巡る季節!!
「面白かったねー♪」
フラフラしている金平を他所に、子供のようにはしゃぐソフィ。青空から射す陽光が、微かな目眩を伴って若い二人を照らす。軽快な足取りのソフィとは対照的に、ジェットコースターの乗り場から、階段を降りる金平の足元はおぼつかない。
「金平さん、喉渇いた」
仔猫のように、曇りの無い瞳で金平を見上げる。心無しか以前より目に力が無いが、白い肌に整った鼻筋。
美しさは相変わらずだ。
「あっ、あぁ……向こうに自販機あるみたいだな」
ジェットコースターの恐怖と、久しぶりにソフィと急接近したことによる緊張からか、ぎこちない素振りになる。
「あれ?」
ふと気付くと周りに誰もいない。増山が気を利かせて、社長を引き連れて違うアトラクションへ向かったのだ。木下とケイも見当たらないし、チャックとナナも二人きりで別行動している様子だ。
人気の無い園内を二人で歩いていると、不思議な感覚に襲われる。二人きりでソフィといるなんて何時ぶりだろう。幸せな気持ちと、なぜだか不安な気持ちが混在する金平の心中。
「そう言えば金平さん。前に、私の指を握って、指が綺麗な人は幸せになれないって言ったよね?……どうしてあんなこと言ったの?」
「えっ?」
ソフィの唐突な言葉に、頭の中の引き出しを片っ端から引っ張り出すが、そんなことを言った記憶は無い。
指がどうこう言いながら、手を握る……。 きっと木下のことだろう。
金平の胸を、冷たい物が流れて落ちていく感覚が襲う。記憶が混同しているのか、ソフィは金平と木下を間違っている。
金平は胸に、鈍い痛みを覚えた。
「あ、あれは……その……ソフィに触る口実が欲しかっただけだよ」
咄嗟に口をついた言葉。呼吸が苦しくなる感覚と、瞳が熱くなる感覚。
笑顔でごまかす。
「ふ~ん」
少し金平から顔を反らすと、まだあどけなさを残す頬が持ち上がったように見えた。
「そっか」
白い歯を見せると、音も立てずに身を翻し、金平に向き直る。
「金平さんってチャラ男?」
「えっ?そんなんじゃねーよ」
頭を掻くと、目を伏せた。
そんな少年じみた金平を見つめ、ソフィが一層微笑む。
「……金平さんってさ、カッコいいよね」
「えっ?」
何時かどこかで、こんなやり取りをした。場所は……スターバックスだったろうか?
とりとめも無い話をしたことを思い出す。
──もう一度、初めからやり直すのも悪くはないのだろうか。胸の中で独り言のように呟く。
金平も幾つか恋をしたことがあった。あの頃に戻れたら、どんなに幸せだろうと思ったことが幾度かある。何故だか、出会ったばかりの頃の涼子を思い出していた。
そう言えばどこか似ている。
気の強い眼差し。
そっぽを向いたかと思えば、甘える仕草。ソフィとも、いつかは季節のように気持ちが巡り、サヨナラを言わなければならない日が訪れるのだろうか?
金平の胸中に、波が寄せては返すように、様々な思いが巡った。ふと、金平が自然にソフィの細い指先を掴もうとする。
「なっ!」
自販機のある閑散とした小さな広場に入った瞬間、金平が立ち止まり、表情を強張らせた。掴みかけたソフィの白い指からゆっくりと手を離し、口を真一文字にする。
「どうしたの?」
そんな金平の顔を見上げ、眉を潜めて口を尖らせるソフィ。腕を組みながら、自販機の横に背を預けた男。
長身に、スーツ。目深に被ったスウェードのキャップ。暗い表情の目元から、ギラギラと鋭い眼光が放たれている。
「……スコーピオン!」
静かに呟く金平。邪気をはらんだ笑顔が、金平へ向けられていた。




