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終わりと始まりの花【谢国復路編突入】  作者: はな
温花【後宮編】

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水の源✿

◇いつも見てくださる方、最新話から楽しんでくださる方も、本当にありがとうございます!

◇執筆・なろう共に初心者ですが、一話一話大切に書いております。温かい目で見守っていただけると嬉しいです。

 

 宮中では「墓場」と呼ばれ、祝街からは「豪遊している妃の屋敷」と呼ばれる。

 墓場にしたのは誰だ?豪遊しているのは誰だ?

 

 今目の前で笑っている温花(うぇんふぁ)ではないだろう。何も知らない者たちが自分たちの都合が良いように言い始めただけだろう。

 

 なぜ温花(うぇんふぁ)が嫌味を受けなければいけない?

 ここで笑って過ごしているだけじゃないか――。


 

 華辉(ふぁほい)「――山源(しゃんやん)。本当の報告書はまだなのか」


 

 山源(しゃんやん)は華国最後の宦官。そして宦官最高位の太監(たいかん)として皇帝の側近を務めている人物。

 若くして朕の側近となった優秀な人物だ。地頭も良く、武術、白い肌と黒髪が中性的な品のある顔立ちをしている。


 

 山源(しゃんやん)「……あの事件の報告書につきましては、この屋敷の成り立ちから追わなければなりません。そして簡単に報告できる内容ではないため時間を要してしまいます。お待たせして申し訳ございません」

 華辉(ふぁほい)「山源(しゃんやん)とて、許せぬこともあることを頭に入れておけ」

 山源(しゃんやん)「はっ――」


 

 ――その人物は墓場の屋敷「温花(うぇんふぁ)」の異質さに鋭い目を向ける人物。


 皇帝華辉(ふぁほい)様が、一人の男として温花(うぇんふぁ)お嬢様をお気に召していることはこの目で見た。あの黒の衣に身を隠し、金の刺繍を光らせ守るように睨み据えたあの姿を。

 

 

 だが、あの妃は妃であるが、妃として大事なことを「拒否」したお方だ。

 

 華辉(ふぁほい)様が初めて拒まれたことでショックを受けていたのは言うまでもない。

 文通を続けていたのは華辉(ふぁほい)様のお心が優しいお方だったからで、本来ならば侮辱罪、妃としての使命を放棄されたことで追放、命が奪われる可能性もあった。


 事件に巻き込まれるのは時間の問題だと。

 その事件の首謀者について華辉(ふぁほい)様に報告することはこの宮中の均衡、国の平和を脅かすことになる。

 あの嘘の報告書を作成したのは華辉(ふぁほい)様のためでもあり、国のためでもあった――。


 あの下級妃に心動かされる。

 この国を動かされるわけにいかない――。

 

 

 山源(しゃんやん)「――温花(うぇんふぁ)様、お時間いただけますでしょうか?」

 温花(うぇんふぁ)「はい」


 

 桜華園(おうふぁえん)と名付けられた屋敷には鉄の塊、剣を握る妃が今日も鍛錬している。「墓場の変人」という名称もあながち間違いではない。

 

 額に汗を流し、肩で息をする。静かに剣を下ろし、鞘に収める。

 このような妃が異質だと思わないほうが難しい。


 

 温花(うぇんふぁ)「着替えてきますので少々お待ちいただけますか」

 陈莉(ちぇんりぃ)「お嬢様、こちらで体を拭いてください」

 温花(うぇんふぁ)「陈莉(ちぇんりぃ)ありがとう」


 

 まるで兵の一人のような切れ味のある目をしているかと思えば、侍女が駆け寄ってくると顔が和らぐ。この変化が「怖い」と私は感じる。


 客間からはこの屋敷の庭が見渡せ、見渡すと今日も蝶が自由に花々の間を舞い、鳥たちが嬉しそうに囀る――。

 草が風に撫でられ、優しく流れていく。


 

 温花(うぇんふぁ)「お待たせしました――」


 

 その風の主がこの妃だったかのように、温かい。

 一瞬で目を奪われた。

 先ほどまでの男のような格好でもなく、庭を駆け回る少女の姿でもなく。

 間違いなく一人の妃としてそこに立っている――。


 俺はここへ仕事できている。

 いらぬ感情は必要ない。

 温花(うぇんふぁ)様は俺を椅子に腰掛けるよう伝え、自分はそれを見て静かに座り、丁寧にお茶を煎れる。


 

 山源(しゃんやん)「――単刀直入にお聞きします。温花(うぇんふぁ)様はどちらから後宮へ入ったのでしょうか?」



 お茶を注ぐ手が一度止まり、温かい湯気が伸びていく。

 もう一度注ぎ始めると温花(うぇんふぁ)様は少し笑い、軽く受け入れる。

 

 

 温花(うぇんふぁ)「いつかは聞かれる日がくると思っていました。出自についてお話しできないのです。そんな者を後宮においておけないことも承知しております」

 山源(しゃんやん)「あの医者見習いは知っているのですね」


 

 太監(たいかん)の私を見くびられては困る。

 

 私が何も知らないと?

 あの感情を隠し通せると?

 数々の無礼を無かったことにできるとでも?


 皇帝華辉(ふぁほい)様を計算した上で寵愛を受けているのだろう?

 この屋敷に生えているこの立派な桜の木も、家具も。全て陛下からの贈り物、守られて生きている女が他の男にうつつを抜かしている、と――。


 一番汚いのは「墓場の妃」の温花(うぇんふぁ)ではないのか。

 

 

 温花(うぇんふぁ)「……知っていますが、全ては知りません。そのためあのお方を尋問することはどうか辞めていただきたいです」

 山源(しゃんやん)「華辉(ふぁほい)様の命を狙っているのであるのなら、山源(しゃんやん)ここであなたを始末しなくてはいけません」

 温花(うぇんふぁ)「そうですね。山源(しゃんやん)様はそのような立場なのも承知しております。私は華辉(ふぁほい)様のお命を狙ったとしても何の得にもなりません。皆さんのように家族、立場もございません。……陈莉(ちぇんりぃ)は張宏(ちゃんほん)様に命じられてここへ来なければならなかっただけです。お許しください」


 

 温花(うぇんふぁ)様は椅子から立ち上がり頭を下げ続けた。

 まさか妃の女が宦官に頭を下げるなど――!


 

 山源(しゃんやん)「頭を上げてくださいっ!……わかりましたので!……では質問を変えます。なぜ、後宮へ……?」

 温花(うぇんふぁ)「私は夢見ていたのです。あそこの圓窓(えんそう)で鳥と戯れ、花を見て。それだけでよかったんです。でも最近は皆さんと過ごす時間が楽しくて仕方なくて……。でもこの時間は続かないことわかっています……!華辉(ふぁほい)様は本物の皇帝陛下となり、楊兎(やんとぅ)将軍は出兵しなければいけないときが来て、红京(ほんじん)は医者見習いから医者へとなり人の命を救うため走り回るのでしょう。陈莉(ちぇんりぃ)は年季が開けてしまえばここへいる理由は無くなってしまいます……わかっております……」


 

 この目は言葉が嘘だと――。

 どんどんと目に涙を溜め、その涙を流さぬよう目に力を入れている。

 華辉(ふぁほい)様と同じくあの時間を噛み締めていることが伝わってくる。

 

 だが、太監(たいかん)の私は疑い続けなければいけない。

 皇帝陛下を守ることはすなわち国や民を守ることに繋がる。

 


 山源(しゃんやん)「温花(うぇんふぁ)様にはお慕いしているお方がいらっしゃるのでは――?」


 

 この真実を探る声は、小さく呟く。

 疑い続けることが仕事の私はこの一線を越えた問いを投げかける。

 

 その声にはっきりした声で温花(うぇんふぁ)お嬢様は答える。

 隠し通すつもりがないのか、隠し通せないと思ったのか。



 温花(うぇんふぁ)「ちゃんとしますから。――私がこの宮中でどのような目を向けられているか、理解しております。華辉(ふぁほい)様が大事にしてくれていることも、大事にしようとしてくれていることも。ただ私には経験も、知識も足りません。どのようにするのが正解なのか、もう少し時間を頂けないでしょうか。しっかりしますから」

 山源(しゃんやん)「わかりました――」


 あまりにも真っすぐすぎる言葉を続けた温花(うぇんふぁ)様は侍女の陈莉(ちぇんりぃ)に指示を出すと、木箱を机に置く。


 

 温花(うぇんふぁ)「山源(しゃんやん)様が多方面の間に入っていただいて大変なこともわかっているつもりです。これは完全に趣味を押し付けてしまって申し訳ないのですが。少しでも奥様と穏やかな時間が過ごせるようにと陈莉(ちぇんりぃ)と作った風鈴をもらっていただけないでしょうか」


 

 木箱を開けると透き通った硝子細工には絵が施されていた。空に伸びる高い山々。

 顔を見ると先ほどまでの妃らしい顔つきではなく、照れくさそうに下を向いている。


 

 山源(しゃんやん)「……なぜこれを?妻がいることを話しておりませんが」

 温花(うぇんふぁ)「すいません、華辉(ふぁほい)様との文通の中で存じ上げておりました。そして山源(しゃんやん)様の奥様は目が見えないと……少しでも季節を楽しんでもらいたくて……この涼しい音を奏でる風鈴で夏を過ごしてほしくて……」

 山源(しゃんやん)「これは妻への贈り物か――」


 

 風鈴の裏には山から海につながる川が描かれていた。

 そこには「山源(しゃんやん)」と名前も。


 

 山源(しゃんやん)「なぜ川を描いたのです?」

 温花(うぇんふぁ)「宦官にまでなった山源(しゃんやん)様が、私にはできない覚悟を持って国のために、陛下のために働いてくださっていて。国や人は山の中にある水が無くては川もできないし、海へも繋がらない。山源(しゃんやん)様のようだと、名付け親がとても頭のいいお方だったんだろうと思いまして!(笑)……違ったらすいません……!」



 喋り続ける温花(うぇんふぁ)様は顔を真っ赤にして、恥ずかしくなったのかその硝子細工を隠そうと蓋をして包みに戻す。


 

 山源(しゃんやん)「……今は亡き、父が付けてくださいました。その通りでございます……山にあるのは水の源です……」

 温花(うぇんふぁ)「よかったですっ」


 

 春の花のようにふわりと笑う温花(うぇんふぁ)お嬢様が嘘をついて華辉(ふぁほい)様、華国(ふぁこく)を壊そうと企てている人物にはとても見えない。

 大事にしているものを大事にしてくれる人物はこの宮中で必要だ。華辉(ふぁほい)様が必死になる理由がようやくわかった――。


 

 そのあと温花(うぇんふぁ)お嬢様はそれで?!

 奥様とどのように出会ったのか?!どんな言葉をかけたの?!

 陈莉(ちぇんりぃ)来て!急いでお茶とお菓子の準備しましょ!と、忙しい様子だった――。

 この一国の王が少年に戻れる居場所。誰かに壊されてたまるものか。

 

 完全に温花(うぇんふぁ)の流れに飲まれてしまった山源(しゃんやん)であった。




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