雨の日の桜華園✿
◇いつも見てくださる方、最新話から楽しんでくださる方も、本当にありがとうございます!
◇執筆・なろう共に初心者ですが、一話一話大切に書いております。温かい目で見守っていただけると嬉しいです。
雨が降り続くこの湿っぽい時間にも鉄を振るう音が屋敷から聞こえてくる。
誰が首謀者なのか分からない事件。
あの日から温花お嬢様の剣にも力が入っていることが分かる。
雨が邪魔をしようとしても何度も、何度も振り上げて力を込める。
自身の身に力が欲しいと笑って見せる。
楊兎「よっ!温花!――剣が錆びるぞ~雨の日くらい休んだらどうだ?(笑)」
雨を浴び、髪や衣は重く温花お嬢様の体にのしかかる。
桜華園に気軽に来ることが許されているのは楊兎将軍のみ。
今では友人だけではなく、剣の師匠として温花お嬢様は慕っている。
温花「雨の日がこうも続いていたら、いつ鍛錬できるのか分からないし(笑)」
ようやく剣を振る手を止め、楊兎将軍を見て悪戯そうに笑う。
雨を含んだ衣を絞り上げ、髪を丁寧に拭き上げると二人で剣術の動きについて話し合う。
温花お嬢様お気に入りの圓窓の向こう側はさらに激しくなる雨を映し出す。
疲れ果て、崩れるように座り込む温花お嬢様にお灸を添えてくれるのはいつも红京様。
红京「あなたはお妃様だと言うこと忘れないでください。怪我でもされたら……困りますよ。それに濡れたままでは風邪を引きます」
温花「剣技と言っても、楊兎将軍のようなことはできないし!診察終わってから入るの!(笑)」
どうせ楊兎将軍のような剣を振るうことはできないと。
大将軍の剣のように成れないこと、それは誰もが分かりきっている。体だけではなく、力も、経験も、男女の差も埋まらないこと。
だが、どこか追いつきたいそんな意思を感じる。
红京「約束ですよ?――でもその刀は本物なんでしょう?おもちゃではありませんよ?」
温花「知ってる……、だから楊兎将軍の凄さが今痛感してるところではあるよ。魅せながら戦える人って存在するのかな〜……(笑)」
楊兎「魅せながら戦える人もいたけどなぁ……俺は力で押すしかないからなあ」
红京「それは闘い方が違うのですよ。楊兎将軍の剣技も群を抜いていますから、楊兎将軍の正解だと思います」
温花「楊兎将軍が魅せながら闘えると思っている人がいるって……すごいね!」
楊兎「会いて〜な〜」
楊兎将軍は魅せながら戦うことができる人物に会ったことがあるのか――。
いつも豪快に笑う大将軍が雨の流れる圓窓の景色に目を反らし、寂しそうな表情を見せる。
温花様はその様子を見て話題を変える。
温花「痛い、刀が重たい〜」
红京「しなくてもいいんですよ」
剣の鍛錬からくる痛み。
このような怪我、本来妃ならするはずの無い「皮むけ」「肉刺」を仕方なさそうに手当てを施す。弱音を吐く温花お嬢様に红京は冷静だ。
温花「――红京は剣を握ったことはないの?」
红京「俺は医者ですよ……?」
温花「うん、知ってる。红京は奪わなくていい――」
あまりにも真っすぐな言葉。まっすぐな視線。
いつもなら赤くなった顔を見せないよう反らす体を真っすぐと红京様に向けている。
「医者である」と言った红京様はあの温花お嬢様が刺客に襲われ、楊兎将軍と駆け付け、見つけてくれたのは、間違いなく红京様だった。剣は腰にぶら下げ、馬にも慣れたように跨っていた。
红京様は手当している、手を止める――。
红京「それは温花もです――」
「まるで温花が代わりに手を下そうとしているみたいだろ――(小声)」
温花「え――?今なんて言ったの?」
红京「少しは妃らしく過ごしてください、と――」
ぎゅっと力強く包帯を締めたのか、温花お嬢様は固すぎると文句を言う。
お二人それぞれが奪わずに済むほうへ。そう背を守り合っているよう――。
そして墓場の屋敷には訪問者が絶えない――。
次にやって来たのは黒と金の衣の男性。
大きな傘を山源が持ち、ここまで濡れることなく歩いてきた人物。
この気乗りしない雨の天気とは思えないほど「花咲く庭」は今日も賑やか。
楊兎は大きな口で圓窓に並んでいる鳥への餌を幸せそうに噛みしめている。屋敷の主人は風呂に向かったのか、奥から侍女と楽しそうな歌声が聞こえてくる。
あの医者見習いではない医者をこの屋敷の担当にするべきか。
なぜ俺の花はこの男にあの顔を向ける?わからぬ。
この医者見習いには俺の花を渡すわけにいかない。
この少年に花を守ることはできないだろう?少し揶揄ってみるか――。その程度のつもりだった。
医者見習いは朕に挨拶を終えると、淡々と仕事道具の整理をし、包帯の消毒作業を始める。
華辉「――医者から見てあの事件の首謀者は誰だ?」
その質問に医者見習いは眉を上げて、作業していた手を止める。
红京「私の答えによってはこの平和が失われてしまう可能性がありますのでお答えできません」
華辉「その人物が分かれば、解決できるだろう?」
红京「――山源様が報告しない判断をしているのであれば医者見習いの私から発言することはできません」
華辉「あの花を守ろうとしているだけなのだ」
红京「――それでは今からの言葉は医者見習いの独り言だと思ってください」
なぜ皆隠す――?
皇帝の力を持って妃一人守れないなどあってはならないというのに。
红京「――まず大きな改革だったはずの後宮縮小がこれだけ早く進んだのでしょう?」
その問いにすぐ言葉が出てこない。
独り言だと言いながらも、医者見習いの目は真実を求めていた。
红京「街の名も「祝街」など大層な名前がつけられ、祝街で力を持った人物はどのような人たちだったのか。……『墓場の変人』と呼ばれる下級妃は権力を持たずとも自由に生活し、寵愛受けている。権力を持つ人物には敵が必要で、ただこの屋敷で自分らしく生きたいと思った少女が巻き込まれてしまった物語だとすれば――。華辉様の敵意を向けなければいけない相手が身近な方だとすればどうでしょう?これは大きな渦になりかねないと判断し、山源様は時期をみようとしていたのではないでしょうか」
次に今日の診察の内容を淡々と帳簿に記載を進める。作業しながら皇帝と会話をする。このようなことは本来無礼事。だがこれは医者の独り言として受け取る必要がある。
圓窓の奥で流れる雨音に消えそうな小さな声。
医者見習いは最後の言葉を言い終えるとこちらを静かに見上げた――。
朕が敵意を向けなければいけない相手が身近な人物だとすれば?身内か、家との繋がりの強い高官か?温花を的とし、上手く画策されている、と。
つまりは真実に近づけば、国の平和を脅かす、と――。
红京「そして次の言葉を皇帝陛下に発した俺は、どうなるのでしょう――」
山源のあの不自然な報告書の真意を代弁してみせたこの男は、次の言葉を独り言だとしても口に出せない内容である、と。ただの医者見習いである男がここまで宮中だけでなく、華国全体を見渡し、権力構造を正確に掴んでいる。
朕は、俺は誰が事件の首謀者なのか。首謀者を捕まえることができれば、あの事件について解決ができると思っていた。だが、それは華国が内戦を始めてしまうきっかけになってしまうことを理解が及ばなかった――。
賑やかな声が響き渡っているのにここだけは時間が止まったように、息ができない――。
红京「――あの人がとても危険な立ち位置であること、なぜこの屋敷に送られたのか。この国の歴史を知るべき時が来たと俺は思っております」
自身がそうすべきだと感じているように見せ、朕にもそうすべきであると言いたげ。
独り言だと言いながらもこの刺すような視線は朕が皇帝として、一人の男としてこの闇と戦う覚悟があるのか見定めているようだ。
ただ働くのではない。
ただ生活するのではない。
皇帝として、意味を持って行動しなければいけない――。




