36 依頼
途中に立ち寄った村はそこまで発展はしていないようだった。
ガソリンスタンドはあったけど充電スタンドはない。
せっかくのPHV(プラグインハイブリッドカー)も充電できなければあまり意味はなかった。
「というか、この国の計画だとPHVは発電機代わりに使うつもりのようだからね。車の方へ充電すること自体があまり考えられてない。将来的にはPHVを各家庭に普及させて、全ての家で自家発電できる状態に持っていきたいらしいよ」
この国がやろうとしていることは思っていた以上に壮大なのだろうか。
「……この世界だとゲートなしで電力網を整備するのも大変だから。この計画は意外と現実的」
この世界独自の問題もあるのか。
『まあ十中八九魔物の影響じゃろうな。この村も周りは塀で囲まれておったじゃろう。そして、囲いの中に電線はあっても村の外まで伸びてはおらぬ。街同士をつなぐ電線はないということじゃ。つまり、最低でも1つの村ごとに1か所は発電所を作らねばならぬということじゃの。ならばいっそ一家に一台発電機がある方が安定性も上がるという考え方なのじゃろう』
やはりこの世界において魔物の脅威は無視できないようだ。
街の外が危険なのは国連非加盟国でも同じだ。
道路は頑張って作っているようだが電線までは伸ばしていない。
いや、もっと首都に近づけば街同士をつなぐ電線もあるかも知れないが、魔物による断線の恐れは付きまとうだろう。
国連非加盟国では電力も街単位での自給自足が原則となる。
「……ゲートがないのはやっぱり不便」
ミーリャさんの一言が全てを表していた。
「そうだね。ゲートは移動にとっても大事だけど、ゲートの地下部分を通っている各種ライフラインも生活の要だ。ゲートさえあればそこから電気、ガス、水道、あらゆるものを直接繋ぐことができる。それら全てを街ごとに自給自足となると、その苦労はやはり相当のものがあるだろう」
サラスタンでは道路が整備され、自動車の開発も進んでいる。
だが、この世界においてはそれもゲートに劣る代用品の面が強かった。
ゲートを使わない国連非加盟国だからこそこれらの技術が発展していると言えた。
「まあ今の政権は国連への加盟も視野に入れてるって話も聞くけどね。この国で一番新しい事業は首都で建設中の淡水化プラントだけど、砂漠の真ん中まで海水を持ってくるために、ゲートの使用を解禁するってニュースがテレビで話題になっていた」
「……そのニュースは私も見た。ゲートの解禁に反対する勢力が大規模なデモをやってるって。今も続いているとしたら首都は少し危険かも知れない」
この国は現在進行形で発展しているようだ。
だが早すぎる発展には何らかの犠牲も伴っているのだろう。
当然、急激な社会の変化に反発する人もでてくる。
「にゃー! そんなのどうでもいいから宿を探すのにゃ!」
アロは瑛さん達の話についていけていなかった。
まあ僕もなんとなくでしか理解はしていないので似たようなものだが。
そんなアロがかわいそうだったので僕達は気を取り直して宿を探すことにした。
何件か探して、村で一番高そうなホテルに泊まることが決まった。
瑛さんは普段から高いホテルに泊まることが多いそうだ。
相当にお金を持っているらしい。
お金なら僕も結構持っているのだが、瑛さんの資産はさらに多いとか。
ついでに言うと、僕は今瑛さんに雇われる形となっている。
要はアロと一緒だ。
そういう事情もあって、ホテルや自動車の手続きは全て瑛さん任せなのだった。
「さてと、それで今日はこの村で過ごすことになるけど、これからどうしようか」
「傭兵ギルドに行くのにゃ!」
今日の予定を決める段になってアロが元気だった。
僕には特にしたいこともなかったし、瑛さんやミーリャさんも同様だった。
そういうわけでこの村にある傭兵ギルドへと立ち寄る。
「ふっふっふ。アロと印世は傭兵だからにゃ。やっぱり新しい町についたらまずはギルドに顔を出すべきなのにゃ」
アロがまるで傭兵みたいなことを言っている。
確かにゲームとかだと新しい町について最初に傭兵ギルドに行くのはありそうだ。
ただまがりなりにも瑛さんの護衛任務を継続中の僕らが寄る必要があるかは謎だが。
でもこの世界に来て日が浅い僕としては色々な場所を見て回るのは楽しい。
「……ホテルにいてもヒマだし私も付いてく。ギルドの中を見るのも楽しいし」
そんな感じでミーリャさんと瑛さんも一緒だ。
2人は傭兵じゃないので一緒に来るのはどうかとも思うけど問題はない。
部外者だけで入ることはあまりないようだが、傭兵でない人間が傭兵とチームを組む例は珍しくないらしい。
アロが傭兵になり立ての頃は瑛さんが代わりに手続きとかをしていたこともあるとか。
いや……思い返すと今でも手続きはアロじゃなく瑛さんがやっている。
まあそんな感じでその辺は結構ゆるい傭兵ギルドであった。
「実際に依頼を受けたりできるのは傭兵だけだけどね。それについてく分には問題ない」
考えてみれば、ギルドで依頼を受けた後に他の場所で人を雇うこともできる。
依頼をこなす人間をギルドの人間に限定する理由もないようなので考えてみれば元々問題ないかも知れなかった。
まあ異人会の業務を肩代わりしているギルドもあるからそれ以前の問題だったけど。
「……せっかくだから、1日で終わるような簡単な依頼があったらやってみたい」
ミーリャさんが乗り気だ。
僕としてもミーリャさんが傭兵の仕事をするのは見てみたい気もする。
ミーリャさんはSランクだ。
神器機関所属のためにあまり戦闘はしないそうだが戦闘能力は高いと聞いた。
ミーリャさん自身もそれだけ力があるならたまには運動もしたいだろう。
いい感じの依頼があれば受けてみたいところだ。
「それなら是非受けて欲しい依頼があります」
カウンターで瑛さんが話すとすぐ受付のおじさんが乗って来た。
急ぎの依頼があるようだ。
「実は一昨日に村とダムを繋ぐ水道管がやられちまったんでさぁ。水道管は地面の中に埋めてあるから普通の魔物にやられることはまずないんですが、これをぶった切ってくる奴がいる。砂漠名物のサンドワームでさぁ。前の年に大規模討伐をやってからはめっきり出なくなってたんですがね。最近また増えてきたようで」
そう言って受付のおじさんが依頼書を見せてくれる。
カラープリントの綺麗な依頼書だ。
サンドワームの写真もついている。
遠くから撮影されたもののようだが、それでもサンドワームが大きいのが分かる。
全長100メートルはありそうだ。
口も大きく、人くらいは軽く丸のみできる大きさだ。
「すごく……大きいです」
とりあえず感想を言っておいた。
「そうなんですよね。こいつは大きくて強い。障壁も硬くて銃撃が全然効かねえ。ロケット弾でも2、3発当てた程度じゃ倒れねぇ。口の中に上手くロケットぶち込めれば倒せはするんですがね。それができるレベルの傭兵も村にはいなくて、今首都のギルドと交渉してるとこだったんでさ」
この村にも傭兵はいるし、マシンガンくらいなら武器も置いてあるが、サンドワームを倒せる戦力はないらしい。
ランク的にはBランク以上の戦力が欲しいと言う。
サンドワームは大きな敵だがドラゴンより討伐ランクは低い。
むしろ体が大きい分攻撃は当てやすいそうだ。
Sランクのミーリャさんなら瞬殺だろう。
ちょうどいい獲物と言えそうだった。
「じゃあその依頼を受けさせてもらおうかな」
そうして瑛さんが全ての手続きを終え、僕たちはサンドワームを退治することとなった。
「でもサンドワームが一番やっかいなのは、奴らが地中にいるってことでさ。目で探すのは大変ですぜ。1週間も探せば見つけられるとは思いやすが」
帰り際に受付のおじさんはそう言っていた。
だがその点については何も問題はなかった。
「うーん……。この村の周辺だと3体くらいいる感じだね」
瑛さんは村の中からすでにサンドワームの魔力を捕捉している。
「3体の距離は近いね。村からは車で30分ってところか。魔物の近くまで車で行くのはまずいから途中で車は降りることになるけど、まあそれくらいは仕方がないか」
往復1時間あまり、3体を倒すのに1時間かかるとしても十分日帰りできる。
ミーリャさんがどんな戦い方をするのか今から楽しみです。




