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この異世界もう地球化してるんですけど……ぐあっ!右手がぁっ……!  作者: 濃縮原液
第1章 特定外来生物ウホゴリラ(地球名:ニホンザル)
16/42

16 歴史講座①~魔王大戦~

 アロの家で朝ご飯を御馳走になったあと異人会へと向かった。

 今日は1人で異人会の中へと入る。


 予約は昨日で取っているし、今日は講義を受けるだけなので付き添いは不要だった。

 瑛さんはアロと一緒に近くの漫画喫茶へ向かった。

 歴史講座が終了したら携帯で連絡する手はずだ。



 そして、僕は歴史の講義を受けた。


 まずは軽く昔の歴史から。

 こちらはトキナさんも知っているのでたいした情報はないだろう。

 中世的な世界観の剣と魔法の世界だ。

 ただトキナさんには常識でも、僕が知らない知識はいくらか得られた。


「この世界《フォニアック》において、魔王の存在そのものはけして珍しい物ではないし、今も表舞台から姿を消しているだけで現存する魔王も存在します。王族が魔結晶を使って魔族と化したのが魔王ですから」


 魔族や魔王についての講義は少し興味深かった。


「魔族となるには魔結晶が必須ですし、その上で魔族になる者にも強い魔法の素質が必要です。それでも成功率は低く、失敗すれば死のリスクもあった。ですが、魔族にさえなれれば人間のままでいるより遥かに長い寿命を得られます」


「不老不死は地球において皇帝や王が求めてやまなかったもの。それはこのフォニアックにおいても同様でした。そして、この世界にはそれを可能にする方法があった。この世界の王達が、こぞって魔族へなろうとし、多数の魔王が生まれたのは決して不思議なことではないでしょう。」


「そして、一度魔王となってしまえばその国はある意味安定する。長い寿命を誇る魔族と化した王は、国や民衆へもある程度の利益をもたらしたと推測されます」


「地球において国が滅ぶ理由の1つとして、王位を授かった後継者が無能だったという場合があるのは、深く説明せずとも分かるでしょう。前王がいくら優秀でも、その子、孫と進めば愚かな王が生まれてしまうのは必定。だが王が魔族となり、優秀な王自身が長く国を納めれば、その弊害を少なくすることが可能でした」


「もちろん、中には愚鈍な王が魔王となる場合もあります。ですが魔族は長い寿命を誇るだけで決して不死身ではありません。愚鈍な王は、民衆の手により、もしくは他の魔王の手によって倒されました。そして賢王が残る。魔王による統治システムは、地球の王政と比べれば幾分うまく機能していたと言えるでしょう」


「ですが、もちろん問題はありました。そもそも、フォニアックに魔王は多くいたのです。その他にも、魔族になろうとする者は後を絶たなかった。そのままでは魔族の数も魔王の数も増える一方です。そしてそれは、あまたの魔王同士による果てしない淘汰と闘争の歴史を作りあげました」


「例え一人一人の王達は賢王だったとしても、争いが絶えないその状況は決して平和とは言えなかったでしょう。そのような状況の中で、1人の強力な王が現れました。それが、歴史上唯一の大魔王と呼ばれる『テタ・トキナ・マグニータ』です」


 トキナさんは自分で魔王だと言っていたけど、歴史上では大魔王に格上げされていました。


『時間が経つうちに大がついてしまったようじゃのう。確かに妾の下にも何人か魔王がおったのは事実じゃが』


「魔王は、その名の通り一国の王です。それは気高く、他人の下に集うようなことはありませんでした。しかし、大魔王マグニータは複数の魔王を配下におさめ、実に世界の半分もの国々をその支配下におさめることに成功します。このフォニアックにおいて、初の統一国家が生まれるかも知れなかったのがこの時だと言われています」


 トキナさんは本当にすごかったらしい。

 世界の半分を手中に収めれば、残り半分が一丸になっても戦える。

 当然そんなことはありえないから、この時点でトキナさんは世界征服が可能な所まで辿り着いていたのだろう。


「多数の魔族にくわえ、複数の魔王すら擁する大魔王の軍勢は、もはや一国では止めようのないものでした。いえ、既に他のどの国もあきらめていました。しかしその中でもあきらめない国がいた。その国の1つ、ゼガル国こそが、全ての元凶である《異世界召喚装置》の開発に成功することとなります」


「世界の半分は既に大魔王の手中にあり、残り半分には大魔王を止める術は1つもなかった。そこでゼガル国の取った策が、異世界からの勇者の召喚でした。召喚自体はワープゲートと似た原理で可能でした。ですが異世界召喚には全く別の技術が必要でした」


「このフォニアックは、地球のある天の川銀河とは別の場所にあることが天体観測により判明しています。つまり、この星から地球の人間を召喚するには、銀河系同士の相対距離、銀河系を周る太陽系の軌道、その中を周る地球の座標、地球の自転、その他もろもろの全てを計算して座標を設定する必要があります。もっとも、これもこの世界の宇宙と地球が存在する宇宙が同一のものならという前提つきです」


「この異世界召喚技術はある1人の天才により実現されたとされていますが、その人物がいなくなって以後、その技術も失われたままです。あれから90年以上たった現在でも、我々は地球がどこにあるかすらつかめていない状況にあります」


 ここで前半の講義は終了した。

 この時点で、地球へ帰る手段が誰にも発見できていないことだけは分かった。

 もしかしたら、この世界と地球では宇宙そのものが違うという説が有力なのかも知れない。


 だとすると大問題だ。

 もう座標どころの話ではない。

 宇宙の外なんてどうやって探せばいいのか見当もつかない。


 本当に誰か天才でも現れない限り、無から異世界召喚の技術を再現するのは不可能に近いだろう。


『じゃが、現に地球人は今も召喚され続けておるし、召喚装置とやらもまだこの世界、この星のどこかに存在するというのが有力じゃそうだからの。ならそれを探すのが現実的じゃろうが……妾の予想が当たっておれば、それも難しいのじゃろうの』


 そういえば、トキナさんにはこの召喚が未だ食い止められない原因を予想できている節があった。

 だが、今は聞くときでもないだろう。

 それはここからの講義で聞けるはずだ。


 そして後半の講義では現在のこの世界の状況、そして僕にとってはある意味召喚装置のことより大切な、トキナさんが現在おかれている状況についても知ることができるだろう。


 ちなみに講義にはプロジェクターが使われており、スクリーン上には説明を補足する資料が映し出されていた。

 ただ動画はないし、説明もお役所的な感じなのでそれほど面白いものではなかった。

 でも有用な情報なのは確かだ。

 とくに後半は大事なので、僕は集中して講義の続きを受ける。


「召喚装置は、日本を中心に被害者を選定してこのフォニアックへと召喚しています。ですが、これは日本に意味があるわけではないと言われています。この召喚装置は、元々ただ1人の人間を召喚するためだけに開発された物だったのです。それが、最初の被召喚者にして今も伝説となっている勇者、天笠正二あまがさしょうじです」


「この天笠正二が日本人だったために召喚の座標が日本へと設定され、今現在も日本を中心とした召喚が行われていると言われています。そして、その天笠正二の実力は、異世界召喚装置という大魔道具を作るにあたいするだけの力を持っていました」


「当時の世界は、ほぼ大魔王に掌握されたと言ってもいい状況です。ですが、勇者天笠はその全てをひっくり返しました。彼は1人で万の軍勢と戦い、複数の魔族を同時に相手し、魔王すらも圧倒的な力でなぎ倒していきました」


「彼はこの世界にとって、まさに異世界の存在だったと言えるでしょう。彼を越えるような存在は、90年たった現在まで1人として現れてはいません。天笠正二は、唯一にして絶対的な力を誇る勇者でした」


「そして、彼はその空前絶後の力のみで大魔王の軍勢を崩し、ついに大魔王テタ・トキナ・マグニータを一刀のもとに切り伏せて勝利を収めます。大魔王の軍勢は、マグニータのカリスマ性に支えられていました。そのカリスマを失った魔王連合軍はその後ちりじりとなり、そして、世界はテタ・トキナ・マグニータが現れる以前の、各国の魔王が乱立する世界へと戻ることになります」


 トキナさんが敗れるくだりは、聞いていてあまりいいものではなかった。

 しかも講義を聞く限り、トキナさんが悪い魔王には思えない。

 むしろそのままトキナさんが世界制覇をなしとげていれば、そこで世界は1つになれたのではないだろうか。


 それが異世界からきた勇者などという異物によってひっくり返された。

 勇者が勝って世界が平和になったのならまだしも、元の混沌に戻ったというのだから救えない。

 やっぱりその勇者はただの仇だ。


『妾は……死んだことになっておるようじゃのぅ』


 怒りに燃える僕とは対照的に、トキナさんは必要な情報を的確に入手していた。

 そう、公式の歴史において、トキナさんは“封印された”のではなく“倒された”ことになっている。


 公式にはトキナさんはもう死んでいるのだ。

 本当にひどい話だ。


『これは悪くない。最高ではないが、決して悪くはない状況じゃの』


 トキナさんは自分が死んだことにされているのが嫌ではないようだ。


『もちろん心情的に良い気はせぬがの。じゃが、妾のおかれる状況としては悪くはない。少なくとも妾が死んでいると思う者が多いのであれば、遺跡の外に出ても妾に気付く者は少ないじゃろう』


 確かにそうだ。

 最悪なのはRPGゲームよろしくトキナさんが公式にも封印されていて、いつか復活する魔王に対して勇者の子孫がどこかの王族になっているとかだ。

 そんな準備まんまんで待ち構えられていては、トキナさんの封印を解いた瞬間に魔王が復活したことがばれるだろう。


 その上で、長年準備した勇者の子孫や何かが待ってましたとばかりにトキナさんに襲いかかってくるに違いない。


『これで大丈夫というわけではないが、封印さえ解ければ妾が外へ出るのはもうよいじゃろう。少なくとも遺跡や密林から出た瞬間に捕捉されるような確率は減ったと言える。まあ妾の封印を知っており、監視を続ける存在はあるかも知れぬが、少なくとも石化が解けてしばらくたった今でも遺跡へ攻めて来る者はおらぬしの』


『そして妾が公式に死んだとされておるのなら、遺跡から離れさえすれば追撃の手もすぐには来ぬじゃろう。妾が公式にも封印されておったら、妾の存在がバレた時点で世界中に指名手配がかかる可能性もあったからの』


 これはいい話だ。

 トキナさん自身から遺跡を出ていいというお墨付きをもらえた。

 慎重に遺跡から出るのを迷っていたトキナさんが出ていいというのだ、これは大きな前進と言えるだろう。


 ぶっちゃけ後は封印解くだけじゃないですか!

 俄然やる気が湧いてきます!

 早くサラスタンへと行きたいです!


『じゃが慌てるなよ。妾の存在がばれにくくなったというだけで、ばれて良くなったわけではないからの。そして先々の懸念は減少したのじゃ、後は冷静に、粛々と行動を起こせばよいだけじゃ』


 急がば回れの精神だ。

 それは大事です。

 ゴールが見えてきたからこそ慌てるわけには行きません。


『まあ遺跡を出るのが全てのゴールでもないのじゃがの。じゃが前進なのは確かじゃ。それより、妾はこの先も気になるの。今の話では元の戦乱の時代に戻っただけじゃ。それがなぜ国連が主導する今の世界に変わったのか。これにも妾は興味がある』



 まだ歴史の講義は残っている。

 戦国時代に戻ったフォニアックがどうして今の形になったのか、それは僕にも興味があった。


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