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こちら筋肉防衛軍。  作者: マッスルハッスル。
第①マッスル ◆筋肉への誘い!!◆
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ド突き合い!!

「えっ……何、あれ?」

 ソフィが言葉に詰まる。視線の先に現れた、七色の光を放つ物体。空中をゆらゆらと浮かんでいた。全長は2メートル程あろうか?前回社長達が戦ったSEより二周りは小さい。

 しかし、その姿に社長とチャックは驚嘆した。

「あんなの初めて見たわ……」

思わず構えていた黒光丸・Sサイズを持つ両手を、だらりと下げる。

「アザラシ?」

 それは見紛うことなく、アザラシだった。

「どういうこと?長いことSEと戦ってきたけど、あんなの初めて見たわ。魚類じゃないなんて」

 撲殺太郎・Lサイズを両拳に装着し終えたチャックも驚きを隠せない。

「オ〜ウ……ミステリア〜ス」

 ハマーが停車している場所を背にしている筋肉防衛軍一堂。そこから海に向かって広がる埋め立て地の、10メートルほど離れた地点に漂う巨大なアザラシ。 普通のアザラシと違うのは、その大きさと、LEDに似た目映い光彩を放っていることだ。

 もちろん普通のアザラシは空に浮きはしない。

「三国ちゃん、あんた、もう少し離れた場所に行きなさい。ハマーごとね」

 ハマーの陰からカメラをまわしていた三国が、<トムとジェリー>のジェリーのように小刻みにうなずくと、すぐさま運転席に乗り込む。

 あっという間に、50メートル程離れた地点へ車を走らせた。黒光丸・Lサイズを両手に握った金平は、チャックや社長が動揺している様を見て、自身もビビり始める。

「な、なんなんすか!?なんかヤバイやつなんですか?」

「今までのSEと姿形が全然違うの……でも、なんか可愛いかも」

 ソフィが緊張を緩め、笑顔を浮かべる。確かに顔を見ると、どこの水族館にでもいるアザラシにしか見えない。凶悪な敵。と言うより、愛くるしい気配すらある。

 その時、遠くから微かに声がした。

「──すりぃ……く……りぃ……」

 声のする方向へ振り向くと、遠くに距離を置いた三国が、ハマーの陰から手を振りながら何やら叫んでいる。

「どーしたの三国ちゃーん!」

 社長が腹から声を出して聞き返した。

「くーす……ぃ……くーすーりー」

 ハッとなる社長。

「しまった!!お薬飲むの忘れてたわ!!」

「あっ!!」

 思わず金平も息を飲む。

 前回の戦闘前に、増山がみんなに配った、例の<抗ホルモン剤>とかいう怪しい薬。普段増山が管理していたためか、すっかり全員その存在を忘れていたのだ。

『あれを飲まないと、つまり……』

 自問自答する金平のすぐ隣にいるオカマのナイフ使いと、同じような人格、容姿になる可能性がかなり高まるということだった。ましてや金平はSEとは初めて戦う。三国の言う、精神と筋肉をなんたら……などという技が簡単にできようはずもない。

 次々に膨らむ恐ろしい想像。

 恐怖からか便意を催す金平。

「お、俺、取ってきます!!」

 それ以外、この危機を乗り切る術は無いように思えた。

 ハマーのヘッドライトに照らされた、遠くで手を振る三国の手の中には、アルミ製のタブレットケースが握られている。撮影に夢中で、完全に薬の存在を三国自身忘れていたようだ。

 あれを手に入れなければならない。

 三国がハマーの陰から動こうとする気配は皆無だった。

 金平が駆け出したその時──。

 ちょうど金平達がいる地点と、ハマーが停車している地点の中間。そこから白い光が溢れ始める。

「!?」

 駆け出した金平が、足をつっかい棒のようにして立ち止まる。七色の光が地面から溢れだし、もう一体アザラシ型のSEが現れたのだ。

「新種のSEが二体!?」

 思わず我を失う社長。

 遠くから三国の黄色い悲鳴が聞こえ、腰を抜かした姿勢で慌ててハマーに乗り込む姿が見えた。

 ハマーのタイヤから猛然と砂煙が上がり、さらに100メートル程離れていく。もはや金平達からは米粒ほどにしか見えない。

「ちょ、ちょーっ!!」

 離れゆくハマーに向けて、手の平をクロールのように何度かかくと、絶望に似た声をあげる金平だった。社長とチャック、ソフィが、一体目に現れたアザラシ型SEへ体を向けている。みんなと背中を合わせながら、金平が二体目の方向へ。

 挟撃される形になってしまった。

 薬どころの話ではない。

「金ちゃん、覚悟決めなさい。相手から攻撃を受けたら、とにかくその部位に力を入れて精神を集中するのよ」

 金平と背中合わせの社長が、黒光丸・Sサイズを構えながら言い放つ。

「は、はい!!」

 もはや戦う以外オカマ化を避ける方法は無いと悟った金平は、覚悟を決めた。

 両手に構えた黒光丸を横にする。

 次第にSEが距離を詰め始めた。相変わらず表情は愛くるしいままだが、ふわふわと不気味な気配を漂わせ、美しい光を放っている。

「チャック、あんたは金ちゃんと向こうの相手しなさい!!私は最初に出てきた奴をソフィと殺るから!!」

 ギラギラした目付きでチャックに指示する社長。

「イェッサー!!」

 声を上げてチャックが答える。

 それを合図に、最初に動き出したのはチャックだった。

「ウォーッ!!」

 猛獣さながらの咆哮を上げると、猪突猛進に駆け出す。地鳴りを伴いながら、アザラシ型SEに飛び掛かっていく。

「死ニクサレヤー!!」

 普段の温厚なチャックからは想像もつかない罵声を吐くと、大リーグの投手のように右腕を振りかぶり、驚異的な速さで拳を打ち込んだ。

 恐ろしい膂力(りょりょく)による拳圧が空気を引き裂き、SEの右頬とおぼしき部分にめり込む。

「!?」

 あっけにとられた金平の目前で、一撃のうちに勝利を収めたかに見えたチャックだったが、その左頬に異変が。

 チャックの打ち込みと同時に、アザラシ型SEもヒレを拳大に握ると、一瞬のうちにチャックの頬に叩きこんだのだ。

「チャ、チャック!!」

 身動きできない金平。

 クロスカウンター。

 お互いの顔面に拳が打ち込まれた。

 ギリギリと互いの筋肉を鳴らしながら、微動だにしない。両者の鋭い眼光が、数センチの距離で火花を散らしていた。

 だが、そこからが凄かった。

 チャックは打ち込まれた攻撃をものともせず、更に振りかぶると、その姿勢のまま餅つきするかのごとく連打を打ち込んだのだ。

「ホオアタッ!!オアタッ!!オアタッ!!!」

 テンションMAXのチャックは、意味不明な怒声を放つ。<撲殺太郎>が仄かな輝きを放って尾を引きながら 、SEの顔面に幾度も叩きこまれた。

 次第に変形していくSEの顔。

 もはや愛くるしいアザラシの顔はそこになく、険しい悪鬼の表情に変貌している。

 だがSEも黙っていない。

 チャックを真似て、自らも拳の連打をチャックの頬めがけて打ち込み始めたのだ。

「キューッ!!キューッ!!キューッ!!」

 金属音に似た奇怪な鳴き声を発し、猛烈な連打をチャックの顔めがけて打ち込む。互いに一歩も譲らず、直立したままド突き合う両者。

 サンドバックを殴るかのような鈍い音が、埋め立て地にこだまする。

「ンゴーッ!!」

 猛牛さながらの鼻息を吹き出すと、チャックの背筋が異様な隆起を見せて更なる力を絞りだした。

 もはやその様は、筋肉と言う名の嵐。

 筋肉と言う名の暴力。

 筋肉と言う名の文明開化。

 そんな竜巻と見紛う両者の殴打の渦を、背後から盗人的に身を屈め、こそこそと回りこんだ金平が思い切り振りかぶると、親の仇のように黒光丸を叩きこむ。

「こんのぉっ!!」

 アザラシの腰めがけて切り込んだが、その瞬間、アザラシの脚ヒレが凄まじい速さで金平に襲いかかった。

「おわっ!?」

 咄嗟に切り込んだ黒光丸を楯代わりにして、防御の姿勢をとる。猛烈な脚力で黒光丸に蹴りが見舞われた。2メートル程ぶっ飛び、金平はゴロゴロと砂地に転がった。その間も、間断無くアザラシ型SEとチャックのド突き合いが続く。チャックの顔面が次第に腫れあがっていき、頬や唇がパンパンになっている。

 アザラシ型SEの顔は、撲殺太郎の威力のせいか所々陥没し始めていた。

 

 その頃、最初に現れたSEと、社長、ソフィも戦闘に入っていた。

「モキューッ!!」

 巨大な脚ヒレを回転させて、鳴き声のような金きり音を上げながら、SEが社長の後頭部を蹴り飛ばそうとする。

 LEDと見紛う鮮やかな光彩が、社長の持つ黒光丸Sサイズに反射した。

 あわや直撃かと思った刹那、不自然な程上半身を後方に仰け反らせ、SEの蹴りをスウェーする社長。回転蹴りが不発に終わったSEが、慌てて上体を起こそうとする瞬間、社長が両手に持った黒光丸を滑らかな軌道でSEの首元、心臓の位置めがけ切り込む。逆手に持った右手の黒光丸が曲線を描き首元へ。一気に回転すると、その勢いのまま、バックブローの動きで左手の黒光丸が心臓に突き刺さる。

「キューッ!!」

 常人ならば一瞬で絶命するであろう。

 傷口から水に似た無色透明の液体を噴き出すSEだったが、怯むことなく社長に覆いかぶさるように飛び掛かる。

「しつこい男は嫌い……よっ!!」

 気合い一閃、さらに両手の黒光丸を突き立てようとした瞬間。SEの脚ヒレが自らの体の死角から地面スレスレに、社長の足を()ぎ払った。 両足を綺麗に払われた社長は、たまらず横倒しになる。

「しまっ……」

 倒れた社長めがけSEの両拳が、駄々っ子パンチ的に振り下ろされた。

その刹那……。

「ハッ!!」

 透き通る、だが芯のある声が響くと同時に、ソフィがSEのわき腹めがけ、三段突きを放った。闇夜を裂きながら、ソフィの拳の撲殺太郎から、目映い輝きが、一つ、二つ、三つと放たれる。

「ギュッ!?」

 よろめくSE。

 捻りこんだ打撃の跡が三ヶ所、くっきりと拳の形で残っている。

 その隙に、ブリッジの姿勢から跳ね起きつつ、その反動を利用して蹴りを放つ社長。ソフィの三段突きによるダメージで、ぐらぐらとよろめいたSEの顔面に叩きこまれた。顔を苦悶の表情に歪めながら、仰向けに倒れるSE。土埃が立つ中、SEのすぐ隣に着地すると、斜めに前転して受け身をとり、距離を取る。

「ソフィ、ナイスアシストよ」

 ソフィの脇へ、静かに立ち上がりながら社長が笑みを浮かべる。

「油断しないで!!」

 ほんの数分前とは別人の、厳しい表情を浮かべるソフィ。

 ゆらりと虹色の光を放ちながら、アザラシ型SEが起き上がってきた。

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