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イナバ家の超天才令嬢。万策尽きた魔導炉

実家のタコ足配線どもをアース一本で自滅させたコウノス。

再び訪れた「室温24度・湿度45%」の平穏な聖域に、今度は帝国最高峰の技術貴族『イナバ公爵家』の超天才令嬢、アイリスが調査へ訪れる。

彼女は周囲からの過剰な期待(過負荷)というノイズに晒され、今にも心がショート寸前の孤独な天才だった。

アイリスが持ち込んだ、世界の誰も直せず暴走を続ける古代の魔導炉。

陰キャ職人コウノスは、傷ついたその回路に静かにはんだごてを差し向ける――。

「……ふぅ。やっぱり、ノイズのいない部屋で飲む冷たい麦茶は最高だな」

兄のレジスたちがケツを爆破させて逃げ帰った翌日。

俺はいつも通り、パイプ椅子に深く腰掛けてジャンクの仕分けをしていた。

「はい、マスター! 今日の麦茶は、私が最適なトルク(力加減)で大麦を焙煎しておきました! 周波数、完璧です!」

「いや、麦茶に周波数とかないから。でも香ばしくて美味しいよ、ありがとうリィン」

マキータ(回転魔槍)を愛おしそうに磨きながら胸を張るリィン。すっかり我が家の優秀なライン工(同居人)だ。

エアコンの効いた静かな部屋。これこそが僕の求めていた定格出力の丁寧な暮らし――。

カツン、カツン。

その静寂を破り、シェルターの入り口に、驚くほど洗練された足音が響いた。

レジスたちのような、バリバリと火花を散らす下品な魔力ノイズではない。だが、極限まで圧縮された、あまりにも高密度で「重い」魔力の気配。

現れたのは、息を呑むほど美しい、黒髪の少女だった。

帝国軍の特注と思われる、仕立ての良い白銀の技術礼装。その胸元には、帝国最高の技術貴族『イナバ公爵家』の紋章が輝いている。

アイリス・フォン・イナバ。

十五歳にして国中の魔導回路を設計していると噂される、帝国最高の超天才令嬢だ。

だが、俺のプロの目(ジャンク屋)は見逃さなかった。

彼女の美しい横顔は酷く青白く、その瞳の奥には、今にも焼き切れそうなほど張り詰めた――**『深刻な金属疲労(メンタル崩壊)』**のスピンドル(軸)が見えた。

「……あなたが、マツシーータ家を追放された『5Wの無能』コウノスね」

アイリスは凛とした声を響かせたが、その声は微かに震えていた。

彼女の後ろには、数人がかりで運んできたらしい、禍々しい文様が刻まれた金属製の立方体が置かれている。超古代の遺物――『高出力魔導炉』だ。内部から、ドクンドクンと、不規則で危険な熱量の駆動音が漏れている。

「レジス卿から報告を受けたわ。死の大地で、10万Wの雷撃を消滅させる不届きな妖術師がいると。……でも、私の目は誤魔化せない。この部屋の異常なまでの『静寂』と『心地よさ』。あなた、ただの無能じゃないわね?」

「あ、いや……ただのジャンク屋ですけど。陰キャの。できれば関わらないでほしいです」

俺は椅子の位置を少しずらし、彼女と視線を外した。眩しい。技術エリートのオーラが眩しすぎて、僕の引きこもりメンタルに負荷ストレスがかかる。

「フン、隠しても無駄よ。……なら、これを見なさい!」

アイリスは背後の立方体を指差した。

その瞬間、魔導炉の隙間から、赤い過熱光ノイズが激しく漏れ出した。シェルター内の温度が急上昇し始める。

「これは、我がイナバ家が総力を挙げて発掘した、超古代の『ギガワット級魔導炉』のコアよ。……現在、原因不明のバグ(熱暴走)を起こしているわ。帝国のあらゆる高出力技師が数万Wの魔力を注ぎ込んでも、制御を拒絶し、あと数時間でこの大地ごと大爆発を起こす」

アイリスは拳を握り締め、自分自身に言い聞かせるように叫んだ。

「私は、帝国最高の天才。イナバ家の名を背負う者! 周囲からは『アイリス様なら一瞬で直せる』『失敗など許されない』と言われているわ! だから……だから私は、この暴走を止めなきゃいけないの! なのに、構造が、数式が、高出力の魔力が……どうしても、噛み合わない……っ!」

彼女の身体が、小刻みに震え出す。

その姿を見て、俺は小さく溜息をついた。

(あぁ……可哀想に。こいつも『過負荷オーバーロード』の被害者だ)

周りの人間が「天才だ」「次も成功して当たり前だ」と、彼女という貧弱な基盤(十五歳の少女)に対して、限界値(定格)を超えた期待という名の高電圧をドバドバと注ぎ込み続けているのだ。

だから、彼女の心(回路)は今、負荷に耐えかねてショート寸前。パニックを起こして、目の前の機械の本当の「悲鳴」が聞こえなくなっている。

「……あのさ。イナバの令嬢」

俺はボソボソと早口で呟きながら、作業机から立ち上がった。

「そんなに肩肘張って高電圧プライドかけてたら、自分の回路が先に焼き切れるよ。……ちょっと、そのクソ設計の箱、見せて」

「な、何よクソ設計って!? これは超古代の最高出力を誇る――」

最高出力パワーしか見てないから、直せないんだよ」

俺はアイリスを軽く押し退け、暴走する魔導炉の前にしゃがみ込んだ。

懐から取り出したのは、いつもの相棒、5Wの魔力で駆動する【はんだごて】だ。

「イナバの令嬢。君は、この箱がなんで怒ってる(暴走してる)か、本当に分からないの?」

「え……?」

「これ、ただの『冷却ファンのハンダクラック(接触不良)』だよ。冷やすためのファンが回ってないから、熱がこもってバグを吐いてるだけ。そんな所に、国中の技師たちが『もっと出力パワーを上げれば直るはずだ!』なんて数万Wの魔力を注ぎ込んだら、余計に熱くなって暴走するに決まってるじゃん。バカなのかな、帝国の技師って」

「え、あ……冷却、ファン……? ハンダ……?」

アイリスが呆然と目を見開く。

「職人の前で、万策尽きたみたいなツラすんなよ。……リィン、マキータ持ってきて。側面の外殻ビスを外すよ。トルクは『3』で優しくね」

「御意に、マスター!」

追放された5Wの陰キャ職人と、その回路に狂信的なエルフの少女。

帝国の超天才令嬢が「万策尽きた」と絶望した国家崩壊級の災害(魔導炉)を前に、俺はただの『型落ちの扇風機』を直すような手付きで、静かにはんだごてを突き立てた。

(第7話へ続く)

第6話をお読みいただき、ありがとうございました!

帝国トップの天才令嬢アイリスちゃんが登場しましたが、彼女もまた異世界の「高出力至上主義」のせいで、心も魔導炉もオーバーヒート寸前でした。

コウノスから見れば、国家転覆級の暴走炉も「扇風機の接触不良」と同レベル。次回第7話は、コウノスがアイリスちゃんの手を掴み、ガチの技術者としての魂(松下幸之助の精神)を叩き込む、熱すぎる職人デバッグ回です!

おかげさまで、皆様の熱い送電(応援)により、当作品の回路(PV)も無事に駆動を始めました! ありがとうございます!

「アイリスちゃんを早く救ってあげて!」「はんだごて無双最高!」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや星評価での応援をよろしくお願いいたします!


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