29 神器機関の少女
トキナさんとの幸せな一日を過ごし、一晩ぐっすり眠って一度アロの家へと戻った。
シパちゃんとは昨日の内にお別れを済ませている。
シパちゃん達の家は人が多いので待ち合わせには不向きだった。
で、これからゲートでサラスタンへと飛ぶのですが、ちょっと気になることが……。
アロがなぜか体操着を着ています。
「アロちゃん、ちょっと聞いていいかな? その服のことなんだけど」
「ふっふっふ。どうやら印世はアロのストーキングに気付いてなかったようだにゃ! アロは昨日見たのにゃ。印世が色んな店に入って女の子の服を買っているのを! もちろん印世が体操着を買ったのもアロは知っているのにゃ。気に入ったからアロも買ってたのにゃ!」
なん……だと?
いや、あり得ない。
アロは瑛さんのようにステルスが使えるわけではない。
だから僕が気付かないことはあってもトキナさんがアロの尾行に気付かないなんてことは――
『ふふふふふ。まさか本当にアロの尾行に気付いておらなかったとはの。主は少々妾に頼りすぎじゃぞ。少しは魔力感知も鍛えた方が良いの。じゃが安心せい、アロも密林まではついて来ておらぬ。見られたのは主の恥ずかしい買い物だけじゃ』
謀られた。
「ふっふっふーん。というわけで、印世の荷物検査をするのにゃぁー!」
やめてぇぇー!!
いや、昨日買った服とかもろもろは全て遺跡に置いてきた。
今僕の荷物は換金用の素材類のみのはず――
「やっぱりあったのにゃ! し、しかも名前入りだと。い、印世プロすぎなのにゃ」
「体操着に……スクール水着? ……さすがにこれはちょっと引くかも」
瑛さんに引かれた。死にたい。
『主が服を遺跡に忘れようとしておったのでな。妾がちゃんと入れておいてやったぞ。妾だけ主のコスプレを見るのも悪いからの。瑛やアロも大事な仲間じゃ。2人にも主のスク水姿を見る権利はあるじゃろう』
トキナさん最低です!
「印世はすごすぎなのにゃ。そうにゃ! アロは体操着着てくから印世はこのスク水を着て行くにゃ! サラスタンは砂漠で熱いって聞くからにゃ。印世の格好はスク水で決まりにゃ!」
砂漠をスク水で歩く男がいたら通報されちゃうよ!
「あー、一応言っとくけど砂漠は直射日光強いからね。逆にサラスタンはそこまで気温は高くない。暑いのはニムルスも同じだしね。だからサラスタンにはむしろ日差しを防ぐ格好で行こうな」
スク水は着ずに済みそうで良かったです。
「むう。仕方がないにゃ。じゃあアロは一緒に買ったジャージを上に着て行くにゃ!」
アロは上はジャージに下はブルマで行くようだ。
ジャージブルマか……悪くない。いや最高だ!
アロに良く似合っていると思います。
下半身はほぼ露出しているので日光対策的に不安はあるけど。
「まあぶっちゃけ砂漠って言っても大したことはない。この世界にはそもそも太陽がないしね。基本的に地球ほど暑いってことはそうそうない」
言われてみると、いかにも熱帯なニムルスでもそこまで暑さは感じなかった。
この世界には太陽がなく、たくさんの星の光で明るくなったり暗くなったりしているけど、地球に比べると気候は温暖なところが多いようだ。
サラスタンが砂漠化している理由は謎だけど、瑛さんが地球ほど暑くないと言うなら実際そうなのだろう。
『妾は地球の方に行ったことがないから比較はできぬが、基本的にこの世界ならどこでも長袖で過ごせるの。多少の温度差なら魔法障壁で充分相殺できるしの』
単純な気候の差だけでなく、魔法の有無も関係しているようだ。
砂漠と言ってもこの世界ではそこまで専用の装備はしなくていいらしい。
「どんな格好でもいいならやっぱり印世はスク水着るのにゃ?」
スク水は着ません!
いや昨日は着たけど仮に必要だろうと外では着ないですからね。
しばらくもめた末、僕は下は短い半ズボン、上はパーカーという格好で落ち着いた。
瑛さんが言うにはホットパンツとか言うそうだけど要は短い半ズボンだ。
少し恥ずかしい気もするけど少なくともスク水よりはマシである。
「最高に似合ってるよ印世君」
久しぶりに瑛さんにぎゅってしてもらえた。
嬉しかったので僕もぎゅっと抱きしめ返しておきます。
瑛さんの目がちょっとやばい気もしたけどそれだけ喜んでくれたのなら僕も本望だ。
「今回はそれで許してやるにゃ。スク水はプールの時に見るのにゃ」
サラスタンにプールがあるかは知らないけど、あっても近づかないようにしたいと思います。
ちなみに瑛さんはセーターを着ている。下は普通の長ズボン。
瑛さんは普段からセーターを着ることが多いけど今日のセーターも良く似合っている。
縦にラインの入ったセーターを瑛さんが着ると、瑛さんの素敵な場所の形が良く分かって最高です。
瑛さんとたてセタの組み合わせはとても素晴らしいと思います。
『大変良くけしからん』
トキナさんも嬉しそうだ。
結局3人とも砂漠に行く格好とは思えないけれど。
砂漠は夜は寒いという話も聞くし格好はこんな感じでいいでしょう。
「じゃあサラスタンに行こうか。あ、印世君はちゃんとIDカード持ってるよね」
そういえば国外に出るにはIDの提示が必要だった。
まあこれはもう国連仕様のIDカードが出来上がっていたので問題なかった。
そうして僕たちはニムルスの首都、コネリアからゲートを通ってサラスタンへと移動する。
正確にはサラスタンとの国境近くの街へと出た。
「サラスタンは国連非加盟国だからね。それも私がこの国にあまりこない理由の一つなんだけど、サラスタンには異人会もない。特殊と言えば色々と特殊な場所だ」
異人会がないというのは想定外だ。
僕はサラスタンの言葉を覚えていない。
というかそれじゃ一回戻った方がいいんじゃないのだろうか?
「でも代わりに傭兵ギルドが大きいからね。アロはサラスタンの言葉も話せないし、まずは傭兵ギルドに行こうか。待ち合せもあるしね」
異人会がないと聞いて正直困ったけど、サラスタンでは傭兵ギルドが異人会の代わりとして使えるようだ。
異人会の業務を全部肩代わりしているのかは謎だけど、僕とアロは傭兵ギルドに所属しているのでギルドを使えないということはないだろう。
でも待ち合わせしている人ってどんな人だろうな。
神器機関のミーリャって人だとは聞いているけど。
『タイミングがタイミングじゃからの。あまり良い気はせぬな。じゃが妾達もあれだけ派手なことをやったのじゃ、どこかが接触してくるのは想定の範囲内じゃて。むしろこそこそ探られるよりはよっぽどいい』
そういう考え方もアリか。
むしろそのミーリャって娘以外にも僕らを探っている勢力はいるのだろう。
分からないところから監視されるくらいなら、堂々と出て来てくれる方がありがたいというのはあるかも知れない。
「神器機関はともかくミーリャは悪い娘じゃないからね。それにすごい美人さんだよ」
それはちょっと期待してしまいます。
「でもミリャーはだいたい無表情だから何考えてるか分かんないのにゃ」
アロには不評のようだ。
でも2人が知っている人物ならそこまで悪い人じゃない気もする。
そうこうする内に傭兵ギルドに到着した。
中に入る前にミーリャさんの方が建物から出て来た。
瑛さんは普段ステルスを使っていない。
それにアロの魔力もあるから知り合いなら魔力の感じで気付くのだろう。
ミーリャさんの魔力もそれとは分からなくても強い魔力は感じた。
そう、ミーリャさんから感じる魔力は強い。
魔力量は僕よりも多いだろう。
「ミリャーは神器機関なのにSランクとか意味不明なのにゃ。そんな強いなら傭兵やってる方が適材適所だと思うにゃ」
…………。
ミーリャさんがSランクだという情報は聞いてなかったです。
そういう情報は事前に教えて欲しかった。
『ふむ。これが特別に強い者を分けるSランクという奴か……魔力だけなら印世よりも数段強いようじゃの。確かにこれならこそこそする必要もないか。実力で主を好きにできると思っておるのじゃろう』
そう言われると少し危険を感じます。
僕はEXランクのトキナさんと暮らしていたから基本的にはSランクに対して恐れはない。
ミーリャさんは確かに僕より強そうだけどトキナさんよりはあきらかに弱い。
といっても、遺跡の外で僕より魔力量が上の人間と会うのは初めてだ。
トキナさんは味方だからいいけど敵かも知れない人が僕より強いというのは緊張する。
できれば敵にならないことを祈ります。
「初めまして。私はミーリャ・ラザス。16歳。両親はどちらもロシア人だけど育ちは日本。なのでロシア語は話せない。飛ばされてからは2年」
「初めまして、汽坂印世です。僕も16歳で日本人です。この世界に来たのは1カ月前くらいになります」
顔は無表情だけど悪い人とかではなさそうだ。
そして瑛さんの言うように綺麗な人だ。
透き通るような白い肌に綺麗な金色の長い髪。
儚げな薄幸の美少女という感じだ。
『て、天使がおる……』
……僕よりもトキナさんの目に止まったようです。
確かにミーリャさんはすごく綺麗だけど僕はトキナさんの方が可愛くて好きだ。
だがトキナさんから見て僕とミーリャさんのどちらが上かは不安なところだ。
『いや、もちろん主も可愛くて良いぞ。このメンバーは基本的に瑛も含めて可愛い系の人材が多かったからの。そういう意味でもこのミーリャは貴重な綺麗系で素晴らしいのじゃが』
やはりミーリャさんの評価は高いようだ。
少しくやしい。
「…………」
そのミーリャさんは無表情のまま僕を見ていた。
確かに綺麗なんだけどミーリャさんは無表情すぎて何を考えているか分からない。
まあ怖いって感じではなく何も考えてない感じがする無表情なのだけど。
「……汽坂印世は男って聞いていたけど。性転換した?」
性転換はしてません。
「印世はこう見えてちゃんと男にゃ。ちっちゃいけどちゃんと生えてるのにゃ!」
……えっ!?
アロにちっちゃい言われた……死にたい。
『いや、妾は他のを見たことないから分からぬが十分な大きさじゃったと思うぞ。そんなどうでも良いこと気にするでない』
どうでも良くはないですよ。
「あー、印世君はちゃんと男の子だよ。それにちっちゃいわけ……でもない。多分普通だ。きっとアロは情報が偏っているんだろう」
「そう、分かった。……大丈夫。私は小さくても平気。逆に君の顔で大きかったら少し引く」
慰められました。
というかアロはなんで初対面の人に僕の大きさとか暴露するかな。
これはセクハラで訴えてもいいレベルだと思います。
「アロの知識は偏ってないにゃ! ママが見てる雑誌の人はみんなマンモスさんなのにゃ!」
アロのお母さんは一体何を見てるんでしょうね。
というかそれは多分偏っていると思うし。
「とりあえず立ち話もなんだしみんな中に入ろうか」
瑛さんに言われて傭兵ギルドの中へと入ります。
なんだかすごい無駄な所で精神を削られた気がします。
「大丈夫。私は可愛い子は好き。応援する」
ギルドに入る時ミーリャさんが僕の隣に来て励ましてくれた。
嬉しい。
表情は読めないけどミーリャさん悪い人ではないと思う。
何を応援されたのかはよく分からないけれど。




