38 サンドワーム②
僕は気合を入れて2匹目のサンドワームのいるポイントへと向かう。
ちなみにアロは今回も後方待機。
アロには初めての技を見せるから我慢して欲しいと言ってある。
僕としてもほとんどぶっつけ本番なので万全の態勢で臨みたい。
「よし、サンドワームが上昇を始めた。来るぞ、印世君。あと3秒、2秒――」
瑛さんがカウントを始めると同時に僕は全力で魔力を剣へと注ぎ光の刀身を形成する。
そうしながら横に飛びあがってサンドワームの攻撃をかわす。
「……1秒、0」
僕のいた場所にサンドワームの大きな口が現れた。
中にキバがたくさん生えている。
やはり食べられる選択肢はやめておいて良かった。
そうして勢いよく地上へと飛び出したサンドワームの左側に僕は着地した。
サンドワームが地上へ飛び出してくる速度は速かった。
だがその後が遅い。
これが、サンドワームがドラゴンより弱いとされる理由の一つだろう。
サンドワームは地中では驚きの速さを見せるが地上に出た際には一定のスキができるようだ。
もちろんこのスキを逃すつもりはありません。
僕は剣を伸ばし切るのに5秒ほどかかったが、サンドワームはまだ地上に頭を伸ばしたままだ。
「ヘァ!」
僕は全力の魔力と渾身の力を込めて8メートルの光の剣を振り抜く。
サンドワームの首の辺りから剣を貫通させることに成功した。
すごい勢いで血が噴き出してきたので後ろに飛んでよけた。
とにもかくにも無事倒せて良かった。
改めて見るとサンドワームの頭は完全には落とせていない。
首の皮一枚で繋がっている状態だ。
十分に致命傷だったのでサンドワームに動きはないが危なかった。
強度が足りなくても駄目だっただろうし、長さが足りなくても危なかっただろう。
《射程延長》に関してはまだ修行が必要なようだ。
「うおぉおお! すごいにゃ! 剣がすごい大きかったのにゃ!」
アロが驚いていた。
ふふっ。僕も頑張ったかいがあったというものです。
「前からすごいとは思っていたけど……印世君、少し成長した?」
瑛さんもちょっと驚いているようだった。
なんだかんだで僕も成長しているのだ。
この世界に来てまだ1カ月たってないですしね。
密林を出てからはトキナさんに魔力を供給していないので魔力量は変わらなくても、外での経験は僕の力となっているはずなのだ。
『実を言えば主は魔力自体も上がっておるがの。やはり実戦を経験した成果が大きいのじゃろう。ウホゴリラ戦の後から主の魔力はだいぶ上がっておる』
そういうこともあるのか。
確かにウホゴリラ戦では心や体に負荷もかかった。
そういう刺激によって魔力の総量が増えることもあるようだ。
「……印世君は地力も強いのが分かった。光属性以外が見れなかったのは残念だけど」
ミーリャさんは残念がっていた。
がっかりさせて申し訳ない気はしないでもない。
でも国連本部に目をつけられるのは困る。
トキナさんの封印さえ解ければ真実は分かることだ。
それまでは僕は比較的大人しくしていたい。
というわけで、3体目のサンドワームは再びアロとミーリャさんであたった。
ただし今度はミーリャさんの方が後衛だ。
正直、今回が一番ハラハラする。
アロがケガとかしないといいんだけど。
「サンドワームがもうすぐ真下に来る。アロ、気を抜くなよ」
瑛さんの指示も真剣だ。
「サンドワームが真下まで来た。地面に来るまで後5秒、4、3――」
アロは少し早めに後ろへと飛ぶ。
サンドワームが顔を出す前に少し離れた場所へと着地した。
アロが飛ぶ前に居た場所へサンドワームが頭を出す。
アロはすかさずサンドワームの口側へと回った。
ワームの口の中に遠距離攻撃を仕掛けるようだ。
「アロも新技を披露するのにゃ! ファイアーブレスにゃぁー!」
掛け声と共に、アロの口の前に眩しい光を放つ火の玉が現れる。
そして、そこから火炎放射器のように炎が荒れ狂った。
まさにドラゴンブレスという感じだ。
『……範囲攻撃じゃな』
属性武装で行える技にはいくつか種類がある。
僕が今可能なのはその内の《威力強化》と《射程延長》だけだ。
その他の技として《範囲攻撃》や《速度強化》などがある。
ただし、それらは形式がガチガチに決まっているわけではない。
使う属性によってその発現方法も大きく変わる。
例えば僕が新しくやったのは光属性の《射程延長》だが、これは同時に《範囲攻撃》の要素も含んでいる。
アロの炎武装では射程延長は飛距離が長いかわりに効果範囲は狭かった。
それを補うのが今アロが放ったファイアーブレスだ。
魔力量だけで言えば、僕はアロよりだいぶ強い。
だけど技術で言えばアロの方が僕より先をいっていると言えるだろう。
ただ、やはり威力が足りなかった。
サンドワームは炎に包まれつつもアロに向かって突進した。
このままではアロが食べられる。
僕がそう思った時、サンドワームの動きが止まった。
サンドワームは首の辺りに巨大な氷の槍を突き刺されて地面に縫い付けられている。
その地面も狭い範囲だが一瞬で氷に覆われていた。
「……アロの作戦は悪くなかった。でも悲しいことに実力が足りない」
アロはしょんぼりとしていた。
サンドワームを倒すのにはBランク以上の傭兵が欲しいという話だった。
アロはなりたてではあるがきちんとしたBランクである。
ただし、本来ならサンドワームは餌でおびき寄せて遠くから攻撃して倒す。
倒すまでにもだいぶ時間がかかるという話だった。
なので、あえて何が悪いかと言えば僕らがろくな準備もせずにサンドワームを倒そうとしていることにこそあった。
まあ僕とミーリャさんは準備なしで一方的に倒せるから問題はなかったのだが。
「うにゅ……。アロも強くなりたいのにゃぁ」
アロはけして弱くはないし現在進行形で成長もしている。
どちらかと言えば僕やミーリャさんの方が異常なのだ。
ミーリャさんについては僕から見ても化物だ。
ただしトキナさんがさらに上を行くのであまり驚愕はしないが。
そんなメンバーに囲まれているアロがちょっとだけ不憫になってしまう。
ちなみに、僕から見ても強いミーリャさんの方は、サンドワームの首あたりを凍結させて動きを完全に封じていた。
「……クリエイトフィールド」
止めはやっぱり錬金術だ。
今度はサンドワームの首から下をごっそりと水へと変化させた。
やっぱりぐろい。
残った頭や胴体部分からどぱって感じで大量の血が噴き出していた。
ちなみにその血もミーリャさんに届く前に水へと変えられる。
さらにその水もミーリャさんに届く前に不自然な軌道を描いて地面へと向きを変えた。
『ウォータークリエイトの能力と水属性の相性もよいようじゃの』
トキナさんは冷静にミーリャさんの実力を測っていた。
『水属性は水を操るのに長けた能力じゃが、水は質量があるからの。魔力で無から水を生みだすのは効率が悪い。じゃから水属性を持つ者はその場にある液体を操って闘うのが基本じゃ。側に川でもあれば絶大な力を誇るが、このような砂漠ではその能力は落ちる』
魔法と言っても万能ではない。
僕の光やアロの炎のように重さ――質量の軽い物を生み出すことはやりやすいが、水や土のように質量のある物を魔法で生み出すのはすごく効率が悪いそうだ。
『じゃから通常であれば、水属性の使い手は液体を常備しておったりするものじゃが、ミーリャの場合はその水を錬金術で作り出してしまうようじゃからの』
ミーリャさんはなかなかバランスの取れた能力を持っているようだ。
ただし錬金術の方も無制限になんでも作れるわけではない。
ミーリャさんが作れるのは水だけという話だけど、その水も個体や気体から作り出すのは魔力の消費が激しいそうだ。
液体から作るのであればかなり高率よく作れるらしい。
実際、今ミーリャさんが使っている水も砂漠の砂などから作ったものではない。
1体目のサンドワームを倒した時にサンドワームの体を錬成して作った水だ。
その水を保持していて3体目のサンドワームに使ったのだ。
生物の体に占める水分の割合は多い。
サンドワームも勢いよく血を噴き出していたのでそこから水を作るのはやりやすかったはずだ。
ただし、生物を水に変えるには魔法障壁を突破する必要があるので、やはりミーリャさんの地力がすごいというのはもちろんなのだけど。
「まあこんなものか。……アロもちゃんと強くなってるんだけどね。印世君やミーリャと一緒だとアロが自信をなくさないか少し心配になるな」
そういう面ではアロに申し訳ない気もした。
だがともかくこれで任務は終了だ。
「……印世君の戦いが見られたのは良かったけど、少し期待はずれ」
ミーリャさんの期待に添えなかったのは悪いけどそれは仕方がない。
僕たちは証拠としてサンドワームの写真も撮っておいた。
ちなみに写真は3体分撮ってある。
討伐部位は2匹分しかないので写真を撮ってもお金をもらえるわけではない。
でも3体とも倒して危険がなくなったことは知らせないといけないためだ。
後、サンドワームの体には使える素材になる場所もあるそうだ。
だから死体の場所を教えるだけでも少しは報酬がもらえる。
というわけで、僕たちはサンドワームの前で記念撮影をした上で車へと戻った。
そのまま車で村へと戻る。
僕が戦闘で光属性しか使わなかったためミーリャさんとしては不満だったと思うけど、僕としては収穫もあった。
実戦で使ってみて射程延長の感覚が少しは掴めた気がする。
次からはもっと効率よく剣を伸ばせるだろう。




