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終わりと始まりの花【谢国復路編突入】  作者: はな
温花【後宮編】

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華辉の内✿

◇いつも見てくださる方、最新話から楽しんでくださる方も、本当にありがとうございます!

◇執筆・なろう共に初心者ですが、一話一話大切に書いております。温かい目で見守っていただけると嬉しいです。


 初めてだった。

 自分の当たり前が壊されること。

 それが快感に近い感情となったこと。


 

 朕の顔では無く、池の中の鯉ばかりに目を輝かせる女。

 あの池の臭いが、鯉が泳ぎ水の流れが変わる音も特別なものに変わったあの日から。水面が揺れたあの日から。


 桜の木が欲しいとせがむ女に送ると、木の根が綺麗だと必死に手紙を書く。

 奇妙だった感覚が気になって近づいた。暇つぶしが興味に変わっていく。

 興味がまた変わっていく――。


 それだけだったはず。

 怒りを覚えた。


 

 山源(しゃんやん)「――華辉(ふぁほい)様!宮中のも森の奥から狼煙(のろし)が上がっております!何があったのでしょうか?!」


 

 宮中は静かに夜の準備をしていた時刻だった。

 焦って走ってくる山源(しゃんやん)はなぜ狼煙(のろし)が上がったのか混乱していた。

 朕が狼煙(のろし)を渡した人物は――。


 

 華辉(ふぁほい)「馬の準備を!」


 

 重厚な装備を身につけ、重く銀色に輝く剣を腰にかけ、これぞ皇帝の威厳の姿。

 慌ただしく馬に乗り込み、山源(しゃんやん)たちと狼煙(のろし)の上がった方角目指す。


 そこに既に楊兎(やんとぅ)将軍たちの隊は揃っていた。

 刺客は楊兎(やんとぅ)が拘束しており、緑の衣に身を包んだ医者見習いの少年は指示され血の滲んだ大きな包みを丁寧に開く――。


 そこには花が血に染まり青くなっていた。

 俺の花だ――。

 誰がこのようなことを――。


 堪えきれない熱が頭に登ってくるのがわかる。

 

 そしてこのような重装備をしたところで間に合わなかった自分は、外面だけで何もできていない。皇帝という仮面だけで何を大きな気になっていたのだ。

 もっと早く花を助ける方法を考えるべきだった。

 朕の敵は花を壊そうとするもの。


 医者見習いの少年は後宮の妃は朕しか慰めることができないと言う。

 ただの友人、医者は皇帝のような力を持っていないから、と下がる。

 早く楊兎(やんとぅ)が娶っていれば俺の花は傷つけられることなく済んだ。

 朕は朕の手で花を傷つけてしまった。だから離れていたはずなのに。

 朕がいるから朕の花は傷つけられる。


 この情けない皇帝の背中を将軍、友人の楊兎(やんとぅ)が背中を押してくれる。


 義務でも、政務でもない。

 怒っている。大事にしたくてもがく。友人楊兎(やんとぅ)にも渡したくない。


 

 華辉(ふぁほい)「温花(うぇんふぁ)――」


 

 朕の花の名を呼ぶ声も自然と優しくなる。

 この大切な花に手を伸ばすことも怖くなっていた。でも触れたくて仕方ないのだ――。


 

 華辉(ふぁほい)「山源(しゃんやん)、この事件の首謀者を必ず見つけるのだ」


 

 その言葉に熱が籠る。

 山源(しゃんやん)は一瞬固まり「はい」と返事をする。

 あの事件の首謀者を見つけるためならと政務にも力が入る。


 

 華辉(ふぁほい)「――なんだ、この報告書は」


 

 報告書に書かれていたのは「正八品(せいはっぽん)温花(うぇんふぁ)の自作自演」そんなはずはない。

 山源(しゃんやん)もこの報告書に目を通しているはずだ。これが事実だと?血を流すことを自ら望んでする人間など存在するはずがない。

 

 添えられた文書には朕の花を侮辱する内容が並べられていた――。

 「元妓女である」「梅毒持ち」「異国の要人と関係あり」「人殺しのため墓場へ」

 そんなはずはない。


 そうだ俺は怒っている。

 確かに変わった女ではある。

 だが文書に書かれたことが事実だとはとても思えない。この報告書よりも俺は温花(うぇんふぁ)を知っている。

 

 この報告書、温花(うぇんふぁ)を通して朕を侮辱しているよう。

 温花(うぇんふぁ)の名前を汚すような真似をするとは。胸や頭が焼けるようだ。


 報告書を投げ捨て「墓場」に向かう――。

 山源(しゃんやん)は慌てる様子もなく、文書を拾う。

 これを受け取ることは無いと分かった上で山源(しゃんやん)は報告書を回したのか。

 現実を受け止めさせるためか、または山源(しゃんやん)自身が作ったものなのか――。


 

 華辉(ふぁほい)「――温花(うぇんふぁ)の様子はどうだ?」


 

 刺客に襲われること、血が流れ意識さえ失ってしまった事件。

 恐怖に震えているはず――。


 

 「きゃーっ!やったぁ!あたしの勝ちね!」


 

 俺の声をかき消すほどの賑わい。嬉しそうな声が屋敷中に響き渡る――。

 温花(うぇんふぁ)は楊兎(やんとぅ)をニヤニヤと見つめながら、戦利品の菓子を急いで体の横に置く。楊兎(やんとぅ)は双六に負けたのか駒を机に投げ込み、悔しそうに自らの腿を何度も拳で叩く。

 

 

 楊兎(やんとぅ)「うわぁぁ〜!温花(うぇんふぁ)〜!」

 红京(ほんじん)「あまり暴れないでください。傷が開きます」

 温花(うぇんふぁ)「剣術させてもらえないから双六するしかないから、仕方ないの〜(笑)」

 红京(ほんじん)「本来、双六はもっと静かにできるはずです」

 楊兎(やんとぅ)「そんなんじゃ楽しくねーよな!温花(うぇんふぁ)!」

 温花(うぇんふぁ)「そうだー!そうだ!」


 

 楊兎(やんとぅ)と温花(うぇんふぁ)は双六の骰子(さいころ)を取り合ってどちらが先に振るのか奪い合っている。賑やかというよりもはや騒がしい。

 一国の大将軍、墓場と呼ばれる屋敷の下級妃が骰子(さいころ)を奪い合い、双六にここまで熱狂しているとは――。


 

 红京(ほんじん)「……いいですか、塗り薬の時間にまた来ますのでそれまで双六で静かに過ごしていてください。陈莉(ちぇんりぃ)、剣は隠し終えましたか?」

 陈莉(ちぇんりぃ)「はいっ!剣術用の履き物も完璧です!」

 温花(うぇんふぁ)「あっ!陈莉(ちぇんりぃ)が双六を抜けたのってそーゆーこと?!」



 妃である温花(うぇんふぁ)は大きな口を開けて、自分の靴が無いと頬を緩めながら侍女を睨みつける。そこに黒い感情ではなく、どこか可笑しさを含んだ空気。

 

 

 红京(ほんじん)「これは俺が頼みました。本日は楊兎(やんとぅ)将軍が屋敷に居てくれるそうですが、くれぐれも安静に。意識も失っているんですから」

 温花(うぇんふぁ)「あれは眠かっただけだし……」

 红京(ほんじん)「疲れが溜まっているみたいですね。本日は双六もせず、睡眠を取るよう指示だしますよ?」

 温花(うぇんふぁ)「わ、わかった!双六して待ってるね!……今度は陈莉(ちぇんりぃ)も入ってよ!」

 陈莉(ちぇんりぃ)「はいっ!」

 

 

 しばらくは剣の稽古を医者見習いに停められた温花(うぇんふぁ)は仕方なさそうに双六の駒を並べ、骰子(さいころ)を楊兎(やんとぅ)が早く振るように急かす。

 

 横では使用済の包帯を巻き上げ、薬箱をパタンと締める。

 

 

 红京(ほんじん)「いい子にしていてください」

 温花(うぇんふぁ)「……っ、それじゃあたしが悪い人みたいじゃん」

 

 

 顔を真っ赤にさせて顔を横に逸らす。

 なんだその反応は。あの医学館に赴いたときと同じだ。

 楊兎(やんとぅ)の信頼のある医者を桜華園(おうふぁえん)の医師にするよう指示していた。だ、まさかあの医学館で嬉しそうに話していた男だとは。まさか温花(うぇんふぁ)を入宮させたと言われる男だとは。

 

 医者見習いのことが――。

 まさか医者見習いに負けているとでも――?


 

 華辉(ふぁほい)「その双六、朕にもさせよ」


 

 気がついた時には体が動き出し、温花(うぇんふぁ)を自分の黒い衣の袖で隠す。

 朕の妃だ。

 触れていいのは朕だけだ。

 

 この顔を見ていいのも俺だけのはずだ。


 

 陈莉(ちぇんりぃ)「陛下っ……!」

 楊兎(やんとぅ)「おっ!華辉(ふぁほい)も双六するか〜!(笑)」


 

 医者見習いを睨む。

 だが医者見習いは顔色ひとつ変えず頭を下げ、一歩下がる。

 あの事件の時もそう。あの医学館のときもそう。

 別に自分は温花(うぇんふぁ)には気が無い。勝手に温花(うぇんふぁ)がそうなっているだけ、そう言いたいようだ。


 

 红京(ほんじん)「それでは他のお妃様の健康観察に行ってまいります――」


 

 医者見習いの男は薬箱を背負い、緑の衣を静かに靡かせこの屋敷を去っていく。

 だがあの目はなんだ――。

 最後まで見ているつもりだったが楊兎(やんとぅ)が何故か嬉しそうに俺の背中を叩き続ける。

 

 

 華辉(ふぁほい)「楊兎(やんとぅ)痛い。……温花(うぇんふぁ)」

 温花(うぇんふぁ)「陛下……あ、ありがとうございます」


 

 自分の袖の中から出てくる花の顔は潤んでいて、目を離せなかった――。

 

 あぁ、このまま袖の中に隠しておきたい。

 宮中の闇からも、あの報告書を書いた汚い首謀者からも。

 そして……「いい子に」と呼んだ、あの医者見習いの底知れぬ瞳からも。

 この花を奪うすべてから、俺の手で守り抜くと誓う。

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