付け焼き刃!!
「何しに来やがった?」
ソフィの体を隠しながら前に出た金平は、苦々しい表情を作った。
『よりによって、こんな場所でこいつと会うとは……偶然な訳ぁねーよなぁ』
辺りには誰もいない。スピーカーから流れるのどかなテーマ曲が、園内の人気の無さを際立たせ、周辺に聳えるアトラクションの壁面に反射しながら響き渡っていた。
数台の自販機が林立する広場には、半円を描きながら木々が生い茂り、周囲から死角を作っている。風雨に曝されて色褪せたプラスチック製のベンチが、等間隔に置かれていた。それを縫いながら、金平とソフィのいる方向へ歩み寄るスコーピオン。両手をポケットに突っ込み、待ち合わせた親友と挨拶を交わす素振りの笑顔が浮かぶ。
「金平さん、お久しぶりです。この前はお呼び立てして失礼しました。よもや芹沢さんまで来ていただけるとは予想外でしたが」
そう言うスコーピオンの顎から左頬にかけて、二本の傷痕が残っている。
「この傷の借りは、いずれ芹沢さんにお返しするということで」
「おめーには色々聞きたいことがある。ソフィ、離れてろ」
スコーピオンの言葉を遮り、ソフィの腕を掴むと後方に押しやった。
「金平さん?誰?」
「前に食堂で話に出たろ?俺と芹沢さんを襲ったスコーピオンだ」
「あっ……」
目深に被ったキャップから覗く黒い顔を凝視すると、状況を理解するソフィ。
「金平さん、増山さんやチャックが来る前に、一勝負しましょう」
「……なんでうちの人間のことそんなに知ってるのか、詳しく教えてもらおうじゃねーか」
徐々に詰まる互いの距離と共に、金平の視線が殺気を帯びていく。
腰を落とし、半身の構えを作った。
「雰囲気、変わりましたね」
スコーピオンの目に映る金平の姿が、以前と異なる気配を放って見えるらしい。
「女ですか?それとも……増山さん辺りに師事したとか?」
黒い喉仏を上下させ、楽しそうに笑う。
「まぁ、そんなとこだ」
金平が歯を剥き出し、この男に似つかわしくない邪な笑顔を浮かべた。
砂の浮いたアスファルトを蹴りだし、金平が先に仕掛けた。絵に描いたような、教科書通りの正拳突き。さっきまでの穏やかな空気を引き裂き、スコーピオンに襲いかかる。
「ククッ」
嘲笑するスコーピオン。体を捌き、いとも容易く躱す。
「そんな付け焼き刃の空手で……」
斜めに体を開いたスコーピオン。接近した金平に向け、得意のローキックを放とうとした。左正拳が空を切り、前のめりに倒れこむ金平だったが──。
180センチの隆々とした体躯が、驚異的な速さで加速した。
一瞬で膝を落とした金平は、スコーピオンの長い脚へ向け、なんの迷いもなく体当たりする。いかつい両肩が、スコーピオンの大腿部の動きを封じた。
「!」
これではローキックを放てないと瞬時に判断したスコーピオンは、咄嗟に後方に退けぞって間合いを計ろうとした。
その刹那、金平が太い腕に力をこめ、両手をスコーピオンの膝裏に伸ばし、恐るべき握力で掴む。そして、カジノのポーカーで大勝したギャンブラーが、コインを総取りする動きで引き寄せた。
──双手刈。
「なっ!」
いとも簡単に、後方に押し倒されるスコーピオン。一瞬で、金平が馬乗りになる。
「マウントポジション、いただき」
いかにスコーピオンが日本の格闘技界で頂点を極めたとはいえ、金平の柔道の技は世界を制したレベル。
付け焼き刃の空手。甘く見たスコーピオンに隙が生じた。驚愕して目を見開いたスコーピオンを、今度は金平が嘲笑する。なんの躊躇も無く、筋肉を収縮させた腕を振り上げた。




