馬車
華辉「それでは向かう」
大きな馬車の荷車の中にいる皇帝華辉の号令で隊列が動き出す。
侍女の服は簡素化されていて動きやすや重視の衣でいつもより身軽に感じた。
温花「よいしょ」
荷物車に楊兎将軍は乗せてくれた。中は豪華な荷物で溢れかえっていて、小さな隙間から外の景色がなんとか見える。
その小さな隙間から風が外の空気を運んできてくれる。
「温花……?」
その優しい声に耳が熱くなる。
よく目を凝らして見るとそこには――。
温花「……ほ、红京?!」
红京「どうして温花様がここに……?」
温花「今回侍女として旅へ同行することになって……红京は仕事が忙しいと聞いたんだけど……」
红京「医学館はお年寄りが多いからね。長い道のりに耐えられる人がいなくて、結局俺に。重大な任務すぎます」
温花「……本当にびっくりしてる?(笑)」
红京の姿を見て心が躍ってしまう――。
红京の存在が目の前にあることで焦ってしまい、あれも、これも喋ろうと頑張る。
温花「红京は日本のどこから?」
红京「東京。温花様は?」
温花「福岡」
红京と現代の話ができるなんて思ってなかった。
この世は、この大陸はあたしたちが暮らしていた日本の現代とは景色が全然違う、红京はこの景色を見て嬉しそうだった。
温花「红京も嬉しいことあるんだ……」
红京「まるで人が感情無いみたいに……夢を見ているような気分になる。こんな格好をして、馬車に揺られて、薬草かき集めて医者やってるなんて」
红京は優しく話してくれる。
耳がじーんとなって、脳みそが痺れるような感覚になる。
红京の雰囲気と声があたしにとって癒しだった。
ゴンッ。たまにこーやって馬車が大きく揺れる。
整備されていない道に石が転がっていることがあるようだ。
温花「いったー」
その揺れで頭を打つ。
红京「こんなお転婆な侍女がいては主人が大変だな(笑)いや主人がお転婆でも陈莉が大変そうだけど(笑)」
温花「红京……っ!」
红京「半分本気で半分冗談。後宮にはきっといい刺激になってる。妃が侍女になって旅に同行するなんて初めてだろうし。ここまでして旅行に行きたかったなんて」
温花「红京、これは陛下が考えたんです」
その言葉を聞いて红京は目を細めた。
あれ、今の言わないほうがよかったやつかも――。
红京「……そこまでして旅に同行させたいなんて、温花は何をしたの……?(笑)」
温花「何も……」
红京「お妃様だと知って、医者見習いの俺が同じ馬車には乗れないので、降りますね」
温花「――」
待って――!
またここにいてと言えない――。
あんなに楽しかった時間をもう終わらせなきゃいけないなんて。
自分が後宮に入ること望んでいたのに、一番近くにいたい人を遠ざけてしまうことに悔やんでしまう。
红京は馬車から風に連れされるように飛び降りた――。




