事件
墓場の変人と呼ばれた妃は家客で森の鳥たちに餌を与えるだけではなく、剣の稽古を始め自ら苦しんでいる――。
女性が鉄の塊を振り回すことさえも難しく、手の震えだけでなく、腕にも痛みが出て来ている様子だった。
温花「――っ」
陈莉「もうお辞めくださいっ!兵士や男性とは体の作りが違うので、体が壊れてしまいます……!」
温花「陈莉に心配かけるなってまた怒られちゃうかな……(笑)」
そう言って流れる汗を拭いて飛ばす温花お嬢様はとても頼もしく見えた。
太陽に照らされていきいきと伸びようとする花なのかもしれない。
温花「あともうちょっと――」
最近は苦しんでいるだけではなく、どこか楽しんでいる様子にも見えてくる。
大きな声と共に剣が空気を切り裂こうと、伸びる。そして、また剣が落ちる。
手は包帯まみれになっているのにどこか満たされている顔で笑う。
温花「陈莉今日もありがとう」
そう言って温花お嬢様は言ってくれる。
侍女をして仕事が報われる、楽しいと思えるのは温花お嬢様と過ごせるから。
満ちて、刺激のある毎日はあっという間に過ぎていく――。
ずっとこんな毎日が続きますようにと願わずにはいられない。
風の抜けていく音だけが流れる静かな屋敷に、何かが爆したような轟音響く――。
陈莉「お嬢様っ!」
布団を脱ぎ捨てて温花お嬢様の部屋に走る。
部屋の扉は誰かにこじ開けられたのか、床に倒れている。
周りを見回しても温花お嬢様の姿が見当たらない。
月明かりの照らされる窓が大きく開いて風が抜け、寝台の上は踏み荒らされたのか土がついている。
これは拐われてしまった――!
散歩から帰ってこなかったときよりも時間を争う、あのとき温花お嬢様を連れ帰ってくれた「梟」に助けを呼んでも間に合わないかもしれない。窓の裏側に飛び出るしか私にできることはない。
陈莉「温花お嬢様!どこですか?!」
屋敷の外では白い見覚えのある衣に身を包んだ人が男たちに囲まれていた。
「出生のわからぬ、女めっ」
「妓女は黙ってついて来い」
「そうか、この女は温花というのか」
「妓女のくせして皇帝の妃になろうなど(笑)」
「俺たちが遊んでからでも遅くないか(笑)」
私が温花お嬢様の名前をこの人たちに知らせてしまった……。
男たちは目の色を変える。
そんな男たちを見ても温花お嬢様は笑っていた。
温花「私を満足させることができるのですか?」
「そんな可愛いがってもらえると思っているのか?」
温花「私は剣を振るう妃だとご存知ですか?ここがあなたたちの墓場になりますが、よいですか?」
「こちらは男6人だぞ?」
温花お嬢様は手に巻いていた包帯を解いて、剣を握る――。
温花「陈莉!……楊兎将軍を呼んで!」
「楊兎将軍が下級妃の相手をするはずがないだろう?(笑)」
「あ〜そうか、お前は妓女だから将軍様のお相手もしていたのか(笑)」
温花お嬢様は私の背中を外へ押し出す。
鉄と鉄が交わる音は軽く響き渡る。
このままでは温花お嬢様が危ない……指示された通り、楊兎将軍を呼びにいくのが一番確実だ。
走り出そうとするとお腹に違和感を感じた。
これは何?筒……?狼煙だ!
この狼煙は誰から貰ったもの?
これが許されるのはあの人物のみ――。
誰からもらったものなんて後から考えればいい!
お嬢様は私にこれをするように外に出してくれたのだから!
狼煙の紐を震える手で力一杯に引いた――。
瞬く間に馬の走ってくる音が近くなり、野太い声が暗闇に響く。
楊兎「――陈莉!」
陈莉「温花お嬢様が男に拐われてしまいました!今屋敷の裏で一人で、まだ……あの手で……戦って……」
早く伝えたいのに怖くて言葉が段々出なくなっていく。
红京「陈莉は兵二人とここから離れてください」
その声の主は医者見習いの――。
红京様?
馬の手綱を引いて、腰には剣をかけている。
楊兎将軍が指揮する、その後ろでそっとサポートして……まるでこの状況に慣れている。
そして楊兎将軍と共に屋敷の裏へ馬に乗ってかけて行ってしまった――。
将軍と医者見習いの二人は親しい様子ではあったが、あの背中は医者見習いだけのものに見えなかった――。




