一つの灯りと音✿
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「それで――?貴方はどこへ行こうとしているのですか――?」
太陽が陸に寝転び、月が静かな笑みを浮かべ笑う夜。
音もなく現れ、目は鋭く光る。
「いっ――!」
宮中の誰もが寝静まり、屋敷の灯りも消え暗闇に包まれるこの時間。
「この灯篭、細工がとても綺麗ですね」
細工が綺麗。貴重な蝋燭は長く伸びている。これだけで高価な灯篭だと分かる。
「忘れ物を――」
「忘れ物を取りに行くには屋敷の方角を間違えているようですね」
「夜なので道を間違ていました!!!」
慌てて屋敷に戻る少女。
「やはり――」
「策士だな~」
「餌は撒いておくべきです」
暗闇を支配するのは――。
◆
皇帝陛下は最近お忙しいのか墓場の屋敷へ顔を出さない。
その代わりに剣を振る顔の整った銀髪の男が毎日のようにやってくる。
稽古の様子を退屈そうに見つめる妃。
温花「楊兎将軍っていつでも絶好調で羨ましい。いつもこんなに稽古してるの?」
楊兎「温花は飯食え!まあな!今度剣技を競う大会があるんだ!最近は戦がないからな!腕が落ちないから心配だったし、丁度いい!」
剣技の大会。それはきっとこの大将軍が圧勝して終わるであろう大会。
楊兎将軍は自慢の剣を出し温花お嬢様に自慢をする。
何かに打ち込んでいる楊兎将軍を羨ましそうに、客家の縁にもたれかかる。
温花「いいな……あたしもやってみたい」
楊兎「見るんじゃなくて、やってみたいなんだな!(笑)」
温花「女が剣を握ってはいけない規則もあるの~?それにそのお祭りのこと誰も教えてくれなかった~も~」
红京「男女では力が違いますから。お祭り、貴方が行けば目立ちすぎます」
红京は今日の診察の内容を記録を終えると顔を上げる。
また怒っている、と温花お嬢様はムッと顔を反らす。
温花「他のお嬢様たちは見に行けるんだ~へ~」
楊兎「そうだなー。温花のことは華辉が隠したくて仕方ないからなー」
温花「市民としてもだめなの?」
楊兎「それか温花が仮面でも被って出場するかだな!(笑)」
温花「それはできるの?!」
楊兎「いやいや!ごめん!華辉は危ない橋を渡せる気はないぞ!(笑)」
あたしは知ってる――。
皇帝華辉がこの屋敷に来なくなった理由。
そして代わりのように楊兎将軍が顔を出すようになった理由。
これは華辉様なりの愛情。「墓場」と呼ばれる危ない屋敷にいるあたしと陈莉が守られていること。
剣技祭になんて行くことが許されないこと。目立つこと今はできないこと。
それだけじゃなくて。
帳簿に名前すら医学館には届いていなかったはず。他の妃様のように健康観察を取り入れた。そしてあの医者見習い红京を担当医にしたこと――。
だからあたしはもう红京を巻き込まないために「ちゃんと」しなきゃいけない。華辉様のために「ちゃんと」妃をしなきゃいけないこと。
わかってる――。
温花「……楊兎将軍、陈莉。今までたくさん心配おかけしました。月ものがきました――」
楊兎将軍と红京がいつも目を見合わせる。
あれは体調「だけ」を心配してくれているだけではない。
華辉様から押さえつけられてしまったこと、あれは本当に怖かった。あれは――。だけどそれ以上にあたしのことを大切にしてくれる人がいる。華辉様も寵愛を捨てずに、守ってくれている。
红京からの承諾を得て、楊兎将軍と陈莉に報告をする。これで二人を少しでも安心させる子ができる。
楊兎「そうか、体調戻ってよかったな!」
楊兎将軍は今日も大きな握り飯をどこからか取り出し、頬張って笑う。
陈莉は小さな肩を大きく動かし、胸をなでおろす。
温花「報告が遅くなってすいません。陛下には手紙を送っていたので、陛下から楊兎将軍にはお話しているかと思ったんですが」
楊兎「華辉は今、本当に国づくりに忙しいからな〜」
温花「国の父はさすがですね」
最後のスッと落ちたあの表情はこの後宮の中にいる、1人の妃としての顔――。
温花「ねぇ、楊兎。あたしにも剣を教えてよ――」
綺麗に着飾っているお妃様からは想像できない一言。
だが、中身は温花。
冗談ではなさそうな顔、真っすぐな瞳。これは冗談ではないこと――。
大きな笑い声を響かせそうな楊兎もその空気を受け取る。
誰よりも剣の重みを知っている人物だからこそ――。
陈莉「お妃様が剣を握るなど聞いたことがありませんっ!」
红京「……温花様が決めたこと、ですか……」
楊兎「陈莉もそろそろこのお転婆に慣れねーとな!……温花はこの剣で自分を守れよ」
温花「はい、お願いします」
この重い剣には人の命が乗る。
簡単なものではない。
これを持つことで笑顔ではなく、悲しく、辛いものを俺は見過ぎた。
銀の剣には覚悟した女が写る――。
剣を教えると今までの温花とはまるで別人の顔を魅せ、まるで空気が凍りついたように感じる。ここまで温花を変える原動力は何だ?
温花が剣を少しでも覚えてくれれば自分の身を守るための時間稼ぎをしてくれる。それだけでもいいと思ったけど。
红京の言うように男女の力は明らか。だが温花は男女の差さえ許さない、許せないと言うほど剣を力いっぱいに握りしめている。この細い手でこれまで握りこんでしまえば痣になる。
俺、華辉に怒られるな――(笑)
楊兎「――温花初めてにしては十分だな!」
温花「楊兎将軍がどれだけすごい人なのか思い知らされて……まだまだです」
楊兎「……でもそろそろ墓場ってだけじゃ、温花のことを隠せなくなるだろ?剣術持ち合わせている女だって知れば、また牽制できるんじゃねーのかなって!なぁ!红京?!」
红京「あぁ、はい」
楊兎将軍は温花が剣術を極めようとする姿を見てあれは喜んでいる。そもそも女性が、まさか妃が剣を握るなんて今まで前例が無かったことで楊兎将軍も楽しくなっているのだろう。
红京「貧血の薬を飲んでなんとか立っていて、稽古ばかりして痣だらけで。仕事を増やされているこっちの身にもなってください。お転婆娘すぎます」
楊兎「えー!红京怒ってんの?!」
红京「はい。ここに薬を持ってくるこちらの労力も少しは考えてください。女性は貧血が多くてこちらも困っているんですよ」
楊兎「おっ!温花、腰が低くていいなっ!!!」
红京のつぶやきはあっという間に剣を振るう音、衣が強く靡く音は広がりかき消される――。




