40 浄水能力
村を出てほどなく、僕達は湖へと着いた。
湖そばにレジャーシートを敷いてその上で服を脱ぐ。
「砂漠の真ん中で全裸とかすっごくワクワクするのにゃ!」
アロがノリノリである。
露出狂の疑いがあるかも知れない。
「……私も少し興奮してる」
ミーリャさんも少しテンションが高い。
そういう僕も実は少し興奮してしている。
露出狂は3人だったかも知れない。
警察に捕まらないよう注意が必要だ。
興奮しつつ僕達は服を脱ぎ終えた。
レジャーシートの上で3人とも生まれたままの姿となる。
僕とアロはそこからネクタイと靴下を装着する。
ミーリャさんは体育座りで僕達の様子を眺めていた。
「……ネクタイは5個持ってきた。好きなのを選んで」
ミーリャさんの用意は万全だ。
僕とアロは議論しつつネクタイを選ぶ。
全裸なアロにネクタイを色々と合わせるのも楽しい。
そしてネクタイはどれも違った良さがあり悩ましいところでもある。
『ふむ……。今回はその蝶ネクタイでどうじゃろう』
トキナさんの意見があったので僕がそれを代弁した。
アロとミーリャさんも納得したようでアロのネクタイは蝶ネクタイで決まった。
「アロちゃん。すごくかわいいよ」
蝶ネクタイをつけたアロは実際可愛かった。
ちっちゃくてかわいいアロに蝶ネクタイはなかなか似合っている。
やはり服装に関するトキナさんのセンスは良いようだ。
僕の方は赤色のオーソドックスな長いネクタイを着用する。
「印世も似合ってるにゃ」
僕のネクタイ姿もなかなか好評のようだ。
続いて靴下を装着する。
靴下もいくつか種類があった。
ただし長さはどれも長い。
これは膝をガードする必要があるので当然だった。
下にレジャーシートを敷いてはいるがやはりガードは必要だ。
正座で足が痺れるのも少しは防いでくれるだろう。
というわけでニーソックスの方は色と柄を選ぶだけである。
こちらはミーリャさんの意見もあって僕は白色のニーソックスに決まった。
アロの方は横縞模様の縞ニーソである。
「……二人ともすごくいい」
ミーリャさんもご満悦だ。
ちなみにそのミーリャさんは何も穿いてない。
ミーリャさんはこれから湖を浄化するのでこれは仕方がなかった。
「……二人のかわいい姿も見れたし私もやる気出てきた」
そう言ってミーリャさんは湖の中へと入る。
ちなみに、湖の水は濁って黄色くなっていた。
これは確かに生活用水としてもあまり使いたくはない。
その中に平然と入っていくミーリャさんのことが少し心配になる。
だが心配は杞憂に終わった。
ミーリャさんの足が湖についた瞬間から湖の水が透明に変わる。
サンドワームの障壁すら破るミーリャさんの練成なら当然の結果だった。
ミーリャさんは周囲の水を浄化しつつ湖の中央へと進んでいく。
水の練成範囲は半径1メートルといったところか。
それより先の水は黄色く濁ったままだった。
ただしミーリャさんは水自体も操ることができる。
ミーリャさんは自分を中心に水を対流させて湖全体を浄化していった。
黄色い水と透明な水が綺麗な模様を描く。
コーヒーにミルクをたらした時のような綺麗なマーブル模様だ。
「水の動きがおもしろいのにゃ」
湖を浄化するミーリャさんを僕とアロは正座で見守る。
膝までニーソックスでガードしているので痺れは大丈夫だ。
風でネクタイが揺れているのはご愛嬌だろう。
「……二人ともいい全裸待機」
ミーリャさんに褒めてもらえた。
アロも綺麗に正座している。
裸ネクタイにニーソを履いて正座するアロもすごくかわいい。
僕も背筋を伸ばして綺麗な姿勢を保つ。
「印世の大事なところがネクタイで隠れているようでいて横からは丸見えなのにゃ! 部分的にちょっとだけネクタイが盛り上がってるのにゃ!」
アロが僕の大事なところを見ていた。
見るのはいいけどいちいち解説までしないでください。
ちなみにアロは蝶ネクタイなので大事な所はおろかどこも隠れてはいなかった。
「……終わった。二人が全裸待機してくれたおかげで私もやる気が出た」
しばらくして湖の浄化作業は終了した。
「……飲み水ならもう少し調整が必要。でも生活用水ならこれで十分」
そう言い残してミーリャさんは湖からあがる。
湖の水は綺麗に透明になっていた。
衛生的には飲んでも十分大丈夫そうだ。
もっと時間をかければ味とかもおいしくできるのかも知れない。
「ミーリャさんお疲れ様」
湖から上がったミーリャさんの体をタオルで拭く。
水を操れるミーリャさんを拭く必要は本来なかったかも知れない。
だがそんなやぼなことを言う人間はもちろんここにはいなかった。
「……ん、ありがとう」
ミーリャさんも嬉しそうだ。
浄化作業は終わったが湖の横で僕たちは少し話をすることにした。
これにはもちろん理由がある。
僕とアロは裸ネクタイにニーソを履いていたがミーリャさんはただの裸だ。
もちろん裸も素晴らしいのだが、やはりミーリャさんにもネクタイとニーソを着用してもらいたいと思うのは人として当然のことだろう。
ミーリャさんは黒の長いネクタイと、同じく黒色のニーソックスを着用した。
ミーリャさんは白スクも素敵だったけど黒もなかなか似合っている。
もちろんネクタイを動かして大事なところがちらちら見えたり見えなかったりするのもやってもらった。とってもハァハァします。
しばらく楽しんだ後ミーリャさんもレジャーシートの上に座る。
そうして裸ネクタイで正座をしつつしばらく三人で話をした。
「……昔はこうやってウォータークリエイトの能力で飲み水を作るのが一般的だったって言ってた。でも今は逆浸透膜を魔法で作って水はプラントで浄化するのが主流」
僕達は全裸待機の姿勢のまま社会の移り変わりについて議論する。
「……技術の進歩はいい。でもウォータークリエイターは仕事がなくなって、なり手もだんだん減ってきてるってテレビでやってた。少し寂しい」
科学の進歩はもちろん歓迎すべきものだ。
でも、その過程で仕事を失う人が出るのも一つの事実だった。
そういう社会の哀愁のようなものがミーリャさんから漂ってくる。
年齢は僕と同じはずだがミーリャさんからは少し大人びたものを感じる。
「ん? でもだったらなんでミリャーは水の練成覚えたのにゃ?」
アロの指摘は時々するどい。
ミーリャさんは水使いなので水の練成術はしっかり役に立っている。
だが魔法の系統で言えば特殊属性の錬金術はミーリャさんに本来適正のある能力ではなかった。
「……私が最初に覚えたのは実は練成の方。この世界に来るとき私は未開領域に飛ばされたから。……水も食べ物もなかったから水の練成ができなかったら多分死んでた」
予想外に重い理由だった。
だが話をするミーリャさんの顔は決して暗くはなかった。
「……切り立った崖の中腹で数日。水は練成できても食べ物がなかった。それでそろそろ死ぬのかなって考えてた時に瑛に見つけてもらった。……瑛は命の恩人、すごく感謝している」
瑛さんは未開領域から人を救出したことがあると前に聞いた気がする。
どうやらそれがミーリャさんだったようだ。
戦闘能力で言えば僕やミーリャさんと瑛さんでは比較にもならない。
でもやっぱり瑛さんはすごい人だった。
「……崖には小さな水たまりがあったけど飲むには足りなかった。……足りない分はおしっこを水に変えて飲んだ」
かなりハードな話だ。
ミーリャさんが大人びて見えるのも、そういう大変な経験を積んでいたせいかも知れない。
未開領域からの生還者という点では僕とミーリャさんは同じだ。
だが大変さは全く別物だったに違いない。
未開領域に召喚されるというのは本来こういうものなのだ。
「ちなみに……今も時々おしっこを水にして飲んでる。最近では味や匂いはそのままに毒性だけを抜くことも出来るようになった」
…………。
ミーリャさんは一体どこへ向かおうとしているのだろうか。
「……話してたら出したくなってきた。……印世君私のおしっこ飲む?」
思わずミーリャさんの裸ネクタイに隠れた場所を凝視してしまう。
ミーリャさんがもじもじしているせいで今にも見えそうだ。
でも僕は決して変態ではない。
だからミーリャさんのと言えどもおしっこ飲んだりとかはしないのです。
『しばらく伝達回路を切るから好きなだけ飲むといいぞ印世よ』
だから飲まないって言ってるのに。
「……おしっこ直飲みする?」
直飲み……だと。
っく、ミーリャさんはどうやら本気で僕におしっこを飲ませるつもりらしい。
直にといわれるとなぜか飲みたくなる、不思議!
生ビールとかそんな感じなのだろうか。
生とか産地直送とか聞くと何かおいしそうな気になってくる。
出来たてのおいしさとでも言うべきか。
だが結果として、僕はミーリャさんのおしっこは飲まなかった。
ミーリャさんもおしっこすることなく村へと戻る。
そもそもここで放尿すること自体が問題と思われたためだ。
この湖の水はしばらく生活用水として使われる。
おしっこはミーリャさんの能力で浄化するので衛生的には問題ない。
でもだからと言って湖のすぐ側でおしっこするのはどうかと思う。
『主が全部飲み干せば問題なかったではないか』
確かに僕が残らず飲み干せば何も問題はなかった。
だが飲尿初心者が最初から全てを飲み干せるだろうか?
飲尿という儀式がそんな簡単なものとは僕には思えなかった。
「印世にはがっかりにゃ」
「……ちょっと淋しい」
ミーリャさんには少し申し訳ない。
でも僕は未経験者なのでやるとしても少しづつ慣れていく必要があるだろう。
その辺についてはちゃんとミーリャさんに話しておきたいと思う。




