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終わりと始まりの花【新章準備中】  作者: はな
温花【後宮編】

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この時代の臭いと匂い✿

◇いつも見てくださる方、最新話から楽しんでくださる方も、本当にありがとうございます!

◇執筆・なろう共に初心者ですが、一話一話大切に書いております。温かい目で見守っていただけると嬉しいです。


 「えっ――」


 顔を上げるとさっきまでいたはずの河川敷では無かった。

 

 腰掛けている椅子は少し軋む音がして、夜の街には虫の鳴き声が響いて、月の光が優しくて温かい。心地の良い空気に包まれ疲れ果てた体は静かに沈み、夢の中でまたあたしは眠りにつく。


 眩しい光が瞼の裏まで光を届けて眩しい。

 体は凝っていて、ガクンと足が落ちると。大きな笑い声がする。


 「なんだこの女!(笑)」

 「こんな格好で誘ってんのか?(笑)」

 

 目をゆっくり開けると着物?を着た人たちがニヤニヤと覗き込んでくる。

 誘ってる?そんなわけないじゃん。ただここで寝てただけ。

 

 あぁ、これも夢か。

 また目を閉じると男が椅子を引き、地面に落ちてしまった。

 

 「いったぃ……」


 あれ……ちゃんと痛いし?朝の土は少しひんやりとする。

 見ていた人たちはまた笑っていた。あれ?夢じゃない――?

 

 近くにいた男は鼻に刺さる臭いを放ちながらあたしの腕を引き上げる。

 

 何この臭い。油が腐ったような臭い――。これも痛い――。

 拒否をしようと体に力が入る。


 「放してもらえますか?」


 愛想よくすれば離してくれるかもしれない。

 怖い思いを悟られぬよう、ニコニコと男の機嫌を取る。

 

 そうだ――。


 「尽くし女」「外面のいい女」は男にウケるから。

 別に好きでもない。そこに感情があるわけではない。

 

 あたしは求められることが心地良い。

 誰でも良かった。ここに居ていい理由が欲しかった。

 あたしへの愛が大きそうな人の隣に居れば安心できた。

 

 だけど、自分の興味のないものへ尽くし続けることは無理だった。

 また新しい刺激が欲しくて次を探す。

 

 過去に苦しめられてきた、「いい顔をする」という武器で。

 あたしはお金を稼げることを覚えた。

 この武器が今まで汗水流して働いていたお金が短時間で稼げることが自分の余裕にもなった。

 

 でも途中から誰かに思われることも疲れてしまい、深く付き合うことを辞めてしまった。

 

 自分の好きなときだけ、気が向いた時だけ、楽しそうな場所に、刺激のある方に身を置いた。なんて都合のいい女――。

 

 あたしは男たちに張り付いた笑顔を向け続ける。

 この男たちにはあたしがどうなろうと関係ない。ただの消費されるモノである、と。冷たい笑い声があたしの血流を奪っていく――。

 

 こんなこと続けていたってダメなことくらい分かってるのに、あたしはこの方法以外生き方を知らない――。

 

「――♪」


 男があたしを掴み上げつづけ、携帯からイヤホンが外れる。

 この異様な空間に現代の音楽が鳴り響き、携帯が光り続ける。


 男は驚いて、あたしの体を振り払う。

 男が掴んでいた腕は赤く、何か黒いものが張り付いている。なにこれ。

 男たちの悪意がそのまま肌に染み付いたみたい。


 今度は違う男が手を伸ばしてくる。

 

 嫌だ――。

 絡まる足を一生懸命動かす。


 走っている場所の風景が目に飛び込んできているはずなのに、どんどん流れていく。

 情報量が多くて脳が処理しきれず、息の音と自分の足音が頭に響いて、視界もどんどん狭くなっていく。

 このままじゃ持たない――。


「――こちらへ」


 優しい声が、あたしの体を止めた。

 止めてしまった足はもうガクガクと震え、うまく動かない。

 急いで走りすぎて酸素が足りないのか、視界がぼやけ、息が苦しくて言葉を返せない。


 「助けて」の言葉があたしは言えない――。

 

 黒髪の少年はあたしを建物の奥へ押し込む。

 あの脂の腐ったような匂いではなく、草?苦い匂い?を纏い、綺麗な緑の綺麗な衣を皺ひとつなく着こなしている。

 

 ここはお店なのか白髪の女性はあたしを棚の下に隠し、まるで何事も無かったかのように少年とやりとりをしている。


 「この薬草はやっと手に入ったんだよ」

 「ではこれと、いつものお願いします」


 男たちが通り過ぎていくと、店主の女性は同じ高さまでしゃがみこみ心配そうに見つめる。


 「大丈夫だった?」

 「はいっ!助けてくれてありがとうございます」

 

 震える体を隠すように棚の奥に入る。

 これ以上弱い姿なんて他人に見せるなんてできない。

 振るえる体を腕で抑えて、顔はいつも上手にできる笑顔で話し返す。


 店主の視線は光っている携帯へ移る。

 やばい――、音楽流れてるままだった。


 もしかして携帯ってここには存在しないもの?珍しいもの?映画のセットとかそんなのでもなさそうなこの世界観。この現実感のある空気。

 そっか……今さっきの大男が驚いたのも携帯だった。


 店の中に太陽の光が遮られ、また男たちの声が聞こえてくる。

 折角助けてくれたのに、あたしのせいで見つかってしまった――。

 

 「椅子に座っていた料金を支払え」

 「その子はいくらで買えるのか」


 また脂の腐ったような臭いの男が集まり、緑の衣と店主へ睨みを利かせる。

 関わってしまった人たちが危険な目に合ってしまう。

 助けられるだけじゃ――。

 

 「この人は売り物ではありませんよ。ここは薬草の店ですよ」


 言葉は優しく、こんなに品のある男の人を始めて見た――。

 顔立ちは綺麗で静かに商品を手に取って、男たちを軽くあしらう。


 「――今日はこれでどうでしょうか?」

 「金持ってるなら、さっさと出せばよかっただろ!」


 男たちは少年の衣を上から下まで見まわすと舌打ちをして振り返り、街並みに大きな声を響かせながらあの臭いが遠ざかっていく。


 「紅京ほんじん、金なんか渡せば今度はあんたが危ないよ」

 紅京ほんじん「座っただけで金銭を要求するなんて。あそこの店主の本性が分かったので助かりました。それにこのお金は民のものですからね。お返ししただけです」

 

 紅京ほんじんと呼ばれる少年は長い髪を靡かせ、こちらを見る。

 真っすぐな目は衣の緑を拾い上げ、透き通るような目を緑に染めている――。

 

 紅京ほんじん「女将さん、すいません。少し二人で話させてください」

 「わかったから。もう金はわたすんじゃないよ」

 紅京ほんじん「はい」


 事件に巻き込んでしまった女将さんは汗をかいていたのか、仰ぎながら店の奥へと入っていく。


 紅京ほんじん「――大丈夫です。俺も貴方と同じく、現代からこの世に来ました」


 綺麗な緑の衣に身を包んだ少年はこの薬屋の匂いのような独特な匂いがした。

 少年の耳元で喋る声は心地よく、その言葉は柔らかく一気に警戒心が解ける。

 そしてやっと体から力が抜け、床に体重がへにゃーと乗り、壁に寄りかかった。


 「でもなんで……」

 紅京ほんじん「俺は東京から来ました。俺は現代へ帰れなくなったので、ここで紅京ほんじんとして生活しています。あなたはまず服を着替えてください。ここでは制服は下着のようなものです」

 「そ……そうなの」

 紅京ほんじん「あと良ければこちらを使ってください」


 この時代の差し出されたタオル?布は少し硬い。

 そう言って紅京ほんじんくん?は女性に服を貸し出す様に言ってくれたのか、この街に馴染むような衣へ着替えることができた。


 紅京ほんじん「元の世界に帰ることがあなたも難しいのであれば働き口を探さないといけません」

「どんな仕事があるんですか……?」

 紅京ほんじん「この華国ふぁこくを知らない女性がこの世界で働くのは――。おすすめできない職業になってしまいます」

「ここで死んでしまったら元の世界に帰れないんですかね?」

 紅京ほんじん「おそらくそうなるでしょう。あなたは現代へ戻ることは難しそうでしょうか?」

「どうやってやるんだろう――?この国の後宮って入れないんですかね?」


 期待と夢、憧れを詰め込んだ目で紅京ほんじんくんの目をじっと見つめると、細い目を開き驚く。そして少し長めのため息を付く。


 紅京ほんじん「後宮ですか――。確かに条件を満たせば入ることは可能ですが――」

 「これっ!あたし後宮の衣とか屋敷とか可愛くて、憧れてたんです!」


 携帯の画像には中華風の舞台で、風に揺れる衣を着た長い髪の少女が窓際?で鳥たちに餌を与えている。


 紅京ほんじん「――わかりました。少し方法を考えてますので、着いて来てもらえますか」

 「ほんとっ?!紅京ほんじんくんありがとう!」

 紅京ほんじん「ここでは『くん』は必要ないんです。そのまま紅京ほんじんで大丈夫ですよ」

 「う、そっか。紅京ほんじん、お願いします――」


 红京ほんじんは薬屋の女将に衣代を支払い、男に付けられた黒い汚れを拭きとり、街へと歩みを進める。衛生概念が無いのだろう、黒い汚れはありとあらゆるものが混ざった汚れのようだった。


 あたしが振り払えないものを红京ほんじんは冷静に消してくれる。

 この静かな少年はあたしにとってとても頼もしく思える存在になっていた。

 この時代へと連れ出してくれる、そんな人物だった――。

 

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