にありがとうございます!

◇執筆・なろう共に初心者ですが、一話一話大切に書いております。温かい目で見守っていただけると嬉しいです。



 「山源とてもいい音色ね」


 そう、この優しい声が好きなんだ――。

 妻は目を細め幸せそうに耳を澄ませ、夫婦の安らぎの時間を作ってくださった。


 「墓場の変人」と呼ばれる温花(うぇんふぁ)様が送ってくれた風の音を鳴らす「風鈴」。

 華国(ふぁこく)では目にしたことのない品。

 綺麗な硝子細工に施された山と水の流れる絵。

 


 今日も今日とて、華辉(ふぁほい)様は「墓場」と呼ばれる屋敷へと向かう――。

 また一段と騒がしい屋敷の中は大きな声が響いていた。


 

 楊兎(やんとぅ)「やったー!俺の勝ちだー!」

 温花(うぇんふぁ)「楊兎(やんとぅ)!ずるい!」

 楊兎(やんとぅ)「何もズルはしてないぞ!?」

 温花(うぇんふぁ)「体格っ!体格のこと!」

 楊兎(やんとぅ)「温花(うぇんふぁ)はもっと食え!」


 

 降り続いた雨も上がり、雲1つない空の中楊兎(やんとぅ)将軍と温花(うぇんふぁ)様は球蹴りをして遊んでいる。まるで幼子のように球を追いかけるのは華国の大将軍と墓場の妃。

 皇帝華辉(ふぁほい)様は目の前の光景が信じられないと顔の表情を動かすことを忘れてしまっている。

 

 

 華辉(ふぁほい)「正気か……あの大男相手に……」

 红京(ほんじん)「……他の妃を見習って欲しいですね」


 

 医者見習いは一歩引いて細い目をやると、手は止めずに薬の調合をしてこちらもまた忙しそうだ。元気すぎるこの妃のために薬を調合する手間が増えたと、ため息を漏らす。

 


 華辉(ふぁほい)「医者の指導であれば温花(うぇんふぁ)も静かになるのではないか?」

 红京(ほんじん)「王令に耳を傾ける女性であれば、苦労せずに済んでいるかもしれません」


 騒がしいほうへ目を少しむけると――。


 衣がはだけるのも気にせず、寧ろこの長い衣が邪魔だと文句を垂れている妃は大将軍相手にリフティングを披露する。現代では女子高生の温花(うぇんふぁ)がリフティングできているということはそれなりにサッカーをして遊んでいた証拠。

 楊兎(やんとぅ)将軍はどうやるんだ!と目を輝かせ、指導を受ける。あっという間に身に着けてしまう様子に温花(うぇんふぁ)は悔しそうに、今度は手の指の上で球をクルクルと回してドヤ顔だ。


 王が自身の屋敷に赴いていてもこのいつもの様子は変わらない。

 あっという間に指の上で球を転がすと温花(うぇんふぁ)は悔しそうに楊兎(やんとぅ)将軍に球を投げつける。

 あの投げ方は――。

 足元を狙い相手が取りにくい場所へ角度と回転を付けて取りにくい球が繰り出される。

 ドッチボールの回数をこなした人間が身に着ける球。


 大きな体の楊兎(やんとぅ)将軍は足元の球に手を伸ばすが、ポロリと球が転がり落ちる。

 それを見た温花(うぇんふぁ)は「あたしの勝ち!」とニヤニヤと笑い、飛び跳ねる。

 


 華辉(ふぁほい)「あのような鍛錬は始めて見た――」



 皇帝華辉(ふぁほい)は新しい鍛錬だと感心し、球の行方を目で追う。

 山源(しゃんやん)は鍛錬ではなく、あれはただ遊んでいるだけだと喉まで言葉が出かかる。

 騒がしい屋敷にいる人物は楊兎(やんとぅ)将軍が力を込めすぎた球がブレ動き、作業を進める红京(ほんじん)のほうに飛んでいく球を見る――。

 一人の元気な妃を除いて。温花(うぇんふぁ)は球へ吸い付くように走りだす。


 

 楊兎(やんとぅ)「あっ!」

 温花(うぇんふぁ)「――红京(ほんじん)!危ないっ!」


 

 走り出した体は止まらず――。

 強い球を、横目に冷静な顔のまま片手で完璧にその球を掌で止める。


 

 红京(ほんじん)「――こちらに飛ばさないでください、と言いましたよね?仕事をしているんです――」


 

 調合されていた薬は周りに散らばる――。

 医者見習いの体の上に突っ込んでしまった妃は、静かになる。

 

 そんな温花(うぇんふぁ)お嬢様を体の上に乗せた红京(ほんじん)は目を細くする――。


 

 红京(ほんじん)「怪我でもしましたか?」

 温花(うぇんふぁ)「いや――元気。(いや、死んでるかも……)」


 

 元気なのはここに居る誰もが知っている。

 侍女の陈莉(ちぇんりぃ)は持っていた荷物を投げ捨て、主人の元に駆け寄り、球を飛ばした楊兎(やんとぅ)は「やばい!」近寄る。



 陈莉(ちぇんりぃ)「だ!大丈夫でしょうか?!」

 楊兎(やんとぅ)「おーい、球大丈夫かー?」



 红京(ほんじん)はまだ体の上から動けず、言葉も発さない温花(うぇんふぁ)を抱えたまま球の持った片手でふわりと楊兎(やんとぅ)将軍へ返す。



 红京(ほんじん)「球より体を大事にしてください」

 温花(うぇんふぁ)「いった……ぃ……指……足……打った……」

 红京(ほんじん)「楊兎(やんとぅ)将軍も妃相手に本気出さないでください。それと球を心配する前に妃のことを心配してください。あなたの給金では支払えない額の請求が行きますよ?」


 

 楊兎(やんとぅ)将軍はハッとし、歯をカタカタと大きな体を小さく皇帝華辉(ふぁほい)からバレないようにと隠れようとする。

 红京(ほんじん)は呆れた様子で自分の上に落ちてきた温花(うぇんふぁ)の背中をさする。


 

 红京(ほんじん)「立てますか?」

 温花(うぇんふぁ)「あ……うん……。きゃーーーーーっ!!」


 

 今までの静寂の時間を取り戻すかのような大きな声で温花(うぇんふぁ)は叫ぶ――。

 体を動かそうとすればするほど、空回り红京(ほんじん)の胸にぶつかり、罠にかかった小動物のよう。


 

 红京(ほんじん)「そちらから突っ込んできたのでしょう?こちらが叫びたいです」

 陈莉(ちぇんりぃ)「お嬢様動けますか?お怪我は?」

 温花(うぇんふぁ)「……ぁ……いや……あの……腰が――」

 红京(ほんじん)「腰が抜けたんですか?……楊兎(やんとぅ)将軍、しばらく球蹴りは禁止させてください。腰が抜けたは死活問題です」

 楊兎(やんとぅ)「あ……っ、あ、ごめん!温花(うぇんふぁ)!大丈夫か?!」

 温花(うぇんふぁ)「全然っ……、大丈夫じゃないと思う」


 

 起きあがろうとする温花(うぇんふぁ)お嬢様は力が入らないようで、顔を真っ赤にし崩れ落ちるように红京(ほんじん)の体に落ちていく。


 

 温花(うぇんふぁ)「ごっ……ごめんっ……力入んなくて……(笑)」

 

 红京(ほんじん)「華辉(ふぁほい)様すいません、回収をお願いします」

 山源(しゃんやん)「こちらも腰が抜けてます」

 華辉(ふぁほい)「――」


 

 温花(うぇんふぁ)お嬢様と红京(ほんじん)様のこのような姿を見て言葉を失い、白目を向いていた。その姿を見て楊兎(やんとぅ)将軍はよく状況を理解しているのか、いないのか、腹を抱えて笑う。


 

 楊兎(やんとぅ)「華辉(ふぁほい)何やってんだ!球飛んできたくらいでびびるなよっ!起きろーっ!(笑)」

 红京(ほんじん)「温花(うぇんふぁ)様動かしますよ?」


 

 红京(ほんじん)様はこの周りの状況を把握し、腰の抜けた温花(うぇんふぁ)お嬢様を寝床へと運んだ。


 

 红京(ほんじん)「明日は双六くらいに収めてください」

 温花(うぇんふぁ)「あ、あの双六飽きたの〜……」

 红京(ほんじん)「また新しいもの作ればいいじゃないですか」

 温花(うぇんふぁ)「あれで3作品目なの〜!もうネタが尽きちゃって」

 红京(ほんじん)「わがまま言わないでください。子が成せない身体になってしまったらどうするんですか!華辉(ふぁほい)様が困ります」

 温花(うぇんふぁ)「……あたし元気だから……!」


 

 寝床にそっと置かれた温花(うぇんふぁ)は反対側を向いて不貞寝してしまった。

 あの反応を見れば分かる。絞り出した言葉は医者を安心させるための言葉。

 温花お嬢様は红京様のことを――。

 

 華辉(ふぁほい)様もそのことは医学館のときからもう重々わかっているはずだが――。

 わかっていても目の当たりにするのは少し刺激が強すぎた様子だった。


 

 楊兎(やんとぅ)「華辉(ふぁほい)は温花(うぇんふぁ)のところへ夜はいかねーんだな」

 華辉(ふぁほい)「……他が忙しいから、な!」

 楊兎(やんとぅ)「強がって!(笑)まさか温花(うぇんふぁ)以外で使い物にならねーとかか?(笑)妃の被害者ださねーよーにしねーと、後々大変だぞ?プライドを傷つけられたとかでさー!(笑)」

 山源(しゃんやん)「楊兎(やんとぅ)様っ!」


 

 楊兎(やんとぅ)将軍は華辉(ふぁほい)様の背中をバンバンと叩きながら笑っている。

 華辉(ふぁほい)様は力なく、空を向く。その様子を見て察したのかやばいと固まる。


 

 楊兎(やんとぅ)「――何人の妃で試したんだ……?」

 華辉(ふぁほい)「李珠江(りしゅこう)合わせて3人だ……」

 楊兎(やんとぅ)「じゃ、早く温花(うぇんふぁ)のところに行けばいいのに」

 華辉(ふぁほい)「……」

 楊兎(やんとぅ)「この間のは温花(うぇんふぁ)も心の準備できてなかっただけだろうし、温花(うぇんふぁ)も後宮がどんなところかってことくらいわかってんだろ?別にいいだろー」

 華辉(ふぁほい)「では、楊兎(やんとぅ)の好きな女に好きな人がいてもそうすると言うのか」

 楊兎(やんとぅ)「んー、好きになってもらうう努力はする!」

 華辉(ふぁほい)「あのなー、簡単に言うけどな?!」

 楊兎(やんとぅ)「……身分として保証されてるじゃん!」


 

 楊兎(やんとぅ)将軍にしては悔しそうな顔をして、言い放った。珍しい――。

 二人が友人として会話をするこの空間はただの青年の空気になる――。


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