ビキニとカメラ!!
凄まじい速さでタンクトップと短パンを脱ぎ捨てる社長。撮影用に服を着せられたゴリラが、怒り狂って服を脱ぎ散らかすかのごとき異様な絵ヅラだ。
露になったギリシャ彫刻を彷彿とする肉体。
金平は顔をしかめると、思わず目を背ける。
テラテラの紫色のビキニが、月明かりを浴び怪しく輝いている。
チャックが開けたジュラルミンケースから、『黒光丸・Sサイズ』を二本取り出し、両方とも逆手に握ると、ボクサーさながらに眼前で構える。
「パパは特殊部隊の隊長だった頃、『悪魔のナイフ使い』って、隊内でも恐れられてたんだって。増山さんが言ってたよ」
金平の隣にいるソフィが、父親の姿を見つめ、他人事のように説明した。
「悪魔のナイフ使い……」
その恐るべき異名を聞いた金平はさらに呟く。
「今やオカマのナイフ使いやん......」
「えっ?金ちゃんなんか言った?」
金平の呟きを聞き取れなかったソフィ。
「い、いや……なんでもねっす」
誤魔化しながら、いそいそとつなぎを脱ぎ始めた。まさかソフィが随行するなんて思ってもみなかった金平だったが、ここまで来て脱がないわけにはいかず、遂にビキニ一枚になった。
つなぎの後ろの大きめのポケットに差しておいたビーサンを抜き取り、スニーカーと履き替える。
異様な解放感と、容赦なく吹き付ける寒風が金平を襲った。
恥ずかしいのでソフィには背を向ける。目線の先のチャックも同様の格好に着替え始めていた。
ビキニにビーサン、首には痛々しいギプスが巻かれているので、もはやその出で立ちは、海難救助中にムチウチになったライフセーバーにしか見えない。
吹き出す金平。
後ろでソフィも吹き出している。
笑われてるとも知らず、二人に背を向け、無造作にケツをかくチャック。
季節外れの蚊に喰われたようだ。
かなりの勢いでかいている。
更に吹き出す金平とソフィ。
何気にソフィのほうを振り返る金平だったが……。
「ンガッ!?」
声にならない音を発して、膝を屈めた。
ソフィがビキニ姿になっていたのだ。
紫色のテラテラ素材で、胸と局部を気持ち隠しているビキニ。色の白い肌が月明かりに照らされ、美しい肢体を露にしている。しかし、腹筋は見事に引き締まり、一流のアスリートを連想させた。
対照的に、だりっとした豊かな胸が、深い谷間を作っている。
「ふぁっ……」
金平は茫然自失になる。
「金ちゃん、恥ずかしいからあんま見ないで」
目を伏せて、顔を赤らめるソフィ。
「いや……あの……まさかソフィも戦うの??」
「うん……」
下ろしていた髪を縛り上げながら、控えめに頷く。
そんな二人に三国が近づいてきた。
ハマーの開け放たれたトランクの上に置かれたノートパソコンからは、警告音の鳴る間隔が次第に狭まっている。
三国の右手には高価そうなハンディカメラが。
「金平さん、ソフィは増山さんやチャックと同じ空手道場の門下生なんですよ。こう見えても、立ち技系の大会で上位入賞を果たしていて、並みの男じゃ太刀打ちできないぐらい強いんですよ」
「は、はぁ」
開いた口がふさがらない金平。
どーりで、元カレの歯を五本も折るわけですね……っと、心中穏やかでない。
まぁ、父親がアレだし、増山さんとも子供の頃から付き合いがあれば、自然とそうなるもんか......と、納得せざるを得なかった。
「三国さん、そのカメラは?」
三国の手に収まる物を見て金平が尋ねた。
「こ、これはその……今回の武器の使用状況を録画して、あとでラボに持ち帰り研究するための……えーっと、データ取りな訳で」
これから現れるであろうSEに怯えているのか、しどろもどろの三国。
だが、カメラを素早く録画モードにすると、金平の後ろに向け始める。その先にはソフィが。
ソフィは前屈みになり、ジュラルミンケースから『撲殺太郎・Sサイズ』を取り出そうかといった所だ。
胸の谷間が更に露になり、グラビアアイドル並みのあられもない姿勢になっている。
「……」
今までに見たこともないぐらい真剣な様子の三国は、恐怖を忘れ、一心にカメラをまわしている。
「三国さん、何撮ってんすか?」
「……あ、いや、その、これは、科学的研究のためであり、その……決して……」
「あんた達何してんの!!もうすぐSE出てくるわよ!!」
二人の様子を見ていた社長が怒号を上げる。
「金平さん、SEに攻撃されたり防御する時は、攻撃する箇所や防御する箇所に精神と筋力を集中してください。そうしないとSEに男性ホルモンを低下させられます」
三国がハマーの停車する方角へ振り向きながら言った。
「え、はぁ」
んなこと急に言われても、どうすりゃいいのか分からんて、と思う金平だったが……。
「あの、ちなみにそれを怠るとどうなるんですか?」
恐る恐る三国に問う。
「ああなります」
カメラを持つ手とは逆の手で、指を差す。その示された方向を見ると、社長と目が合った。
血走った剥き出しの眼球が金平を見つめながら、唇を尖らせて、腰を軽く前後に振っている。
「嫌だ……絶対に嫌だ……あんなんなりたくない」
背筋に氷柱を押しつけられたと錯覚する程の悪寒が走り、膝がガクガク震えだす。
その時、三国のノートパソコンの警告音が、病院の心電図が停止したような、一定の音に定まった。
コマ鼠ばりのスピードで、ハマーの陰へダッシュして行く三国。安全を確保してから、改めてソフィにフォーカスを合わせている。すると、整地された土の中から、まばゆい一条の白い光が天へ向かって突き出した。次第に光が七色へと変化していく。
しゃがんで『撲殺太郎・Lサイズ』を手に装着していたチャックも、光に気付き振り返った。
金平だけ文字どおり空手のまま。それに気付くと慌てジュラルミンケースに走り寄り、『黒光丸・Lサイズ』を手に取る。
その時には、既にSEがその全貌を現していた。




