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39 大統領

 僕たちは村へ戻るために道路を車で走っていた。

 そうして、あと10分ほどで村へと着くというところで異音を察知する。

 プロペラ音だ。


 後部座席に座っていた僕が振り返ると、後ろからヘリコプターが来ていた。

 そのヘリは僕たちを追い越して村の方へと進み、村の広場へと着陸した。


 あのヘリがこの世界で作られたものかは分からない。

 ハイブリッド車まで製造できている世界なのでヘリが実用化されていても驚きはしないが。


「ヘリコプターか。あれもこの世界では初めて見るね。この世界ではヘリや飛行機は本当にレアだから誰かお偉いさんが乗ってるのかも知れない」


 さすがにヘリや飛行機まで簡単には作れないのかも知れない。

 ただしハイブリッド車とどちらが技術的に難しいのかはよく分からないけど。


「……横の方にサラスタンの国旗が書いてあった気がする。首都から来ていたし大統領が乗ってるかも」


 やはりお偉いさんが乗っているようだ。

 面倒なことにならなければいいけど。


 ただ村に戻らないという選択肢はなかったのでそのまま村へと戻る。

 ヘリに乗っていたのはミーリャさんの予想通りに本当に大統領だった。

 どうやら水道管の被害状況を見に来たようだ。


「サンドワームか……。この村付近のワームは根絶やしにしたつもりだったのだがな。やはり魔物が増えて来ているか。首都の方でも魔物の襲撃が増えている。人為的なものも感じるが……」


 大統領御一行は村の偉い人と相談をしているようだ。

 関わり合いにはなりたくなかったので目立たぬように横を通り過ぎる。

 ただし、大統領のおばさんが予想外に若くて綺麗だったことは言っておく。

 あれで40代とは驚きだ。


『妾の趣味ではないがの。気力はあるようじゃし、為政者としては悪くもないじゃろう。……じゃが、やはり妾の知る顔ではなかったの。妾の頃は知り合いがサラスタンを治めておったのじゃが。大統領制とかいう時点で予想はしておったが、今の大統領は王族の関係者や子孫というわけでもなさそうじゃ』


 トキナさんが封印される前はサラスタンは王制だった。

 というよりも、その時代には王制が主流だった。

 現在は大統領制や議員内閣制が一般的だ。

 この世界は異世界人大戦の後に国家体制も大きく変わっているとのこと。


 国家元首がトキナさんの知り合いのままなら、そこで協力を取り付けて封印術師を紹介してもらうつもりだったのだが、そのあてははずれたことになる。

 そうなると関わるメリットもないので僕たちは大統領御一行を遠巻きに見つつ傭兵ギルドへと向かった。



 傭兵ギルドへの報告は瑛さんがやってくれている。


「サンドワームの目玉2匹分と、あと写真も撮っておいた。サンドワームは3体いたんだけど、一体は頭ごと溶かしちゃったもので」


「溶かすって怖ぇな。だがありがとよ。おかげで水道管の復旧作業もできるだろう」


 ギルドのおじさんも引き気味だ。

 だが換金の手続き自体はスムーズに進んでいる。

 大統領とかも来ているので早めに済ませて後はホテルで大人しくしていたい。


 だがそんな僕の希望はあっけなく打ち砕かれた。


「ほう……サンドワームの討伐自体は既に終わっていたのか。ふむ、一応傭兵も連れて来ていたのだがな。この村の力では対処できないと思っていたが」


 大統領が僕たちの後ろに立っていた。

 大統領は水道管の被害状況を視察しにこの村へと来ている。

 その原因はサンドワームなので、その関係で傭兵ギルドに来るのは当然だった。


「はいそれはもう。いやぁ、こっちとしても困ってはいたんですがね。丁度いいタイミングでこの人たちが来てくれて。それも今日なんですがね。なんと3時間たらずで全部倒しちまったって言うんでさぁ」


「それは面白い話だな。サンドワームは依頼を受けた当日に倒せるようなものではないはずだが。そもそも探すのにも苦労するだろう」


 そういいつつ大統領が僕たちを見まわす。

 なんというか……すごく強そうな女性だ。

 力がというわけではない。

 人間として性格が強そうだ。

 大統領という肩書もあってか威圧感が凄い。


「初めまして、メニライン大統領。私は国連環境計画の坂谷瑛といいます。サンドワームについては私がサーチ系の能力を持っているのでそれで探しました。戦闘の方は1人Sランクがいましたので」


 そういって瑛さんはミーリャさんを大統領に紹介していた。

 これは瑛さんのはからいだ。

 瑛さんとミーリャさんの力で倒したと言っておけば僕が目立つことはない。

 ミーリャさんも瑛さんの意を汲んでくれているようだ。


「……私はミーリャ・ラザスです。神器機関所属」


「ほう、君が神器機関のミーリャ・ラザスか。サーチマスターの坂谷瑛とウォーターマスターのミーリャ・ラザスが一緒に行動しているとはな。……この国へはどういう事情で来たのかな?」


「……観光?」


 大統領の問いにミーリャさんが疑問形で返事をしていた。


 瑛さんの名前が有名なのは感じていたが、ミーリャさんも有名人だったようだ。

 2人は僕が目立たないようにしてくれているはずだが、その2人が十分に目立つ存在だった。


「彼女の言うように特に用事があるわけではないのですよ大統領。私達は今休暇中なのです。G―Dayまで半端に時間が余ったので行ったことのない国に行ってみようという話になりまして……」


 瑛さんがフォローを入れていた。


「なるほどな。ともかく、サンドワームを倒してくれたことは礼を言う。最近は首都で問題が多くてな。地方に回す手が足りない状況が出ている。水道の復旧にも少し時間がかかってしまうだろう。もちろん給水車なども手配する予定だが」


 大統領の方は瑛さんやミーリャさんに対して特に興味はないようだった。

 それよりも水道管の復旧の方が大事なのだろう。


 考えてみると確かに水は大切だ。

 サンドワームを倒したのはいいけど飲み水とかどうなっているのだろうか。


「村の近くに湖があるからその水が使えりゃいいんですがね。あいにく濁ってて出来ればそのまま使いたくはないですな。まあ飲む分には商店にある在庫で何日かは大丈夫なはずですが、生活用水にはしばらく苦労するかも知れませんな」


 コンビニはともかくこの村にも店はある。

 この村の店は見てないけどニムルスではミネラルウォーターなども売っていた。

 飲み水に困ることはないだろう。

 ただ生活用水には困るみたいだ。


「ウォータークリエイターがいれば一緒に連れて来たのだがな。これは政策の盲点だったかも知れぬ。浄水プラントと水道管に頼った分、国内のクリエイターの数は減ってしまっている。災害対策として国で何名かはウォータークリエイターの人材も確保しておくべきかも知れぬな」


 大統領は少しだけ困ったような顔をしていた。

 給水車も出すと言っているのでそれほど問題ではないはずだが、水を作れる錬金術師が1人いるだけで済むなら一緒に連れてくるだけで良かった。


「……一応私も水の錬成はできる」


 困り顔の大統領にミーリャさんが助け船を出した。


「錬金術も使えるのか、さすがウォーターマスターと言うところだな。給水車を出すにも2日ほど時間が空いてしまう。やってくれるというならぜひお願いしたい。せっかく傭兵ギルドにいるのだ。私が依頼を出し君達が受けるという形でよいだろうか」


「……いい」


 交渉は成立した。

 大統領がその場で傭兵ギルドに依頼を出し、瑛さんがそれを受けている。

 僕達も生活用水に困るのは嫌だったのでこの依頼を受けない理由はなかった。


「ふむ。これでこの村の問題はほぼ解決だな。本当に礼を言う。もう少し時間がかかると思ってこうして現地まで足を運んできたのだがな」


 大統領は少し嬉しそうだった。


「では後はよろしく頼む。私はこのまま首都に戻るが、君達のことは記憶に留めさせてもらうとしよう」


 そういって大統領はヘリに乗って首都へと飛び立った。

 やはり大統領だけあって忙しいのかせわしい人だ。


 その忙しさの中で僕達のこともすぐに忘れてくれると嬉しいのだが。

 いや、結局最後まで僕は空気だったのでいいのか。

 瑛さんとミーリャさんには後でお礼を言っておきたい。


 ちなみに瑛さんは大統領と名詞を交換していた。

 また一つ瑛さんの顔が売れたようだ。


「リアーユ・メニライン大統領か……。テレビで見るより綺麗な人だったね」


「……兎人も平人よりは若く見える人が多いけどそれでも若かった」


 確かに大統領はとても40代とは思えない綺麗な兎人の女性だった。

 ただ全体的に威圧感がすごかったのでお近づきにはなりたくない。


 多分アロは僕と同じ印象を大統領に抱いていたはずだ。

 僕とアロは話の間中、ずっと奥の方で縮こまっていた。




「大統領とかすっごく緊張したのにゃぁ」


 大統領が村を飛び立ってからしばらく、アロは大きく息を吐いた。

 僕も同じ気持ちだ。


 ちなみに僕たちは今村を出て湖へと向かっている。

 ミーリャさんが湖の水を浄化するのを見学するためだ。

 湖は村の外にあるので僕らは護衛も兼ねている。


 ただし瑛さんは先にホテルへと戻っていた。

 明日には首都へ着くがその前に計画などを練っておきたいそうだ。

 首都の情報も少し集めたいと言っていた。


 そのため今のメンバーは、僕、ミーリャさん、アロの3人だ。


「……安全に飲める水を作るのは調整が大変。だから直接水に触れる必要がある」


「……つまり全裸になる必要がある」


 サンドワームの時は魔法陣を介して錬成を行っていたが、細かな調整は難しい。

 生活用水にせよ、きちんとした水を作るには直接肌が触れる必要があるそうだ。

 だから全裸になる必要がある。一つもおかしな所はなかった。


 そしてミーリャさんが全裸になるのなら、より一層僕達がついて行く必要があるのも当然のことだ。

 不謹慎な人がミーリャさんに近づくのは阻止しなければならないだろう。

 まあ湖は村の外なので、魔物以上に人が来る可能性は低いのだが。


「……2人が私の裸を見るのはいい。ただし見る方も全裸待機」


 裸を見ていいのは裸を見られる覚悟のあるものだけだ。

 ミーリャさんらしい意見である。

 ちなみに、瑛さんがここに付いて来ていない理由の一つはこれだ。

 僕とアロは全裸待機してでもミーリャさんを見たかったので付いて来ている。


「ミリャーの裸を見に来る変態がいるかも知れないからにゃ。護衛は必要にゃ」


 実際にはSランクのミーリャさんに護衛はいらないのだが、そんなヤボな事を言う人間はこの場にはいない。


「……2人がいてくれると私も安心。そして砂漠で全裸待機は辛いだろうから靴下とネクタイも持ってきた」


 ミーリャさんの優しい心遣いだ。

 裸で正座となると膝などが痛くなるかも知れない。

 靴下があればそのダメージを軽減できる。

 膝上まであるオーバーニーソックスなのでガードは万全だ。


 ドキドキしつつ僕たちは湖へと向かった。


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