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37 サンドワーム①

 村を出発して30分近く過ぎた。

 途中から道路を外れて砂漠の中を車で走ったので少し時間がかかっている。

 サンドワームとの距離はまだあるがこれ以上車で進むのは危険だ。

 車はあくまでレンタルなので壊すと後が怖い。


 そのため、近くの少し高くなっている岩場に車は止めた。

 ここからは徒歩だ。


 ミーリャさんとアロが意気揚々と砂漠を歩いて行く。

 瑛さんは戦闘担当ではないので車で待機。

 僕も護衛として一緒に残っている。


「サンドワームまでの距離は後200メートルってとこだ。何か変化はないか?」


 瑛さんが携帯で指示を出す。

 連絡方法はウホゴリラと戦った時と同じだ。

 アロとミーリャさんはイヤホンマイクをつけて指示を聞いている。


「なんにも変化なしにゃ。魔力も感じないにゃー」


 僕からもサンドワームの気配や魔力は感じとれなかった。

 サンドワームは地中の奥深くを潜っていることが多いらしい。

 その間は気配もないし、魔力も非常に感知しづらい。


 それで獲物の気配を感じると真下からこっちを食べに来たりするのだ。

 かなり危険な魔物である。

 地下にいる内はロケット弾ももちろん効かない。

 ……本当にドラゴンより討伐しやすいのだろうか。


「普通だったら餌とかでおびき寄せて、顔出したところに魔法なり銃火器なりで攻撃するんだけどね。今回は私が魔力を読めるから出て来る所を直接叩く。ただアロが食われないかはちょっと心配だけど」


 確かに。

 ミーリャさんはともかくアロが心配だ。

 なんで付いて行ったのかと。


「ふふん。食べられたら中から猫パンチしてお腹突き破ってやるのにゃ」


 食べられるのが前提なのか。


 ただ考えてみるとそれが一番楽な倒し方かも知れない。

 例えば僕ならサンドワームに食べられても障壁でダメージは防げる。

 その後ゆっくりと中から輪切りにすればいい。

 でもアロの魔法障壁で無事で済むかは心配だ。


「……残念だけどアロの出番はないと思う」


 ミーリャさんが心強い。

 僕としてもミーリャさんが瞬殺してくれる方が安心できる。

 アロには遠距離攻撃もあるので少し下がってもらう方がいいだろう。


「じゃあアロは後ろで見ててやるにゃ。ミリャーが撃ち漏らしたらアロの爆炎魔法でサンドワームは爆発四散させてやるのにゃ」


 ちなみにアロにサンドワームを爆発させられるような魔法はない。

 そしてミーリャさんがワームを撃ち漏らすこともきっとないだろう。


「サンドワームが2人のほぼ真下まで来た。登ってくるぞ。地上まで3秒、2秒――」


「……クリエイトフィールド」


 瑛さんのカウントに合わせてミーリャさんが魔法を発動した。

 ミーリャさんの足元に魔法陣のような光が現れる。


「――1秒、0」


 そして、ミーリャさんの足元から大量の水が噴き出した。



「……終わった」



 一言そう告げると、ミーリャさんはこっちへ向かって歩き始める。

 ……何がなんだか分からない。


『錬金術か……』


 トキナさんには何が起きたのか分かったようだ。


「ミリャーはぐろいのにゃー」


 叫びを聞いてアロの視線の先を見ると、首から上? のないサンドワームが地下から少しだけ飛び出していた。


「うーん……。瞬殺だったね」


 瑛さんは少しあきれ顔だった。


「一体……何が起きたんですか?」


 瑛さんに尋ねる。


「ウォータークリエイト能力だね。ミーリャは水属性を持っているんだけど、それとは別に錬金術も使える。まあこっちも作れるのは水だけなんだけどね。さっきのはサンドワームの体を錬成して水に変えちゃったみたいだね」


 何それ怖い。

 ただひたすらに怖い。

 本当にミーリャさんはサンドワームを瞬殺した。

 というかそんな恐ろしい能力があったら僕も一瞬で水にされそうだ。


「……サンドワームの障壁はドラゴンより弱い。前ドラゴンにやった時は効かなかった」


 一応障壁が強ければミーリャさんの攻撃は防げるのか。

 じゃないとさすがに強すぎるしね。


 それでもBランク相当の傭兵が必要な魔物を瞬殺できるのは強い。

 もしウホゴリラ戦の時にミーリャさんがいれば、全ての砲撃を水に変えつつ真っすぐ進み、そのままウホロードも水に変えていたかも知れない。

 やはりSランクの戦いというものは、見るだけでも恐ろしいものだった。


「……あー、ミーリャ? ところでサンドワームの討伐部位がどこかは知ってるか?」


 ドヤ顔で歩いて来るミーリャさんにあきれた調子で瑛さんが尋ねた。


「……討伐部位って何?」


 ミーリャさんは討伐部位という言葉そのものを知らなかった。

 ちなみに僕も知らない。


「ミリャーはアホにゃ! 目玉どころかワームの頭全部溶かしちゃったのにゃ! 討伐部位持ってかないとギルドで倒したこと証明できないのにゃ」


 アロの言葉を聞いて依頼書の写真を見てみると、サンドワームの頭には2つ宝石のような物がついていた。

 これがアロの言う目玉なのだろう。

 この部分を切り取ってギルドに持っていき、倒したことの証とするようだ。


「……それは知らなかった」


 確かに盲点だった。

 まあ僕達はお金に困っているわけでもなく、ほぼ暇つぶしだったので別に良かったが。


「もうミリャーは下がってるのにゃ! 次はアロがやるのにゃ!」


「……分かった。次は私が留守番する」


 ミーリャさんは素直に従った。

 特に戦闘がしたいわけではなかったようだ。

 そもそもまともに戦闘してないしね。


 というわけで、2体目には僕とアロで当たることとなった。


「……印世君がどんな戦闘をするのか見たかった。写メの準備もバッチリ」


 やられた。

 ミーリャさんの真の目的はこっちだったのだ。

 ミーリャさんはちゃんと神器機関からの依頼をこなそうとしていた。

 ここで僕がグラビティ・キャノンでも撃てばいいのにとか思っているに違いない。

 どうしたものか。


『国連本部が妾を探っている様子がある以上、グラビティ・キャノンを使うのは論外じゃな。できれば妾の魔法は全て使わぬ方がよい。そもそも主の自力も強いのじゃ。今回は光属性のみで倒すべきじゃろう』


 ここは僕の力だけで倒す方が無難なようだ。

 ただここで1つ問題がある。


 サンドワームはでかいのだ。


 僕はこれまで全ての敵を一太刀で切り飛ばしている。

 そのため、まともな戦闘というのをほとんど経験していない。

 できればサンドワーム相手にも何度も切りつけるような戦いはしたくない。

 それをやると僕は多分途中で食べられる。


 まあ食べられたら食べられたで中から輪切りにすればいいだけなんだけど。


『先に言っておくが食われるのはなしじゃからの。妾もウホゴリラ戦で反省しておるから、どうしても主が食われそうになった時には伝達回路を切るつもりじゃが、またくさくなるとか有り得んからの。まったく……主はどれだけ汚物にまみれるのが好きなのじゃ』


 やっぱり食われるのはナシの方向で。

 僕としても別にサンドワームに食べられたいわけじゃない。


 僕がこの世界に来てまともに受けたダメージはウホロードによるウンコ攻撃だけだ。

 なんで初めてのダメージでウンチまみれにならなきゃいけないのかと思ったけど、2度目のダメージが次はよだれまみれとか確かにあり得ない。


 サンドワームは、食べられる前に倒す必要があるようだ。


 ここは新技を使う必要があるだろう。


 ウホゴリラ戦で反省をしたのは何もトキナさんだけではない。

 僕だってあの戦いで反省したことは数多い。

 僕に遠距離攻撃手段がなかったというのも反省点の1つだ。


 属性武装の能力の1つ《射程延長》。

 ウホゴリラ事件の後、僕は1人の時間を使ってこれを試していた。

 もちろんトキナさんからアドバイスを受けつつだ。


『できたのは最大10メートルと言うところか。アロのように炎を飛ばしたりするわけではないから射程距離としては短いが、振り回した時の威力はすごいじゃろうの』


 アロの射程延長は炎の玉を飛ばす遠距離攻撃だ。

 その射程は100メートルはくだらないだろう。


 それに比べると僕の射程延長の10メートルというのは遠距離攻撃としては短い。

 ただし、僕が光属性で行う射程延長はアロのような遠距離攻撃でない。

 文字どおりに剣の射程を延長するのである。

 つまり、刀身そのものの長さが10メートルになる。


 まあ結局これができたところでウホロードとの戦いではどうしようもなかったのだが。

 そういう意味では残念な僕の射程延長ではあるが、サンドワームに対しては使える。

 サンドワームの直径はだいたい5メートルというところだ。

 8メートルくらいにまで刀身を伸ばせばサンドワームも一撃で倒せる。


 限界の10メートルまでは伸ばさない。

 この射程延長では完全に僕の魔力だけで刀身を作っている。

 そのため伸ばす分だけ魔力を大量に消費するし、その上剣の強度まで下がる。

 ドラゴン相手では2メートルも伸ばせば障壁を破れなくなるだろう。


 8メートルまで伸ばすと正直サンドワームの障壁を破れるかも微妙なところだ。

 だがこれを短くすると今度はワームを一撃で真っ二つにできなくなる。

 結構ギリギリの線だ。

 なので、短時間に集中して全力を出します。


 僕の最大出力で、サンドワームの魔法障壁を破れる強度の剣を8メートルまで伸ばす。

 今日はこれで行こうと思います。



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