私闘!!
音も無くゆっくりと道場に上がる木下。相変わらず透き通るように色の白い肌、そして、妖しい程に女性的な色香を漂わせていた。
金平の発するプレッシャーを躱し、細身の身体をゆっくりと道場の壁面へ運ぶ。
一方の金平はその動きを視線だけで追う。腕を組み、がっちりとした怒り肩に、この男らしからぬ殺気を漂わせている。
木下が壁にかかっている数振りの木刀をまじまじと品定めすると、その内の一本を手にした。目線と同じ高さまで手を返して、持ち手から切っ先までゆっくり見つめる。すぐに木刀の先端を畳の上スレスレに下ろすと、金平の瞳を見据えた。
「さぁ、やりましょう」
緊張感で氷ついた場の雰囲気とは不釣り合いな程、屈託の無い木下の笑顔。
「んなもんで殴られたら、普通の人間死んじまうぜ」
今まで見せたことのない悪意に満ちた表情の金平が、道場の中央に歩み寄る。それには答えず、赤い唇を歪め、木下は軽く笑う。
「カ、カナダイラさ~ん」
チャックが泣きそうな音を出しながら、悲壮な面持ちで両者を見つめた。
ベタ足で体を斜めにし、ほんの少し姿勢を低くした金平は、木下の携える木刀に視線を落とす。
その視線に反応し、対する木下は左の肩を引き、右足を前に出し、半身に開いた平星眼の構え。
木刀を右に開き、真剣でいうところの刃を内側に向ける。
柔道と剣道。
得物がある分剣道に利があるように思えるが、初太刀を避けて得物を捕らえる事ができれば、組み合いにて柔道が遅れをとるはずがない──。
金平はそう思っていた。
「おぉっっ―!」
「!?」
突如として、雷鳴のごとき気合いを発した木下。
細身の体からは想像もつかない声量が、道場の空気を震わす。さっきまでの菩薩と見紛う程に穏やかな表情から一変、白夜を駆ける銀狼に似た猛々しい形相。
次の瞬間、木刀を水平に構えると畳を蹴り出し、一瞬で間合いを詰め、鋭い突きを放った。
残像を残し、躍動する木刀。
金平は咄嗟に反応し、屈めた膝を伸ばして剣撃の範囲外へ身を躱す。
だが……。
「なっ!?」
躱したと思っていた木刀の先端が、金平の厚い胸元で弾けた。
一突きだと思っていた木下の攻撃は、その実、三段突きだったのだ。
余りの撃ち込みの速さに、常人の目には一回突いたようにしか見えない。フラッシュを焚いたような衝撃が、金平の眼前を襲う。
胸元、喉元、眉間。
それらの部位へ、木刀の切っ先が寸止めでなぞられていく。
微動だに出来ず、硬直する金平。
「あんた達!そこまでよ!」
突如として道場に響き渡る怒号。
木刀の切っ先を金平の眉間に突きつけたまま、木下が視線をロッカールームへ向ける。
タンクトップに短パン姿の社長が、不愉快そうな表情を顕にして、道場中央の二人を見つめていた。




