北の地へ
後宮という籠の中に閉じ込められていたはずなのにあたしは高い塀の外で馬車に揺られて昼寝をしている――。
楊兎「あー楽しみだなー」
剣技の素振りを終え、大きな体をどすんと椅子に腰掛け、銀色の綺麗な髪を風に靡かせる。
楊兎将軍はポロリとそう呟いた。
あたしは楊兎将軍の顔を覗き込んだ。
そしてやばい!と言わんばかりに大きな口を開いていた。
こんなにもわかりやすい人が居て良いのかと面白くなってくる。
温花「それ、あたしが聞いて大丈夫だったんですか?(笑)」
楊兎「あ……えっとな……」
何か国の中で内密なことを楊兎将軍が漏らしてしまうこともあるかもしれないと身構えていたところだった。
まさにその通りだったようで楊兎将軍は子どものように震え始めた。
楊兎「温花……ごめん……聞かなかったことにしてくれるー?ね!お願い!」
大きな手で包帯の巻かれた手を握りしめて必死だ……(笑)
それだけ楊兎将軍にとって心休まる場所なのだと分かった。
そこに笑いながら近づいてくる黒と金の衣を靡かせる陛下を見て、大きな体をあたしの後ろに隠れる。
華辉「その必要はない、楊兎。今度の遠征は温花を連れて行くことにした」
楊兎「はっ?!……それは上級妃だけでなく、皇后様も黙っていないだろ?!」
華辉「温花のことは妃としてではなく、侍女として連行する。そうすれば周りも気を遣わなくていいだろう?(笑)」
楊兎「北に行くこと温花は――」
華辉「北に行くことは毎年決まっているだろ?そこに温花が行くのは当たり前だろ?」
――そこに人の感情は無かった。
当たり前を当たり前にする。これが当たり前。
悪気なんてそこにないからこそ、こちらに決定権はない。
温花「――侍女したことないですし、楽しみにしておきますね」
この国の皇帝が当たり前に必要としてくれることは、当たり前じゃない。
あたしはここに存在していい理由の1つを自ら壊す必要はない。
だから笑って受け入れる――。
これがあたしの生き方だから――。
温花の顔がはすっと遠くと見る――。
満足そうな華辉の背中を追いかける――。
楊兎「――侍女として温花は働けないだろう?妃してるんだぞ?」
華辉「好奇心旺盛の温花ならすぐ覚えるだろう。朕も、楊兎もいない後宮に置いてはいけないだろう?」
それはそうだ。正論だが――。
温花の気持ちはどこだ――?




