温かい花の名✿
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◇執筆・なろう共に初心者ですが、一話一話大切に書いております。温かい目で見守っていただけると嬉しいです。
静かに前を歩く红京の後ろに隠れるように慣れない街並みを歩く。
さっきの男はもうここへ来ない?
どうやって後宮に入るんだろう?
同じ現代から来たってだけで红京に迷惑かけてしまうのはいいのかな?
ちゃんと何か話さないと――。
大きく息を吸った瞬間、红京は振り返ってあたしを見下ろす。
红京「――あ、すいません」
「ん――?」
红京「歩くのが早かったですね。あれだけ走りましたからね。足が痛みますか?」
あ――。
この人は歩幅を合わせて歩いてくれる人なんだ――。
先に走って「ついて来い」と言われ、付いていけないあたしが悪いことばかりだったのに。
あたしにとってそれだけで衝撃だったのに、まさか足の心配されてしまうなんて。
「ううん、走るのは得意だから大丈夫!」
红京「後宮に入る条件を探っていたんですが……」
「条件ってどんなのがあるのかな?」
红京「血筋を大事にする国からすると良家のお嬢様がいいんです」
「良家のお嬢様には見えないか……(笑)ごめん、悩ませてしまって」
後宮に入るなんて簡単だったら皇帝の女ばっかりになっちゃうしね――(笑)
あたしももっと考えるべきだった。
红京「入れないことはありません。が、試験に知識か、美貌か……で合格する必要があります」
「どっちも無理なやつ……だ……(笑)それで红京悩ませてしまってたんだよね、すいません――。向こうの世界に帰れて、準備してくるってのは無しかな?」
良家のお嬢様では無いけど、それなりに現代の技術を持ち込めばできたりしないかな?
これができればネット通販とかで衣とか化粧品とかで準備するの楽しそうだし。
可能性の1つとして――。
红京「それができるのであればこの世界で生活しなくて済みますよ」
あたしの楽観的な考えを聞いて红京は少し呆れた様子で笑っていた。
確かに――。
無理にこの世界に執着する必要はないけど――。
「でも――」
红京「俺も、何度も帰る方法を考えましたが……一度も上手くいったことがありませんでした」
「だってここにせっかく来てるし……、やってみたいです」
红京「そんな簡単に帰るのは難しいと思います――」
红京は困った表情でこちらを見ている。
唱えてみれば戻れるってこともないのかな――?
「現代に帰りたいです!帰れますように!――」
あたしは何度も現代?に帰ることができるように唱える。
目を閉じて、想像する。ここにまた戻って生活できるように。
「どうかな――?」
次に目を開けるとあの桜の咲く河川敷に戻って独り言を喋っていた。
あれ?红京は――?
鼻の中に残る薬草の匂いはどんどん薄れていく。最後にあの薬草の匂いを力いっぱに吸い込んであれは現実に起きた事だったんだ、と体と確認し合う。
冷たい春の風があたしの体に当たる。
また空気を吸うとあの薬屋の女将さんに借りた服の匂いがして、あの世から現代に戻ってきたことを実感する。
河川敷の上には車があちこちに音をさせながら走り、ガスの臭いをばら撒いている。
え、ちゃんと戻って来てる――。
ってことは向こうに戻ることもできる――?
それなら、準備してしまおう――!
まるで遠足に出かける小学生のような感覚を久しぶりに感じた。
頭の中は他のことが全く気にならないほど忙しい。
あたしは死に物狂いで溜めたバイト代、小さな時から溜めてきたお金と通帳を全て握りしめて現代の街を走り抜けた。これであの家を出て行くと貯金してきたお金。
硬く無機質なアスファルト何度も踏みしめを車を追い抜くような足、夜の眩しいほどの光をかき分ける。
まずは服は絶対必要だよね。
後宮のお嬢様たちが来ていそうな衣はネットでたくさん出てきた。
色鮮やかな衣、装飾、生地。どれも可愛くて、どれも欲しい。
それと、化粧品とケア用品。可愛い衣も、靴も、髪飾りも。
未来の自分のための準備している楽しさを感じることができた。自分のための時間、自分のために使うお金。感情――。
何回こっちに帰ってくることができるのか分からない。
あたしは帰れて、红京が帰れないのってなんでだろう。红京は何度も考えたって言ってたし、聞いてみるしかないな――。
あれも、これもキャリーケースと、大きなカバンにリュックサックへ詰めこむ。
「――戻ってきます!あっちに戻りたいです!」
すべての荷物を抱き寄せあたしはこっちへ戻って来たときのようにずっと唱え続けた。
こんな簡単な方法であの世界と行き来できるなんて、おかしな話だって思う。
空気はあの薬屋の匂いに包まれ、目を開けると買い物に来ていた红京が細い目を見開いてこちらを見ている――。
红京「あっ……本当に戻ってきました……お、おかえりなさい」
「準備して来ました!あ、あと红京くんにおみやげ。お菓子セットです!」
大きく膨らんでいるカバンの中からお菓子セットを紅京に差し出す。
少し困ったように目を伏せるが、肩を震わせて笑い始めた。
红京「あなたって人は……(笑)『考えるだけ』では、だめだったんですね――(笑)これ、美味しいですよね。ありがとうございます」
「これで後宮に入れますかね……?」
現代で走り抜けた時間がこの穏やかな時間で冷静な頭を取り戻す――。
漢服に身を包み、着飾って、後宮に入りたいなんて。
なんて無鉄砲で浅はかな考えだったんだろう――。
红京の笑っている顔を見てようやくそんなことに気が付くなんて。
本当に恥ずかしい――。
红京「これで良家のお嬢様ですね。わかりました。俺から交渉してみましょう」
「……あ、ありがとう!あと、使えるか分からないんだけど、予備の携帯持って来て……」
红京「……何故か電波立っていますね。この時代に――。よくわかりませんが、使えるものは使いましょう。そう言えばお聞きしていませんでしたね。あなたの名前を」
楽しい気持ちですっかり忘れていたがそうか、この世界には電波塔が無い、はず――。
それに現代の名前をここで使うには浮いてしまうよね――。
「そっか……日本の名前使うなんてできないから红京って名前になってるんだよね?んー、それは考えてなかったです……」
红京「元の名前から作るのは簡単でいいですよ」
「そっか……あんまり自分の名前好きじゃなくて――」
”「○○」”
あの名はあたしの毒と棘を思い出させてくるから――。
こんな楽しい時間に暗い顔なんてしたくない。
红京の顔を見上げ、どうしようと苦笑いをする。
红京「そうですか。それではこちらで使う名前を考えてみてください」
「――红京が決めてくれる……?あたしこっちの名前の正解分からなくて」
红京「そうですよね。俺で良ければ――そうですね。春の温もりで……温花そのままで温かい花とかどうでしょうか?」
この温かい名前を红京は誇らしそうにあたしに名前をつけてくれた――。
この世の春の温度を体いっぱいに吸い込み、あたしの心は温かくなる――。
「――ありがとう……!すごい!中国っぽい!――そうします!ってノリで決められるんだ(笑)」
红京「はい、孤児などもこの時代では多いのでノリで大丈夫です。気に入ってもらえてよかったです」
「じゃあ、今日から温花でお願いします」
红京「はい、温花」
红京の優しい声で新しい名前を呼んでもらう。
耳が温かくなり、温かい花は红京のほうだ――。




