血
宮中の奥になる森の夜は光が届かない。
人の動物的感覚に頼るしか温花を探すことができない。
馬の鳴き声は聞こえず、この暗い森の中では馬は走り抜けることができない。
楊兎将軍も同じ判断をしたのか、馬から降り森の中を進んでいく指示を出した。
持っている灯籠で足元、行き先を照らすには光が足りない。
小動物や虫が動く音でも過剰に体が反応する。
红京「楊兎将軍、これは」
楊兎「血だな。まだ黒くない」
まだこの血が落ちて時間が経っていないことを意味する。
この垂れた血は宮殿に向かっていた。
……陛下が命を狙うなんて考えられない。
後宮縮小政策により街に追いやられてしまった妃たちは墓場に変人が住み着いてがから全てがおかしくなったと怪しんでいる。
誰かが命を奪う日を待っていた?その線の可能性が高い。
鈴の音がチリーンと静かな森に響く――。
これは温花へ渡した簪についていた鈴の音だった――。
簪が落ちたのか。
红京「楊兎将軍!今の鈴は温花のものです!」
楊兎「わかった!」
楊兎将軍は兵の最前線を突き進んでくれる。
その後ろのほうで楊兎将軍を守り、医者として手を差し伸べるのが俺の役目だ――。
この人が剣を振るえば、一溜りもない――。
暗闇の中で剣の先に集められた光があちこちに光り、鈍い音をさせる。
红京「私は医者です。お怪我ありませんか?」
「なんだ医者か……。怪我?その男に刺されてんだぞ!」
「先を急ぐんだ。医者はこんなところでさぼってねーで薬でも作ってたらどうなんだ?(笑)」
红京「そうですね、その布の中を見せてもらえると仕事に戻ります。薬の一部を無くしてしまって」
「これは医者に見せるようなものじゃねーよ」
红京「そうですか。あとそれ以上は動かないでください。そこに毒を撒きましたので」
男たちは頑なに持っている袋の中を見せたくないようで、まだ抵抗を続けている。
これ以上夜に動き回れると手がかかってしまう。尖った小さな棘の先に痺れ薬を塗ってあるものを撒く。
「いって〜っ!」
红京「だから動かないでくださいとお伝えしましたよね」
その棘の上をバキバキと音を立てながら歩いていく――。
红京「その袋の中身は何でしょうか?楊兎将軍はあなた方が素人のため腕を切り落としませんでしたが、あの人はできますよ?」
「ひぃ〜っ……!」
「わかった!渡せばいいんだろ!?」
「な、逃がしてくれよ!」
红京「人の人生を奪おうした人が、奪われずに済むと思っているのですか?」
剣を持たずここまで人を追いやれるのもすっげーよな。
感心してる場合じゃねーな。红京が手を出さなくていいように助けねーとな。
楊兎「……もうこれじゃ、どっちが悪者かわっかね〜な(笑)」
華辉「その男たちを捉えろ。真夜中に宮中へ忍び込むなど許されん」
「は、はいっ!」
暗闇から黄金の輝きを運んできた男が素早く指示を出す。
红京は腰につけた剣をやっと取り出し、布を丁寧に切る。
引き攣って持ち歩いたのか土や泥のついた布を捲ると白い衣が見えてきた。
その布には血が滲んでいる――。
红京の布を捲るスピードが落ちてしまう。
一旦呼吸を整え、また手を動かす。
華辉「医者、開けるんだ」
红京「はい……」
その中からは――。
温花は手足を縛られ、口を塞がれていた。
華辉「……すまない……、もっと早くに気がつくべきだった……」
華辉は温花へ手を伸ばさない。
温花の心を傷つけてしまったことを後悔している。
红京「……温花様は陛下の妃の一人です。陛下しか温様を慰めることができません」
華辉「医者はしないのか?」
红京「私はただの友、医者見習いでしかないので」
红京は手足、口の布をゆっくりと外して1つ後ろに下がり、悲観している場合でないと華辉を見上げる――。
華辉「楊兎。早くお前が娶らないからだ……」
楊兎「俺は将軍。前にも言ったけど――」
華辉「それは俺も同じだ。俺の手で傷つけて、また知らぬところで傷つけて――」
楊兎「華辉行け――」
愛することが臆病になった男の背中を押せるのは俺の使命でもある。
華辉「温花、大丈夫か」
温花「はい、おかげさまで……」
恐怖から震えていた温花は返事をすると真っ青になって気を失ってしまう。
温花に手を伸ばすこと恐れていたが華辉はすぐに手を伸ばした。
華辉「今回の事件は朕に対する侮辱だ。必ず首謀者を捕まえる――」
陛下は温花を抱えて行ってしまった。
これがこの世で一番安全な選択だ。




