皇帝の友
この宮中で一番男の匂いに包まれる空間、兵舎。
稽古場からは活気のある声、汗の匂いと熱が広がっている。
屈強な男たちは黒と金の衣を見ると、素早く動きを止め、跪く。
その先には、朝から汗だくで刀を力一杯に振り、空気が裂けてしまいそうな人物が立っている――。
楊兎「陛下、おはようございます。早いですね」
皇帝陛下と呼ばれる男に、この銀髪の男は軽く挨拶をする。
皇帝「楊兎早いな。どうだったか?」
楊兎「いや〜っ!華辉が言うだけあるな〜っ!……お前たち、素振り200回したら朝食に向かえっ」
「はっ!」
楊兎将軍の指示に男たちの低い声が響く。
楊兎「まぁ、部屋で話すか〜」
華辉「そうだな。どう身を滅ぼすか分からんからな」
楊兎将軍のいつもの部屋に入る。
そこには山盛りの「飯」が並べられて、暖かそうな飯から湯気が出ている。
華辉「で、温花はどうだったか?」
楊兎「すっげー綺麗だったっ!」
華辉「ではなく、夜のほうだ」
ニヤニヤとしながら腰をかける。
楊兎「……してない!してない!顔見た!それで充分だ!」
楊兎とは幼馴染――。
元気有り余る男は戦場で右に出るものはいない。
負けて帰る姿を見たことはない。
この男に嘘はない。
もう長い付き合いで、皇帝だという身分さえも忘れさせてくれる友は、この綺麗な顔立ちから想像できないほど中身は子供のようだ。
華辉「将軍のものは使い物にならなかったのか」
楊兎のことを揶揄うと不服そうに飯を頬張った。
楊兎「違う!違う!……あのさー!華辉が正八品から引っ張ってきた、墓場の変人って。実は気に入ってるんだろう?俺はさー、華辉から女子を取ることに興味がないんだよなー」
ヘラヘラと笑い、次の飯に手をつける。
華辉「楊兎!何を!」
楊兎「図星だな〜(笑)あんな奥にかくまって。将軍の嫁にすれば傷つけることはないと思ってんだろー?(笑)バレバレだぞ、華辉)ふぁほい)(笑)」
華辉「俺には皇后も、もう何人も妃がいる。必要ない。楊兎の女にするのが1番だろう」
楊兎「俺は将軍だ。いつ戦場で消えてしまうかわからねー。あの墓場の変人を1人にしてしまえば、それこそ何が起きるか」
華辉「楊兎……」
楊兎は高々に笑っていた――。
本能のまま生きているこの男は妙に感が鋭く、真っ直ぐに人間を見る。
俺の気持ちがそのように友の楊兎に映っているのか――?
この男を独り身にしておくには勿体無く、墓場の変人とも気が合うと思っていたが。
ではどうすればあの変人を守れるのか?
ん――。
そうか――。
楊兎に守らせようとしたことは浅はかだったと言うのか。
楊兎はそれを怒らない。
なるようになる。そんな男が俺は友人として大事だった。
俺にはないその心が。羨ましかったのだろう。
豪快な楊兎には敵わないと認めてしまえる友人に恵まれたこと嬉しくも感じる――。




