花咲く庭
華辉様が「花咲く庭」と呼ぶ場所は「墓場」と呼ばれる屋敷だった――。
貴妃李珠江様の整った屋敷からどれだけ歩いただろう。
華辉様は自らの足でここまでやって来た――。
山源「――失礼承知ですが、どうして温花様を――……?
下級妃の一人があの李珠江様を超えることができるはずはない。
どこが劣っていると言うのか?どうして「花咲く庭」とまで言う屋敷へとなってしまっているのか?
皇帝として完璧だった以前の華辉様に戻ることはできないのだろうか――?
私の質問に華辉様は少年のように顔を赤らめる華辉様の仕草を見ればわかってしまう――。
どうして――?
華辉「――温花は皇帝である前に、朕を一人の人間として扱ってくれた人物なのだ」
屋敷の門を潜るとその先に後宮の屋敷の1つだとは思えない光景が広がっていた――。
「墓場」と呼ばれていたはずの場所。
妃が裾をたくし上げ、子どものように緑あふれる庭を走り回っていた。
その妃に釣られるように侍女が籠を持って笑顔で追いかけている。
先日刺客に襲われたことが嘘のようだ。
こちらに気が付くと「おはようっ!」と袖を気にする様子も無く大きく手を振る。
華辉「新しい双六はできたのか?」
温花「はいっ!綺麗な駒も作って見たんです!こっち!」
華辉様に送られた後宮な机の上には綺麗な石を削って作られた花の形になった駒がコロコロと包みから転がってくる。
籠の中には水色の蝶が入っており、それを誇らしそうに見せつけてくる。
温花「華辉様、こちらの蝶も見てください!羽の色がとても綺麗で!陈莉と捕まえたんです!……あっ!陈莉もう一匹あそこに飛んでる!」
妃が華辉様にお茶も出さずまた庭に駆け出してしまう。
華辉様は椅子に腰掛け優しい目で見つめている。
山源「なんと失礼な!」
華辉「あれが俺の花だ――」
華辉様はこんな風に笑うのか。
政務に追われ、感情を持つことを許されなかった日々が嘘のようだった。
屋敷が見渡せる客家には座ると鳥たちが綺麗な鳴き声を響かせながら集まってくる。
屋敷の中は手入れが行き届いていないのは侍女が1人だからというだけではなく、野花も綺麗に咲くことが許されいる。
そして竹の中に水が溜まると、コトンと音をさせる、透明な陶器に綺麗に色付けされて中の鈴が鳴る。
耳の中が透き通っていくような感覚に包まれる――。
私の不機嫌そうな顔を見た慌てた侍女がお茶を出す。
陈莉「お待たせしてすいません」
華辉「陈莉もとんでもない主人につかえてるな(笑)」
陈莉「大変ですが……楽しんです。任期が終わらないで欲しいと思うほどです!」
汗だくの侍女は楽しそうに笑う。
温花「陛下、お待たせしてます」
少し身なりを整えてきたのだろうが、頬は真っ赤で少し息が上がっていた。
華辉「皇帝を待たせるのは楊兎と温花だけだ(笑)」
温花「だって陛下くるなんて思ってなかったんです(笑)」
山源「だって?!」
こちらの心臓が出て来てしまいそうなその言葉使いに驚きを隠せない――。
その後は手作り感満載の双六で華辉様は日が暮れるまで「花咲く庭」で過ごした――。
華辉「――山源、今日は付き合ってくれて感謝する」
花咲く庭の岐路に華辉様は笑顔で感謝を伝えてくれる。
皇帝の側近なのだから当たり前のことをしただけ。まさか感謝される日が来るとは――。
欲に振り回されている人に囲まれ、感情を持てば振り回されてしまう、人間らしい感情を無くし流れに身を任せるほうが安全。
そんな環境で人生を過ごしてきた華辉様はあの妃から「心」を教わったのか。
権力でもなく、容姿でもなく。ただ一人の男。
「普通」になりたかった人間だったのか――。
花を綺麗だと心から言える日が来たと言うことなのか――。




