体操座りの少女への王令✿
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宝玉のお兄さんの言葉ではなく――。
皇帝陛下の言葉に温花お嬢様は頭を下げ続け受け入れる――。
桜の木を送り、墓場の屋敷へ「華国」の文字を送り「桜華園」とし、寵愛を示し、手紙を代わりに代筆する――。
下級妃相手にここまでの待遇、これ以上の提案は何があるのか。
皇帝陛下だと分かった上でこどれだけの無礼を働いた――。
何をすることになるのか。後宮から追い出すことが最善の判断とされるのか。
皇帝陛下は自信に満ち溢れた提案を告げる。
「――将軍と婚約するのはどうだ?」
手紙の代筆を終えた陛下は椅子に深くもたれ、さも当然のように言い切った。
黒と金の衣が太陽の光に当たり、空気がピタリと止まってしまう。
陈莉「えっ――」
恐怖に怯えていた私は皇帝陛下の王令に思わず声が漏れる。
今なんと――?
後宮で妃になるということは皇帝陛下の女性だと言うこと――。
まさか将軍へ自分の妃を譲る、と?そのようなこと聞いたことがない。
この提案はとんでもないことで。
お断りすることができない。
陛下はこれで満足だろう。これで全て解決できるだろう?と自信満々のご様子――。
「そうすれば変人のお前も、侍女も狙われることが無くなるだろう?――朕には持て余すほどの女子がいる。お前たちは静かに暮らすことができ、将軍との婚約も約束されている。これ以上のことはないだろう?」
温花「将軍って会ったこともないのに……」
まさか反論するなんて――。
宝玉のお兄さんではなく、皇帝陛下に向かって反論するなんて。
温花お嬢様は静かに顔を上げ、その場に膝を抱え座り込み陛下を見上げた。
こんなこと誰かに知られてしまえば――。
いや目の前にいる皇帝陛下の判断1つで私たちの人生は大きく変わってしまうことは明確だ。私はもう温花お嬢様にしがみつくしかない。
「皇帝にも会ったことがなかっただろう?それでも後宮にお前は入宮しただろう?将軍のことはすぐに気にいるさ」
温花様は自分のことのはずなのに、どこか傍観し笑みをこぼす。
その様子を見て陛下はまた笑う――。
どうしてここまで他人事なのだろうか――。
温花「ねぇ、陈莉。将軍って強いの?どんな人?」
陈莉「そっ、そっんな!私に聞かないでくださいっ!……つ、強いから将軍様なんですよっ!」
お気楽な温花お嬢様を揺さぶって私は自分のどうしようもない感情をぶつける。
まだこの重大さに気がついていないと言うの?!「将軍」様がどんなお方なんて私も会ったことあるはずないでしょうっ!
正八品の温花お嬢様にとっては大抜擢で、とても光栄なこと。
このような光栄なお話が回ってくること二度とないかもしれない。
王令に背いたとなれば、後宮内で墓場の変人と呼ばれるだけでは済まされなくなる。
なんとしてでも温花お嬢様にお受けしていただかなければっ!
早く温花お嬢様に頷いてもらい、陛下に頭を下げなければ――!
温花「……でもこの桜の木はどうなるの?ここに住める?」
まさか――。
お嬢様は全く違うことを心配していた。
桜の木を。もっと自分の身を大切にしてほしいのに。
その回答に皇帝陛下は呆気に取られた様子でまた大笑いをしている。
将軍との婚姻よりも、桜の木を優先するなんて考えられないからだ。
「この墓場がそんなによいのか?」
温花「――私はここで過ごしたいです」
その言葉に嘘はない。
陛下を真っすぐな目で見つめる。
皇帝「将軍の家に行けば命を狙われることもないんだぞ?」
温花「もうここがあたしの住処になっているので。――将軍様との結婚のお話、ありがとうございました」
陈莉「お嬢様!このお話をお受けしないなんてっ!お嬢様を守れる手段として皇帝陛下……が考えてくださった話なんです!お嬢様は目立ちすぎます!命がいくつあっても足りなんです!」
もうこちらは必死だ。
お願いだから「はい」と返事をしてください――。
温花「それって陈莉も……なんだよね?」
皇帝陛下「そうだ、侍女から消されて精神的に追い込まれることも少なくない」
温花「……わかった。わかりました……!でも、この桜はこのままにしてください」
どうしてここまで桜の木に拘るのか。それ以上に命のほうが大事なもののはず。
自分のことでは頷かず、私のこととなるとすぐに温花お嬢様は簡単にお受けしてしまった。
「そうか、話を通しておく。準備しておくように」
そう言うと満足そうに皇帝陛下は外に待機していた側近を呼び屋敷を出ていく。
私は一気に体の力が抜ける。
温花「陈莉、ごめんね。心配かけて――」
その言葉は今までの温花お嬢様とは雰囲気が違う。
言葉と表情が冷たい。どうして――?
”いつもそう――。
大きな強い男はいつだってあたしを支配しようとしてくる。
鈍い音が体に響く。
ドクドクと真っ赤な血が流れていく――。
痛い。怖い。
だめ。そう思ってしまうのは。
スッと感情を無かった事にする。
そう、これは何とでもない。
強い力に押さえつけられても、吹き飛ばされても。
背中に刺さる木は感じてはいけない。
うん。これは夢だ。
もっと楽しい夢を見ればいい。夢は楽しいはず。夢だけでも鮮やかであるはず。
ただ、帰れる場所があたしには欲しかった――。
ただ、心休まる場所が欲しかった。
だけど誰かが自分の言動で傷つけられるのは見たくない。
壊れるのは自分だけでいい。恐怖を感じるのはあたしだけでいい――。”
誰かといることは楽しい。
でもそれ以上にあたしには命が重荷すぎる。
そんな立派な人間じゃない。
陈莉はとてもいい子だしそんな無責任な主のところにいていいはずがない。
将軍と結婚するってことは誰かと生活しなければいけない。あたしが逃げたいこととまた戦わないといけないの?恐怖感に支配されて生活することから一番逃げたいと思ってこんな屋敷で静かに過ごせたら、と思っていたのに。
そうなってしまえば現代と一緒だ――。
体操座りをしたまま、自分の膝にしがみ付いて笑う。
陈莉をあたしから離す方法を探さないと。あたしは誰かを大事になんてできない。だって大事になんてされたことないから。




