7話:九死に一生【その一生も儚い可能性~】
矢が迫る。
その先端から感じさせるのは、「致死」の念。
どうやら、矢に魔力を付与したらしい。
精霊にとっては、確実にトドメをみまわれる一撃だ。
庇われるなら、貫通して俺ごと射抜く。
まさに、キレた者が繰り出す暴力的過ぎる攻撃。
当然、俺が防げるようなものではないし、精霊達も同様だ。
既に1匹犠牲になっている。これ以上は…見ていて辛い。
勘弁してくれ。
「っ」
【っ山辺さん!】
怒れる剛矢が、俺の周りに浮いている精霊に迫る。
どけ!
俺がそう念じると、精霊が僅かにだが、射線から動いてくれた。
だが、遅い。
そもそも、俺が司令を出したからといって、精霊の素早さで弓を避けられるわけがないのだ。
命令も虚しく、その矢は、俺の前にいる精霊に――――
パァァァン!!
その瞬間、世界が白く染まった。
そして、遅れて耳を劈く破裂音。
なにがなにやら認識できない、一瞬の出来事。
【な、何者かの攻撃を確認~!属性は、風と火、光の複合。魔法による擬似的な落雷です~!】
役所のお姉さんが言うには、誰かがここに雷を降らせたらしい。
って、雷だと!バカか!ここに何匹精霊がいると思ってる!?俺を含めて、そんなんに当たったらひとたまりも……
【い、いえ~!消滅したのは、眼前に迫っていた「矢」のみ~!ダークエルフ、山辺さん、そして…精霊たち!共に無事です~!】
なん、だとーーー!?
チカチカした視界が、少しづつ晴れていく。
俺の前には、精霊たち。
先程避けようとしていた奴は、雷が落ちたことなど気にもしていないかのように、ようやくふよふよと右にそれていた。
そして、その向こうには――――
尻があった。
◆
「ナルゥよ…これはどういう事か、ワシに説明せぃ」
尻が喋った。
【おいこら~?】
失礼。
さっきのダークエルフのお姉さんとは、違う声がする。
どうやら、俺の前にいるこの美しい臀部の持ち主の声のようだ。
うぅむ…見れば見るほど良い。Tバックから覗く褐色、かつ潤いのある肌。
程よく肉が付き、しかしけして下品ではないギリギリのセクシー感。
揉んだ日には、指が飲み込まれるであろうことが容易に想像出来る。
まさに、適度に熟れた美熟女のそれ――――
【視覚を遮断してやろうか~?】
すみませんでしたぁ!
え、ええと、真面目にいこう。
俺の前にいるのは、背の高いダークエルフだ。
銀色の髪は波のように背中を彩り、肩甲骨を隠すくらい。
そこから覗くのは、ダークエルフのお姉さん…二人いるな。ええと、先程ナルゥと呼ばれたほうのダークエルフと同じように、美しい肉体美。そして似通った服装。
ただそれだけでなく、彼女はマントを羽織っていた。
しかしこのマント、スケスケでマントの役割を果たせていない。いや、眼福だが。
顔はまだ見えないが、この様子だと相当に美人そうな気配である。
「お、大婆様…!」
ナルゥと呼ばれたお姉さんは、メカクレのくせして器用に顔面蒼白して棒立ちになっている。
これは…よくわからんが…助かった?
【そうみたいですね~。特典がうまく働いたようです~】
お、おお、特典が!?
どうやら、さっきの俺のイライラが原因で、魂の定着が発動したらしい。
特典が、同時に2つもついたようだ。
一体、どんな特典だったんだ?
【まず一つ目、『敗残兵の意地』~!これは、負けに負けた人生の敗北者に送られる特典です~!】
のっけから不吉でしかない!
確かに俺のここ最近の輪廻は、蟻に始まりワームに至るまで、殺害か捕食による末路が多い。
まさに負け続ける運命…それが運命付けられてしまったというのか…。
【いえいえ、これはですね~、「敗北を重ねながらも、なお諦めない者」に対する特典です~!確かに運命的に敗北する可能性が高くなりますが、そのぶん『不屈』の精神と、生き残る可能性を示唆する『悪運』が身につきます~!】
な、なるほど、精神が馬鹿みたいに上昇したのは、特典で得たスキル、『不屈』の影響か。
元の種族能力が低いから、常人のランクまでしか上がってないが、少しでも俺のビビリが軽減されるなら嬉しい特典だ。
そして『悪運』……これは、「窮地にある中で、事態が二転三転する可能性が上がる」というものらしい。
えらくざっくりしているが…幸運関係のスキルは大体こんなものだという。役所の人適当すぎません?
【さらに、『無能』も追加されてますね~。『指揮官』のスキルがこれの影響で下ってます~】
まぁ、敗北し続けた結果だからね!?わかるよ、わかるけどさ!
わざわざスキルにすることなくない!?
【そしてもうひとつが、『貪欲に、強欲に』~。何かを強く渇望する、それを求める、手放さない。全てを飲み込む愚か者に付けられる特典です~。山辺さんの場合は、生と自我への渇望ですね~】
とても否定できない。
俺は生きたがりなのだ。死にたくないから渇望する。当然だ。
何回も何回も、輪廻の中で生にしがみついてきたせいで、こんな特典がもらえたらしい。
スキルは、貪欲に財をかき集める『ドロップ運』、そして相手のHP、MPを吸収する『魔力、体力吸収』。
『悪運』もつくらしく、統合されたらしい。
そして…『強欲』?
【欲望を象徴するスキルですね~。非常に協力でしょうが、デメリットが大きいので、まだ使わない方がいいいかと~】
お、おう、わかった。使わない。
とにかく、俺がこうして助かった理由は、おそらく『悪運』5Lyの影響だろう。
とはいえこのスキル、事態が動くだけで、好転する訳じゃないように思えるんだよな…さて、どうなるか…
「お、大婆様、ナルゥめは、そのな邪悪を排除すべく…」
「ふむ…かの者は、たしかに異常よな…」
大婆様とやらがゆっくり振り返る。
…婆詐欺じゃねえか!なんだこの超絶美女!
厚めの唇、色香を感じさせる瞳、なだらかな高い鼻!
普通に30代で通るし、絶対モテるし!
しかも前からみればよく分かる、ナルゥよりもなお大きく、しかし美しい。
その夢の詰まった果実の名は、おっ――――
そう思ってたら、俺の後ろの木に穴が開いた。
「邪念を感じたぞ」
「大変申し訳ありませんでしたぁぁああ!!」
地面びたぁぁん!と自らを叩きつけて誠心誠意頭を下げる。これぞ必殺の「ジャパニーズドゲザ!」
「大婆様、そいつは精霊を操り、盾にする技を持っています!そのような邪悪がいたのでは、この森は…」
お、おのれナルゥめ、余計な事を。
この言い分が通れば、俺はこの奥様さえも敵に回さなければいけなくなる。
それだけは絶対に避けねば。
「だから誤解だって!こいつらは勝手に俺の近くに寄ってきただけ!俺が盾にした訳じゃない!…そ、そりゃ、庇ってくれたことに関しては本当に感謝しかないけど!」
「グゥ、またそのような戯言を…!」
「…もうよい、黙れ。猿二匹」
「「ぐふぅ!?」」
言葉のボディブローを受け、俺とナルゥは地に沈む。
こ、こんなわからず屋と一緒にされた…!
「まず、この邪念の言葉に嘘はない。精霊達には魔力による介入など感じないし、この邪念からも流れていない。説明せよと言われれば我にもできないが、精霊が自らこの邪念に寄ってきているのだろう」
会って2分で俺の呼び名が邪念になってるんですが。俺精霊なんですが。
【いやぁ的確なあだ名ですね~。参考になります~】
お黙りよ。
「あ、う…」
大婆様はやはり、ナルゥよりも相当に格上らしい。何も言い返せなくなっている。
顔を真っ赤にさせ、俺を睨み、プルプル震えるナルゥ。
はははは!ざまぁみろ!
「だが、ナルゥの言わんとしている事もわかる。この邪念は精霊にあるまじき存在……森に災いをもたらす可能性はあろう」
俺の体感温度がマイナスに達しました。
な、ナルゥ…テメェなんだその勝ち誇った笑顔は。どうせざまぁみろとか思ってんだろ!
【完全に似た者同士じゃないですか~。猿二匹~】
ええい!うっさいわ!
このままだとまずい…なんとかして、現状を打破せねば!




