6話:執着と、困惑【そして傍観~!】
私は焦っていた。
目の前の「自称精霊」は、訳のわからぬ力を用いて、森中の精霊をかき集めたようだ。
その結果、私の放った矢はその内の一匹、奴を庇う形になった精霊を霧散させる。
たとえ一匹でも、死なせるには惜しい精霊を、だ。
「…………なんなのだ、お前は」
やはり、私の直感は正しかったと、再認識した。
見た目が精霊だからと、保護など考えずにいて、射殺すべきだった。
こんな存在、悪夢でしかない。
「なぜ、精霊達がお前を庇う!」
精霊を盾にする、化け物など。
「ありえん、意思を持たぬはずの精霊達が、お前を庇い、消滅した…!?くそっ、大婆様になんと説明すれば…!」
この森で、年々数が減っている精霊を、己が身を守るために使い潰す者。
害悪だ。
生かしておいてはならない。そう直感する。
同時に、こんな生き物を私は聞いたことも見たこともない。
ひどく、混乱する。
苛立ち紛れに頭をがしがしとかくのは、私の癖のような物だ。
本当に、どういう事なのか。
精霊は何がしたい。
この森より、この化物が大事だというのか。
自然を育み、我々に魔法を行使する力を与える存在。
法則の中にあり、環境の中にあった、世界の燃料であり、代弁者。
彼らが、その世界よりも、我々よりも、この化物を優先している。
なぜか?
「っ、お、落ち着いて話を聞くきになったか?お姉さんよ」
「っ」
語りかけてくる。
精霊であるはずのない者が。
「どうやら、こいつらは俺を殺して欲しくないみたいだ、ぞ?ここは一つ、勘弁しちゃもらえないか?」
ここに来て、そいつが口を開くのは命乞いだった。
ますますわからない。
今、こいつは絶対の優位にいる筈なのだ。
明らかに、精霊を盾にすることに意義があると確信しての、提案。
だのにこいつは…!
「馬鹿を…馬鹿を言うなよ。お前がどうやって精霊を呼び寄せたかしらんが、これで確信した。やはりお前は異常だ。異端だ。危険だ!」
「ま、待てって!話を聞け!俺はこいつらに命令してる訳じゃねぇが、こいつらはさっき見た通り、俺を庇うんだろ!?」
「グッ…!」
「俺がこの森に入って3時か、さ、3刻は経つが、俺以外の精霊を見たのはこれが初めてだ!つ、つまり…」
やめろ。言うな。
私に、悩ませるな。
煩わしいんだ。
そんな願いも虚しく、そいつは続けてきた。
「この森は、枯れ始めてるんじゃないのか?…そんな状態で、精霊を殺していいのか?」
「っ、っ…!」
本当に、腹立たしい。
◆
「……れ」
ダークエルフのお姉さんの、口が開く。
小さな、小さな声。
「……まれ」
……これ、は。
まずいかも。
役所のお姉さん、今は逃げ出せそうなタイミング?
【非常に悩ましい所ですが、彼女の精神状態を観測した結果……5秒前なら70%の確率で逃走出来たかもしれません~】
いかん、突っ込み過ぎたみたいだ。
お喋りが過ぎるのは、『ピーチクパーチク』の影響か、はたまた俺の性格か。
とはいえ、ここまで来たら続けるしかない、か?
「この森に俺が不要だってんなら、二度と近づかないと約束するし、二度とあんたの前に姿も見せないと誓う。だから…見逃してくれるだけでいいんだ。頼むよ!俺は死にたくない、ただそれだけなんだよ!」
まごうことなき本心だ。
だからこそ、俺の声色に悲痛が混じる。
頼む、見逃してくれ!
『HP:2/3 MP:23/150』
時間を稼いだ分、HPも増えた。これで、あと1度は耐えれるか…。
しかし…これは、どうにも。
「黙れと言っている!」
藪蛇だったか…!
「ええい、煩わしい!精霊を惑わし、森を、我らを陥れる邪悪なのだろう!お前は!」
「だから、違ぇっ!俺は!意思があるだけの精霊だ!」
「黙れ!黙れ黙れ黙れ!私を丸め込めるなどと、思うな邪悪ぅ!」
矢をつがえ、引き絞るダークエルフのお姉さん。
その瞳は未だに見えないが、おそらく怒りに染まっているのだろう。
【これはあれですね!考え過ぎてもうわけわかんなくなって、全部投げ出した人の通る道、自暴自棄ですね~!?】
クソッタレ!思った以上に脳筋だった!そして自分の常識以外を受け止める度量がねぇ!
キレてるんじゃねぇかなあれ!精霊がいんのに射る気満々そうだ!
「私は!この森を守る戦士だ!守護者だ!邪悪の言葉に耳など貸さん!!」
【山辺さん!『指揮官』のスキルで精霊たちに命令を!もはや、この場にいる精霊を消費しての撃退しか道はないかと~!】
確かに、『指揮官』のスキルを使えば、今この場にいる奴らを思うままに動かせるんだろう。
その魔力を用いて、彼女に一斉射撃。撃退することも可能、のはずだ。
しかし、それでいいのか?
俺を助けてくれたこいつらに、「死ね」と命令していいのか?
チクリと、痛む。
HPではなく、心が痛む。
【甘いこと言ってる場合ですか!彼女は、いえ、敵はもうヤケになってます~!これ以上は本当に危険です!】
なんかないのか!?
俺も!精霊達も!なんもかんも引っくるめて、バンザイ三唱で助かる道はもうないのか!
ありませんか!そうですか!
ビキリと、今はない血管が切れそうなほどにムカつく。
話を聞けよ、脳ミソ筋肉爆乳エルフ!
俺はただ、この世界を生きていたい。それだけなのに…!
この…………
「こんの、わからず屋がぁあああ!」
吠えた。
あまりに悔しかったから。
その瞬間、魂の奥底が熱くなるような、そんな感覚が体を襲う。
この感じ、何度か経験のあるものだ。
そう、これは…
―――――――――――――――
<種族:精霊>
現状:下級精霊
レベル:1→(2)
状態:激高
HP:2/3→(3/5) MP:23/150→(23/260)
筋力:0 器用:3→(4) 敏捷:5→(36) 魔力:140→(145) 精神:5→(110)
防御力:「物理:20」「魔法:0→(11)」
<スキル>
『魔力操作:Lv1』 『魔力攻撃:Lv0』 『司令塔:Lv5→(3)』 『悪食:Lv3→(5)』
『消化吸収:Lv1→(3)』 『翻訳:Max』 『発声:Max』 『環境適正:Lv1』
『状態異常耐性:Lv1』『防御修正:Lv2』 『属性耐性:Lv0』 『隠密:Lv1』
『発見:Lv1』 『マッピング:Lv1』
New『ドロップ運:Lv0』 New『傲慢:Lv2』 New『魔力吸収:Lv1』 New『体力吸収:Lv0』
New『悪運:Lv3→(5)』New『奔走:Lv3』 New『不屈:Max』 New『無能:Lv2』
<特典>
『前世の記憶持ち』 『お友達』 『率いる者』 『食い道楽』
『ピーチクパーチク』 『慣れれば平気』 『かくれんぼ』
New『貪欲に、傲慢に』 New『敗残兵の意地』
―――――――――――――――
【うぇぇ!?た、魂の定着を確認~!このタイミング!?】
役所のお姉さんの、ギョッとした声が聞こえる。
それと同時に――――ダークエルフの凶矢が、放たれた。
感想でご提案がありましたので、一部スキルと特典の名前を変更いたしました。
『貪欲に、強欲に』→『貪欲に、傲慢に』
『強欲』→『傲慢』
山辺さんの生き方は、「生に対して強欲」と考えていましたが、ご感想では、「どちらかと言えば傲慢」とのこと。
確かに、彼の生への執着は、貪欲で傲慢なものです。
であるからして、そのご意見を採用し、このように書き換えました。
ご感想、ありがとうございました!




